53話 説得
「まずは、こちらの話を、冷静に聞いていただきたい」
俺はラージャの上から体をどけて努めて冷静に、ゆっくりと、未だに荒い息を吐く彼女に話しかけた。
体が自由になった彼女は素早く俺のもとから飛びのき、俺から距離を取る。
「まずは自己紹介を。俺はファンタズム六英雄が一人『黒曜の英雄』ディアボロ。魔王レイラ・ヘルへヴンによって異世界よりこの国に召喚された」
「魔王様が……?」
息を整え幾分冷静さを取り戻したラージャは困惑した様子だ。
カムイの村は『境界の森』内部にあるため城下町とは違い、俺の情報がまだ回って来ていない可能性を考えての自己紹介だったがどうやら当たりのようだ。
「俺もまだ異世界から召喚されて間もないので完全に事情を把握している訳では無いが、魔王は俺を人族との戦争に参加させるためヘルへヴン側の戦力として召喚したそうだ」
「人族が、我々魔族の味方を?」
「……そういうことになるな」
一瞬『今のところは』とか余計な事を言いそうになったがとっさに止める事が出来た。
含みを持たせるような言い方をしてどうする。
今の俺の目的は彼女らに自分は敵ではないと証明する事だろうが。
「村長騙されてはなりません!」
こちらの様子を伺っていた村人の一人が割り込んでくる。
「人族が魔族の味方をするなど聞いたこともありません!第一魔王様が、ヘルへヴンの王がいくら我々魔族が窮地に追い詰められているとはいえ人族の英雄なんぞの力を借りるわけがないでしょう!?」
めっちゃ言われてるぞ魔王様。
これ俺が話しているのが本当のことだって分かったらどうなるんだろう?
反乱とか起きないか?
にしても余計な事を言ってくれたなこの女、一度は静まりかけていた村人たちの怒気がまた膨れ上がってきている。
「黙れ、口が過ぎるぞ」
ラージャが割り込んできた村人を窘める。
それから彼女は一つ、大きく深呼吸をしてから俺とまっすぐ視線を合わせてきた。
頼むぞ村長、お前が冷静でいてくれないと先に進めない。
「話の腰を折って申し訳ない、だがまず、『娘は無事だ』とはどういう意味なのか教えていただきたい」
「俺はヴェノム商会のヴェリル様より、サーシャ様の行商の護衛としてカムイの村を訪れた。そこであなたの娘から事情を聞き救援に来た次第だ。もちろん現在別の者が村と子供たちを護衛している」
「……今あなたが話した事が事実だと、証明できる物はありますか?」
やはりそう来るか。
冷静に話を聞いてくれるのはいいが、冷静になった分警戒心も高くなっている。
人族と魔族の間にある深い溝には悩まされっぱなしだ。
さてどうしたものか。
「ほら見ろ!口からでまかせを」
「黙れ、何度も同じことを言わせるな。殺すぞ」
面倒な村人を黙らせてくれるのはいいんだが滅茶苦茶怖いなこの女。
顔立ちが整っているから余計に凄みを感じるのかもしれない。
そこで俺はロボから預かっていた『銀狼の笛』をアイテムボックスから取り出す。
彼女はヘルへヴンの冒険者の頂点に君臨する第七段階冒険者だ、彼女の存在がもしかすると彼女らの不信を和らげる事につながるかもしれない。
「魔王は世話役としてロボを俺に預けた。今回の護衛の依頼には彼女も同行しており、今は彼女がカムイの村を守っている」
「ロボとは、あの『孤狼王』ですか?」
「そうだ」
よかった、彼女らもロボのことは知っていたようだ。
さすがは第七段階冒険者、知名度が違う。
ここで『誰それ?』なんて言われていたらいよいよ打つ手がなくなるところだった。
ありがとうロボ、やっぱり俺はお前がいないと駄目みたい。
「確かに彼女がいるのであれば村は安全でしょうが、それは先ほどの話の証明にはならないと思いますが?」
「もっともだ。ただ随分と村の様子を気にしていたようだったからロボの存在は先に伝えたほうが良いと考えただけだ。これを見ろ」
俺はロボから受け取った『銀狼の笛』をラージャに見せる。
「これはロボから預かった『銀狼の笛』というアイテムだ。彼女の話ではこの笛を吹けば即座に俺の位置と状態が把握でき、すぐに飛んで来るそうだ」
「見せていただいても?」
俺はロボから受け取った『銀狼の笛』をラージャに放る。
一応貴重な物らしいのであまり粗雑な扱いはしたくないのだが、今の状態では彼女に近づくのも難しいのでこの手段をとらせてもらった。
触った感じかなり硬かったので、たとえ地面に落ちたとしても壊れたりはしないだろう。
俺が投げたソレをラージャがしっかり受け取ったのを確認して安堵する。
「これは、確かに……」
「なんなら吹いてみても構わない。ただ彼女がこちらに来てもあなたたちが困るのでは?今カムイの村にいるのは子供たち以外に行商に来たサーシャ様とその補助が2人、それとロボだけだ。ロボがこちらに来れば、我々が戻るまで誰が村を守る?」
「……」
ラージャが黙り込む。
先ほどまで騒がしかった村人も口こそ出さない物のものすごい形相で俺を睨み付けている。
村長怖いもんね。
俺も怖い。
少し卑怯な気もするが俺が彼女らの敵ではない事を証明するにはもはやこの方法しか思いつかない。
俺としてもロボには村を放ってまでこちらには来て欲しくない。
俺が受けた依頼はサーシャの護衛だ。
ロボが村を離れている間に彼女に何かあっては目も当てられない。
「……」
ラージャは俺と村人に交互に視線を向けながら逡巡している。
頼む。
信じなくてもいいからとりあえず村まで着いて来てくれ。
これ以上敵対されてはいよいよ殺すしかなくなる。
「分かりました。我々を村まで、連れて行っていただけますか?」
「了解した」
良かった。
ラージャは俺のことを信じてはいないものの、今は俺に従うしかないと判断したようだ。
それで良い。
腹の中で何を考えていようと、従ってくれるのなら十分だ。
後は彼女らを無事、カムイの村まで送り届けるだけ。
最後まで気を引き締めなければ。




