41話 探り
「まさか噂の英雄様に護衛をしてもらえるだなんて、夢のようですわ!」
「……」
俺は今、『境界の森』の中を数台の馬車と共に進んでいる。
さきほどから隣の馬車に乗った蛇娘が騒がしいが、もはや俺にはそんな事どうでも良かった。
ヴェリルから任された初めての仕事は、『境界の森』内部にある村へ行商に行くサーシャの護衛だ。
何でも彼女は幼い頃から『ヴェノム商会』代表であるヴェリルから直々に英才教育を施されているため、知識面では既に商会の店を1つ任せてもいいほどの水準なのだが経験が浅いため、今は各地で行商を行いながら商人としての経験を積んでいるそうだ。
普段はヘルへヴン内の町や村などを回っているそうだが、『商人たる物、危険な場所であってもそこに商機があるならば決して捕らえて逃すな』と言うヴェリルの教えにより今回は比較的危険な『境界の森』内部の村に向かう事になり、ちょうど良い護衛を探していたところに俺がのこのことやって来た。
完全に彼女の思いつきで仕事を与えられたという訳だ。
それにしてもいくら商人としての修行とはいえ、大事な一人娘をモンスターが跋扈する『境界の森』に送るか普通。
確かに今回向かう村は森の浅い場所に位置しているが、ここ最近の傾向からして高危険度のモンスターが現れる可能性も決してゼロではない。
正直俺は何かを守りながら戦う事に関しては絶望的に向いていない。
常に自分のことで精一杯だからだ。
サーシャが乗った物も含めて馬車は3台。
それに対して護衛は俺とその監視役のロボの2人だけで、あとはサーシャの補助に同行したエルフと猫人の2人。
ロボはいいとして、護衛対象は3人、さらに馬車の積荷も守らなくてはならない。
村に向かって歩を進めるごとに気が重くなっていく。
ロボは結局今回の話を
『『ヴェノム商会』と関係を持つ事は今後必ず役に立つでしょう。私も同行しますのでこの話、受けましょう』
などと言って俺の期待も虚しく受けてしまった。
そもそもなんで俺の行動の決定権を仮にも世話役であるロボが持ってるんだよ。
どう考えてもおかしいだろ。
「英雄様は随分と口数が少ないのですね。それとも緊張しているのかしら?心配しなくとも私、多少の粗相でお母様に報告するような事はしませんよ?」
「そうして頂けると助かります」
ついでに何を以ってして『粗相』とするのか教えていただけるともっと助かります。
まぁ、俺は母親のヴェリルも怖いが娘のお前も怖いがね。
一応相手が護衛対象だと言う事もあり敬語を使っている。
「それとも、口数が少ないのは私に余計な情報を漏らさないようにかしら?」
「ご想像にお任せします」
これである。
母に似て妙に鋭い。
ただの騒がしいお嬢様だと思って接していたら痛い目にあうだろう。
彼女の気持ち悪いほどの好意的な態度も疑わしい。
俺の油断を誘うにしても露骨過ぎる、そのあたりはやはり経験不足といったところか。
「私、英雄様のこともっと知りたいです!」
「知って面白い事など何もありませんよ。俺はつまらない男なので」
「それではまず始めに、好きな女性のタイプは?」
聞けよおい。
というか会って間もない相手に聞くことじゃないだろそれ。
あとさっきから俺の腕に尻尾を巻きつけてるのを止めろ。
3台の馬車のうち、サーシャが乗る真ん中の馬車の横を歩いているのだが、やたらとちょっかいをかけられている。
…これ、脈拍とか探ってるんじゃないだろうな。
「昔から女性は苦手でして」
「まぁ!それでは男性の方が恋愛対象ですの?」
「いえ」
「大丈夫ですわ!私、同性愛にも理解がありますし女性の間ではそれほど珍しい話ではありませんもの!」
「あの」
「ですが男性の数を考えると英雄様にとってその道はとても厳しい物になりますわ。今の時点で既に一人の男性を狙う女性はたくさんいますから。そこに割って入るとなれば…」
「…」
「それでも私は応援しますわ!!」
大丈夫かこの娘。
いや大丈夫じゃないなこの娘。
さっきからこっちの話をまるで聞かずに暴走している。
これがただ道化を演じているだけならばそれでいいが、これが素ならちょっと心配だぞ。
ヴェリル、お前の教育どうなってんの?
「期待に沿えず申し訳ありませんが、女性が苦手だからと言って俺の恋愛対象が男性という訳ではありません」
「そうなんですの?」
「はい」
そもそもこの世界に来てから男なんて一人も見ていない。
いや、この世界の男がみな小柄、華奢、中性的であることを考えると俺が気が付かなかっただけでもうすれ違ったりはしているのかもしれない。
「まぁ、そうでしょうね。そもそも男性はほぼ全員女性に苦手意識を持っていますし。そもそも女性と積極的に接しようとする男性なんて私、見た事ありませんわ」
「…」
どうやらこの様子だとやはり道化を演じているだけだったようだ。
正直さっきの彼女が素じゃなくてよかった。
会話の意図はまったく分からなかったが、動揺でも誘ったか?
「それでは場も温まってきたことですし、そろそろ真剣な話と行きましょうか」
温まるどころか冷えっ冷えだぞ。
サーシャは先ほどから俺の腕に絡ませていた尻尾で俺の顔を強引に自分のほうに向かせた。
クリクリとした紫色の双眸に俺の顔が映り込む。
そういえばヴェリルのサングラスの下にある瞳もこのような感じなのだろうか。
「あなたはいったい何のために戦っていますの?」
いきなり難しい事を聞いてくれる。




