57話 揺れる心
「まずは心よりお詫び申し上げます」
ロボに連れられたこの村で一番大きな教会のような場所で、ラージャとその他の生還を果たした村人たちから謝罪を受けた。
その場にはラーバとサーシャの姿もあったが2人とも気まずそうな表情を浮かべている。
別に気にしなくてもいいのに。
と言うより、何と思われていようが構わないので今はとにかく俺に割り当てられたあの魔王城の一室に帰りたい。
「ロボ様とサーシャ様からは事情を伺いました。まさかサーシャ様の護衛依頼を放棄してまで我々を助けに来ていただいていたとは。にもかかわらずに我々は……」
俺は謝罪など求めていない。
彼女たちが俺に対してどんな言葉を投げかけようが、どんな態度をとろうがどうでもいいし今回の救出もサーシャの、さらにはヴェリルの俺に対する覚えを少しでもよくするためにやった事だ。
そんなことよりも当初の目的通りタイラントバジリスクの討伐に出た村人たちの救出を果たした今、次の目的であるサーシャの護衛に戻り早く町に帰りたい。
行商目的でこの村を訪れたが、今の村の惨状を見ればまともな商いなどできない事は明らかだ。
いやそもそも1度サーシャの護衛を放棄した俺がそんな都合良く元の仕事に戻る事ができるのだろうか。
『……このことはお母様に報告させていただきますので』
村を飛び出す際に彼女から投げかけられた言葉を思い出す。
やっぱり無理かもしれない。
「ラージャ様、そろそろ本題に移ってはいかがでしょうか?ディアボロ様にはこの後、サーシャ様の護衛として彼女を無事町に送り届けるという仕事が待っていますので」
「っ、これは申し訳ありません!」
あれ?俺、護衛に戻ってもいいのか?
もしかしたら俺が村人の救出に向かった後にロボがサーシャに何かしらのフォローを入れてくれたのかもしれない。
本当に有能だなロボさん。
俺とは大違いだ。
心の中で彼女を賞賛しながらサーシャに目を向けると、すぐに逸らされてしまった。
ロボさん?
いや、とりあえずラージャからの話が終わったらすぐにサーシャに謝罪と依頼の再開をお願いしてみよう。
というか一応表に出せない彼女の意向に沿った行動をとったつもりだったのだが、彼女の機嫌は直っていないようだ。
まずい、このままでは命がけで余計な事をしたうえに『ヴェノム商会』を敵に回すという最悪の状況に陥りかねない。
にしてもロボにしては珍しく機嫌が悪いように見える。
彼女が人の話を遮るところなど初めて見た。
あまりにも俺が勝手な事をするものだからいよいよ堪忍袋の緒が切れたのだろうか。
「それではカムイの村の今後についてお話させていただきます。まずはサーシャ様。町より遠路はるばる来て頂いたところ申し訳ありませんが、今のこの村の状況ではまともに持ってきていただいた商品を買い取る事はできません。それよりも先に村の建物の修繕や食糧の補充にお金を回さなければなりませんので……、本当に申し訳ありません」
「いえ、それは仕方の無い事ですわ。今回の出来事に関しては本当にご愁傷様でした」
「ですが、もしサーシャ様さえよろしければ今回持ってきていただいた商品の分を後払いにしていただければ何とか……」
「後払いとは言い方を変えれば借金ですわ。このような状況のあなた方に借金を背負わせる事はできません。今回の行商を無駄にすまいとするラージャ様のお気持ちは嬉しいのですが、その提案はお受けできません」
このような状況においてもサーシャはしっかりしている。
同情から『お代は結構ですので商品はただで差し上げます』などと言わないあたり、ヴェリルから商人としての教育をしっかり受けていたのだろう。
それでありながら自分にとっては有益でも現在余裕の無い相手にとっては不利益になるような条件は、相手から提示されても断るといった情も見せている。
しかし彼女の表情からは迷いが見える。
彼女とて私人としてはこの村を救いたいのだろうが、商人としてはここで甘さを見せてはいけないと理解しているのだろう。
ここで彼女が無償の支援を行えば、他の場所で同じような事が起きた際に同様のことを求められるだろう。
それを断れば『何故だ?あの時はカムイの村を助けたではないか』などと言われかねない。
まさか『親友のいる村だから』などとは言えまい。
「そう、ですか……」
「ですがお金さえ用意していただければ建物を修繕する資材や職人、食料などの手配はいたしますわ」
「『ヴェリル商会』にお任せできるのであれば安心ですね。ただ村にあった硬貨や出荷予定だった鉱石は連中に食い荒らされてしまったので、お金を用意できるのはもう少し先になると思いますが…」
「構いませんわ、準備だけはしておきますのでお金の用意ができたら声をかけてくださいまし」
実際に被害を受けた村の村長であるラージャよりもサーシャの表情のほうが暗い。
その気になれば支援できるだけの力がありながら、自分の立場上それができない事が歯がゆいのかもしれない。
仕方ない、仕方ない事なのだ。
そんな中、教会の扉が勢いよく開け放たれ息を切らしたドワーフの女性が一人入ってきた。
どうやらこの場にこの村の大人全員がいた訳では無いらしい。
「村長!!」
「客人の前だ!失礼だぞ!!」
走りよって来た女性を怒鳴りつけるラージャだったが、次の言葉を聞いて周囲の村人と共に顔を真っ青にした。
「村に隠していた採掘道具が全部食い荒らされてた!森のあちこちに隠してた物も全部やられてる!」
「なっ……」
現実はどこまでも彼女たちを追い詰めるつもりらしい。




