48話 依頼放棄
「考え、というのは?」
俺のいきなりの発言にサーシャは困惑しているようだ。
恐らく俺が自分から何かを進言するような人物だとは思っていなかったのだろう。
大当たりだよ。
普段の俺なら絶対こんなことしないし、もうすでに余計な事をしたと後悔している。
だがもう後戻りはできない。
「救援を要請する前に、俺がタイラントバジリスクの討伐に向かった村の大人たちの様子を見てきましょう。その間あなたの護衛任務を一時的に放棄する事にはなりますが可能であれば許可をいただきたい。もちろん安全のためにあなたの護衛はロボに引き継いでもらいます」
「ディアボロ様、それは…」
「先ほど俺はこの村周辺にタイラントバジリスクが複数いる可能性について言及しましたが、現状討伐に出かけた村人たちの生存率はかなり低いでしょう。仮に俺の推測が当たっていたとしても相手は第六危険度のモンスター。軍人でも冒険者でもない村人が討伐する事は不可能です」
「ッ……」
俺の言葉にラーバとサーシャが顔を歪める。
「そんな状況で彼女たちがまだ生きているならば、事態は一刻を争います。町まで戻って救援を呼んでいる時間はありません」
「私が代わりに確認して参ります。ディアボロ様は御自分の立場をお考えください」
「考えたうえで提案している。俺は人族の英雄だ。そんな俺一人に『ヴェノム商会』の一人娘を任せていいのか?」
「それは」
「ヴェリルが今回依頼したのも、俺には必ず第七段階冒険者のお前が同行することを知っていたからだ。そうでもなければ俺なんかに大切な一人娘を預けるものかよ」
ヴェリルは俺を信用して今回の仕事を任せたのではない。
信用しているのはあくまで第七段階冒険者たる『孤狼王』ロボだ。
子供たちが俺に向ける視線にお前なら気がつくだろう。
皆ひどく怯えている。
そんな哀れな子供たちを俺に任せるなんてこと、お前にはできないよな。
「……わかりました」
「助かる」
何とかロボは折れてくれた。
あとはサーシャお前だけだ。
「それでは許可をいただけますか?サーシャ様」
「できませんわ」
意外にも彼女は俺の提案を蹴ろうとする。
何故だ、お前にとってこの状況は渡りに船だろう。
もう時間が無い事くらい、賢い彼女であれば理解しているはずだ。
「英雄様に今回依頼したのはあくまで『私の護衛』ですわ。タイラントバジリスクの討伐や村人の救出は契約の範囲外です。それに申し訳ありません、今回の依頼の一番の目的は英雄様を知る事でした。本来であれば簡単な依頼だったのです」
「何がおっしゃりたいのですか?」
「あなたは魔王様が召喚したファンタズム六英雄が一人『黒曜の英雄』。そんなあなたに何かあれば私たちは魔王様に合わせる顔がありません。ですので避けられるリスクは避けるべきです」
お前タイラントバジリスクの討伐方法に口出してきたじゃん……。
あれは避けられるリスクじゃなかったんですかね。
とはいえ、彼女ができれば俺の提案を受け入れたいのは顔を見れば一目瞭然だ。
サーシャ個人としては俺に行ってもらいたいが、『ヴェノム商会』代表の娘としては行かせられないといったところか。
何とか上手く説得したいが、口下手な俺では短時間で賢い彼女を言いくるめる事はできまい。
なので少し強引な方法をとらせてもらう。
「ではこれから私が行う事は、全て自己責任ということで処理してください」
「何を言っていますの!?」
「一応依頼主なので許可を求めましたが、もらえないのであれば仕方ありません。俺は俺で勝手に動かせてもらいます。そうすれば『ヴェノム商会』が魔王様からお咎めを受ける事もないでしょう。そのあたりはロボが証言してくれるはずです。そもそも今回の依頼も半ば強引な物でしたし、最初から乗り気ではなかったのです」
「つまり依頼を途中で放棄する、と?……『ヴェノム商会』を敵に回すおつもりですか?」
やはりそうなるか。
まぁ、代表自らの依頼を一方的に放棄なんてされたなどと言う噂が広まれば『ヴェノム商会』の面目丸つぶれだろう。
いや、そんな噂が広がることもそうだが一番の問題はヴェリルのプライドか?
非常に恐ろしいが今はそんな事も言っていられない。
「ロボ様からも何とか言ってください!」
お前、それはずるいだろ。
今の俺はなぜか決定権をロボに握られている節がある。
この短時間でそれを見抜くとはさすがだ。
しかしここでロボにサーシャの味方をされては予定が狂ってしまうので、必死に彼女が余計な事を言わないように念を送る。
「申し訳ありませんがそれはできかねます。そもそもディアボロ様が本気になれば私にも止める事はできません」
「そんな……」
どうやら俺の念が通じたようだ。
ありがとうロボ、やっぱりお前は最高だ。
たまには俺の味方になってくれる事もあるんだな。
少しは俺のことを信用してくれるようになったか。
今まで頭の中でボロクソ言ってきてごめんな。
珍しく思い通りに計画が進みそうになりテンションがおかしくなる。
「そのかわりこれをお持ちください」
「これは?」
彼女はアイテムボックスから小さな金属製の笛のような物を渡してきた。
何これ。
「これは『銀狼の笛』です。この笛を吹けば即座にあなたの位置と状態が把握できます。少しでも危険だと思ったらすぐにこれを吹いてください。何よりも優先してあなたのもとへ向かいます」
「いや、ロボにはこの村を」
「お忘れですか?私が魔王様から与えられた任務はあなたの世話役であってこの村を守る事ではありません」
俺は手渡された笛を見つめる。
吹くわけ無いだろ。
何のためにお前を村に残すと思ってんだよ、村見捨てて俺のところに来ちゃったら意味無いだろうが。
呆れながら村人に探索に出ようとする俺の腕をサーシャの尻尾が引っ張る。
「……このことはお母様に報告させていただきますので」
そこは見逃してくれよ。




