54話 読み違い
「……申し訳ありません、ディアボロ様。ありがとうございます」
「俺が勝手にやった事だ。あと様はいらない」
カムイの村に向かう道中、隣を並んで歩くラージャから亡くなった村人たちの遺体を回収したことについて、困惑気味に礼を言われたが別に善意からやった事ではないので少し心苦しい。
後ろから付いてくる村人たちの顔には悲しみ、困惑、怒り、疲労など、様々な負の感情が浮かび上がっていた。
討伐に向かった村人たちのうち、俺が辿り着いたときには約2割ほどが既に息絶えていた。
タイラントバジリスクの目的が『狩り』と『遊び』であり『殺し』自体が目的ではなかったとはいえ、よく死者をその数まで抑えられたものだ。
だが2割は死んだのだ。
いくら想定以上に彼女らが善戦したとは言え、2割の村人が死んだ事実は覆らない。
村にはその亡くなった者たちの帰りを待っている子供たちもいるかもしれない。
そう思うと足取りが重くなる。
「ではディアボロさん、一つお聞かせください。何故人族であるあなたが魔王軍の味方を?」
なるほど。
どうやらラージャは村までの移動時間を利用して俺の情報を引き出そうとしているようだ。
俺に話しかけながらも周囲への注意は怠っていないようなので、俺も可能な限り彼女の質問には答えるようにしよう。
「俺が労力を提供する代わりに魔王から報酬を貰う契約を結んでいる。理由はそれだけだ」
「……人族との戦いは文字通り命がけです。あなたはその命がけの戦いに、お金のために参加するのですか?ましてあなたは人族です。ヘルへヴン側の戦力として、ファンタズムに敵対する事については何も思わないのですか?」
「別に。俺は金のために人族でありながら人族に敵対する。ファンタズムと敵対する事についても別に思うところはない」
「ソレは同族に対する裏切り行為にあたるのでは?」
ラージャが責めるような口調で述べた。
背後からも村人たちの非難の視線が突き刺さる。
理解に苦しむ。
一応形式上はお前らの味方だぞ俺。
が、気にしない。
「裏切り?意味が分からないな。俺はこの世界に来てすぐに魔王と契約を結んだが、それ以前はこの世界の人族とは会ったことも話したことも無い。だから最初から俺の中に自分がファンタズム側の人間だという認識は無い」
「随分、冷めた考え方をするのですね」
棘のある言い方をしてくれる。
「好きに言えばいい。そちらの俺に対する評価なんて興味も無い。何と思われようと今はあなたたちをカムイの村まで送り届け、サーシャ様を町まで無事帰せればそれでいい」
それで俺の仕事は終わるのだ。
サーシャの親友であるラーバの母親さえ連れ帰れば彼女の心象が悪くなる事は無いはずだ。
などと考えていたのだが、今自分がやっている事がサーシャの護衛依頼を放棄したことのマイナス分を補填するのに足りるのか不安になってきた。
村に戻って『私の護衛依頼を放棄してあなたが勝手にやったことでしょう?』などといわれてはここまでの俺の苦労が水の泡だ。
そういえば彼女、去り際に『……このことはお母様に報告させていただきますので』とか言っていなかったか?
俺の記憶違いであって欲しい。
今回の件が完全に俺の空回りで終わらない事を祈るばかりだ。
「私がこういう事を言うのもなんですが、あなたは我々から信用を得る気があるのですか?」
「ない」
『信用を得る』ということはあくまで彼女らに付いて来てもらうための手段でありそれ自体が目的ではない。
なので目的が果たせている現状、彼女らからの信用などどうでもいいのだ。
そんな長い付き合いになるとも思えないしな。
恐らく村に送り届ければもう二度と会うこともあるまい。
彼女たちは魔王軍でも冒険者でもない、あくまで一般市民なのだから。
「変に擦り寄ってこられるよりもマシだとは思いますけどね。魔族に擦り寄ってくる人族なんて聞いたこともありませんけども」
「疑ってもらうのは大いに結構だが、まず前提として俺があなたたちを騙すメリットなんてあるのか?」
「……」
「言い方は悪いがあなたたちはあくまでカムイの村の村人、ただの一般市民に過ぎない。魔王軍の幹部でもなければ第七段階冒険者でもない。人族である俺がわざわざ一人で赴き、騙す程の価値があなたたちにはあるのか?」
ラージャは閉口する。
背後の村人たちは怒り心頭といった様子だが、彼女だけは冷静に思考をめぐらせている様子だ。
俺は別に煽りたい訳では無い。
ただ、こんな場所でいきなり『やはりこんな奴など信じられない!』などと言って離れる輩が出られても困るので、俺がやっている事に説得力を持たせようとしたのだ。
信用しなくてもいいと思いながら不信を抱かせ過ぎて制御が効かなくなると言う展開だけは避けたい。
バランスが難しい。
それにしてもラージャは何を考えているのだろうか。
てっきり他の村人よりも冷静な彼女にはすぐに納得してもらえると思っていたのだが、これは予想外だ。
え、何かあるの?
もしかして俺が知らないと言うだけでカムイの村はヘルへヴンにとってはかなりの要所だったりするのだろうか。
だとしたら俺は今とても失礼な事を言ってしまったのでは?
「カムイの村はダマスカスやマラカイトなど、様々な希少鉱物が取れる鉱山を所有しています」
焦る俺にラージャが無慈悲に告げた。




