55話 制裁
「それは、本当に申し訳ありませんでした。俺が無知なばかりにあなた方を軽んじてしまいました」
まずは謝罪を。
というか完全に初耳である。
サーシャも行商に向かう先がどのような特徴のある村なのか、教えてくれても良かったのではないだろうか。
とはいえ、今この場にいない者を責めても仕方ない。
そもそも完全にお門違いである。
悪いのはカムイの村に関する知識をろくに持たないまま、思い込みだけで話を進めた俺の方だ。
「その様子だと、本当に知らなかったようですね」
内心狼狽する俺に対して、ラージャが初めて笑みを浮かべた。
苦笑いだが。
「俺が知らないふりをしているとは考えないのか?」
「そこから疑い始めていては堂々巡りになってしまいます。それにもしあなたがカムイの村がヘルへヴンの中でも有数の鉱石の生産地だと知っていたのならば、あの場で我々を見殺しにしていたほうが良かったのでは?」
なるほど、確かに彼女の言うとおりだ。
俺の狙いがカムイの村の住人だけが知る魔道具や伝説級の装備であれば、彼女らを助けたふりをし信頼を得てからその情報を引き出すと言う事も考えられるが村が所有する鉱山が狙いなら村人を生かしておく理由など無い。
むしろあの場で全員見殺しにしてしまったほうが都合が良い。
村に残った子供たちには残念ながら間に合わなかったとでも言えばいいのだ。
彼女らに真実を知る術はないのだから。
「『この国で鉱石と言えばカムイの村』と言えるほどの自信はあったのですが……」
「その点に関しては本当に申し訳ない。話を聞く限り、村の知名度が低いのではなく、単に俺が無知なだけなのだろう」
いや本当に申し訳ない。
今後は今まで以上に積極的に情報収集に取り掛かるとしよう。
俺の行動範囲は基本的に魔王から宛がわれた魔王城の一室なので情報の入手経路が非常に限定されている。
図書館のような場所があればいいのだが、そこまでの自由を上が許すだろうか。
ダメもとでロボに聞いてみよう。
彼女の本来の仕事は俺の監視なのでどの程度の情報収集が許されるのかは聞けば分かるはずだ。
さすがに魔王軍内の情報は教えられないにしても、せめて簡単な世情や常識的な話題くらいは把握しておきたい。
町で新聞などが発行されていればそれを読むのもいいかもしれない。
「この国には新聞はあるのか?」
「はい、人族との戦争の戦況、『境界の森』内のモンスターに関する注意喚起、魔王様から出された新しい政策などの特に大きな現在の情報を得るならば新聞。過去の出来事が知りたければ図書館。もっと身近な世間話程度の情報を得たければ町の人々に実際聞くのが手っ取り早いと思います」
どうやらラージャは無知な俺に気を利かせてくれたようだ。
情けない話だが、俺はまずこの国の常識的なレベルの情報から収集に取り掛かる必要がありそうだ。
しかし新聞、図書館、はまだいいのだが、町の人々に直接聞くとは彼女もなかなか酷な事を言ってくれる。
その表情を見る限り悪気は無いのだろうが、自分が俺に向けている感情を理解していれば自身の言った事が俺にとってどれほど難しい事なのか分かりそうな物なのだが。
「おいお前、さっきから随分馴れ馴れしいぞ。何か勘違いしてるんじゃないか?」
俺が頭を悩ませていると、背後から着いてきていた村人の一人に声をかけられた。
タイラントバジリスク討伐時にやたらと噛み付いてきた女だ。
面倒なのでできれば相手にしたくないのだが、ここまで来て機嫌を損ねて集団から離れられても困る。
「おい」
「村ちょッ……!!」
俺が口を開く前にラージャがその村人の横っ面を腰に差していた鉈の柄で思い切り殴りつけた。
予想外の攻撃に道の脇に生えた樹木まで吹っ飛ばされた村人は、恐れからか骨を砕かれたか、顎をガタガタ言わせて言葉を発せずにいる。
「村人同士の会話であれば無粋な割り込みもある程度は許容する。だが今わたしが話しているのはカムイの村の者ではない。あの六英雄だ。いくらお前でも六英雄の名前くらいは聞いたことがあるよな?」
「が、でず、そいづ、かにぜも……か」
殴り飛ばされた村人は必死に言葉を紡ごうとするが、顎が砕かれただけでなく舌まで損傷したのか何が言いたいのか全く聞き取れない。
なんとなく言いたいことは分かるが。
そんな彼女にラージャは大股でずんずん近づいていく。
いつの間にか他の村人たちも足を止めていた。
「『彼が本物である保証はどこにもない』とでも言いたげだな?確かに彼には悪いが、未だに彼が本物だと言う確証はない。なら彼が本物の六英雄だとしたらどうする?お前の不用意な態度が、六英雄の怒りを買えばどうなるのか馬鹿なお前では想像できなかったのか?」
「ッか、……ッ」
怯えてもはや声もだせなくなった村人の様子など気にも留めず、ラージャは鉈を鞘から抜く。
「せっかく拾った命、お前一人の愚行のせいで無駄にされては困る」
「何をしようとしている?」
そろそろ本気でやばそうなので止めに入る。
本来であれば静観するのだが、今回はそうはできない事情がある。
ここで彼女がラージャに殺されでもしたらそのことを他の村人から聞いたサーシャに何と言われるかわかったものではないからな。
『私の護衛を放棄してまで村人の救援に向かったはずなのに彼女が殺されるのを暢気に見過ごしたのか?』などと言われかねない。
「失礼ながら我々には我々のやり方があります。余計な口出しは控えていただきたい」
口調は丁寧なままだがあまりの威圧感に引き下がりそうになる。
村長が出していい威圧感じゃないでしょ。
元軍人とかじゃないのかこの女。
「わざわざ駆けつけてタイラントバジリスクから救出した命をこんな帰りの道中に、しかも同じ村人に奪われてはたまった物ではない。俺はそんなものを見るために戦っていた訳では無いぞ」
そう言って俺は未だに言葉も話せない村人の頭からポーションをぶっかけた。
「今回はディアボロさんに免じて許すが次は無いぞ。お前の行動一つで他の村人にも被害が及ぶ可能性も考えろ。お前一人で生きている訳では無いんだぞ」
傷がどんどん治っていくのを見て、ラージャはため息をついてから隊列に戻っていった。
傷が治っても足元の村人は未だガチガチ震えていた。
そりゃ震えるわ。
俺だって怖いもん。
ただ、戻り際のラージャの手に俺が使っているものよりも効果は落ちるがそこそこ上等なポーションが握られていたため、もとより彼女の傷を治すこと前提に殴り飛ばしたような気がする。
自分が先に手を出す事で俺の怒りを霧散させようとしたのかもしれない。
とりあえず俺はもう道中何も起きない事を祈って村に帰る道に戻った。




