50話 悪食の園
「あれだけ偉そうな事を言っておきながら、既に全員タイラントバジリスクの腹の中だったら笑えないよな……」
サーシャらの前で大見得を切ったというのに、俺は今大きな不安を抱えていた。
森の中を駆け巡りながら周囲を探索する。
あたりには不快な香りが充満しており、それこそがまだこの付近にタイラントバジリスクが存在している証拠である。
とにかく今は何とか村人全員が無事であることを祈る。
最悪の事態を想定して魔力はできるだけ温存しておきたいが、出し惜しんだ結果彼女たちの救出に間に合わなくなるのは避けたい。
どうしたものか。
頭を悩ませる。
「この時間が惜しい」
俺は常時展開していたスキル【帝王の縄張り】を【反響定位】に切り替える。
最初にタイラントバジリスクが現れた時、あれだけ接近されていたのにもかかわらず、【帝王の縄張り】に反応は無かった。
恐らく、その理由は奴が地上ではなく地下にいたからだろう。
空間に魔力を漂わせる事ができる地上とは違い、地面という遮蔽物がある地下は魔力の浸透率が著しく落ちる。
完全に盲点だった。
無意識のうちに俺はまだゲームをプレイしていたときの感覚が抜けていないらしい。
思わず舌打ちしそうになりながらも【反響定位】の精度を上げていくと【帝王の縄張り】の範囲から僅かに離れた場所に微弱な複数の魔力反応を感じ取ることができた。
更にその周辺により精度を高めた魔力を送り込む事で、何とか地下にも大きな魔力の塊があることに気がつく。
当たりか?
少し安堵しながらもその反応がした方向へ全速力で向かう中、俺の頭の中にはある疑問が浮かんできた。
何故こんな村から離れた場所にいる?
彼女たちの目的はタイラントバジリスクの討伐、ではなく村を守る事だったはずだ。
討伐はあくまでその手段に過ぎない。
であればいくら討伐に向かったとはいえ、これほど村を離れる事などありえるのか?
遠くに行けば行くほど子供たちが危険に晒される時間も長くなってしまう。
俺が考え付く程度の事に村の長が気づかないとは到底思えない。
タイラントバジリスクが交戦後に彼女らを連れ去った?
理由として考えられるのはタイラントバジリスクより上位の存在による指示。
例えば、最高危険度である第七危険度のモンスターともなれば知能は他のモンスターとは比べ物にならないほど高く、他のモンスターを支配下に置くものもいた。
しかし、大人しく従うのは第四危険度のモンスターまでだ。
なぜなら高危険度のモンスターになればなるほど自分の強さに自信を持っているため、他のモンスターに従いにくくなる傾向があるからだ。
となれば第六危険度モンスターであるタイラントバジリスクがより上位の存在の指示を受けた線は考え難い。
とは言え、これも事前知識を基にした推測に過ぎないので可能性の一つとして保留しておこう。
もう一つはより現実的な、だからこそあまり考えたくない可能性。
目的地に近づき【反響定位】の精度が上がっていくにつれてその可能性はどんどん高まっていく。
地下にある魔力反応が複数存在する。
もう一つ考えられる理由は、『タイラントバジリスクが自分の子供のために餌を持ち帰った』というもの。
バジリスク種は自分の子供に狩りの方法を教えるために毒で少し弱らせた獲物を与える習性があり、突然変異種であるタイラントバジリスクもこの習性を引き継いでいる。
どうやらこちらが当たりのようだ。
村で討伐したタイラントバジリスクと比べて魔力反応がやけに大きいと思っていたのだが、納得の理由である。
奴らは番だったのか。
ただでさえ出現確率が極めて低い突然変異種のタイラントバジリスクに複数、番で、子持ちの状態で遭遇する事になるとは…。
己の運の悪さに吐き気すらこみ上げてくる。
とは言え、タイラントバジリスクはあくまで突然変異種なので普通その子供は通常のバジリスクだという点だけは俺にとっての安心材料だ。
そして俺はようやく探知した目的の場所に到着する。
そこは森の中でも比較的開けた場所で、いたるところに土の盛り上がりや巨大な穴が見受けられる。
その中心付近ではドワーフの女性の存在を数十人程確認できた。
肩で息をしている者、体の一部を欠損している者、武器を支えにしながら周囲を睨み付けている者、そして。
既に事切れて動かなくなった者。
『またお前は間に合わなかった』
心のどこかからそんな声が聞こえてくる。
静かに、大きく深呼吸をして自分の心臓付近を指で叩く。
昔からなにか大事な勝負事に望む際のルーティンワークのような物だ。
そうして荒れ狂う心の波を抑え付ける。
昔と違うのは一つだけ、失敗すれば誰かの命が消える事。
今は駄目だ、まだその時じゃない。
そう、自分に言い聞かせる。
まずは作戦を立てよう。
今あの広場の地下では彼女らを狙ったタイラントバジリスク共が蠢いている事だろう。
タイラントバジリスクほど圧倒的な強さを持っていないため、バジリスクは比較的警戒心が強い。
なので一体が顔を出したところを叩けば、親はともかく子は逃げ出すことは容易に想像できる。
「取り込め【|漆黒の監獄《ダークネスプリズン】」
少し強引だがスキルの範囲を地中にまで広げ、目視できないモンスターの群れを巨大なブラックホールに飲み込ませる。
対象はあくまでモンスターなので魔族である彼女らには影響はない。
モンスターを全て暗黒空間に飲み込んだところで魔力がゴッソリ削られる感覚に襲われた。
想定よりも消耗が激しい。
やはり【反響定位】では地中のモンスターの魔力を正確に測ることができずに実際の魔力との誤差が生じたようだ。
『その空間を維持している間は飲み込んだ相手の数、強さに応じて魔力を消費し続ける』
【漆黒の監獄】のデメリットを思い出し、嫌な予感を感じながらも彼女たちの頭上に『恵みの雨』を放り投げてから俺も連中に続いて巨大なブラックホールに飛び込んだ。




