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39話 代表ヴェリル


 「こちらで少々お待ちください」

 

 そう言ってクラウンは目の前の扉の中へと消えていった。

 この執務室のような場所に辿り着くまでにこの屋敷の様子を少しは把握できたかというと()()()()()()

 屋敷の扉を通ってすぐにクラウンが『転移結晶』を使用して俺たちをこの場所に転移させたからだ。

 恐らく防犯的な目的からそのような手段をとったのだろう。

 外部から来た者にこの屋敷の内部の構造を詳しく把握されないようにするために。

 この国有数の商会のトップの屋敷ともなれば機密情報なども保管されているのかもしれないし、防犯に気を使いすぎるということも無いだろう。

 この屋敷の主は随分と用心深い性格のようだ。

 とはいえそうでもなければただの露天商から一代でここまで成り上がることは出来まい。

 屋敷の内部の調度品などは宝石が散りばめられているようないかにも成金が好みそうな物でないが、腕のいい職人に作らせたのであろう気品のあるデザインのように見えた。

 あくまで庶民である自分の素人目で見て、だが。

 そこでクラウンが扉の向こうから現れた。


 「お待たせいたしました。それではディアボロ様のみ、執務室にお入りください」

 「わかった」


 俺は彼女が開いた扉をの向こうへと歩を進める。

 まだ部屋の中の様子は分らない。

 俺の目の前には黒い渦のような物が広がっている。

 おそらくここから更に転移するのだろう。

 まだ会ったこともないヴェリルなる人物の用心深さに親近感を抱く。


 暗闇の中を少し進むと前方に光が見え、甘ったるいお香のような匂いがしてきた。

 俺は一つ深呼吸をしてからその光へと向かっていった。


 闇に慣れた目を少し細める。

 今度は次第に目が光に慣れて、周囲の様子が徐々に把握できてきた。

 辿り着いた場所は書庫のような場所であった。

 辺りには大小さまざまな本やスクロール、報告書のような物が散乱している。

 

 そして俺の前方で、一人の女性が執務机の向こうに座っていた。


 目の前の女性は俺を見ると、いや正確にはそれは分からない。

 なぜならサングラスをかけていたからだ。

 真っ黒な丸いサングラスに編み込みの入った紫色の長髪。

 服を着崩しており、見る人が見れば大人の色気でも感じるのだろうが俺には彼女が疲れ切っているように見えた。

 彼女は俺の方に顔を向けて片手を挙げて声をかけてきた。


 「いらっしゃい」

 「……はじめまして」

 「えぇ、はじめまして」


 どことなく気だるげな様子だ。

 彼女はパイプを咥え、大きく息を吸ってから紫煙を吐き出す。

 どうやらお香の匂いだと思っていたのはこの匂いだったようだ。


 「悪いわねえ。客人の前で……」

 「構いません」


 俺は別に彼女の部下でもなんでもないので敬語を使う必要も無いような気もするが、アーネが言っていた『失礼な態度』に当てはまる可能性もあるので念のために使っておく。

 それ以前に目上の人には全部敬語を使うべきなのか?

 

 「私は『ヴェノム商会』代表のヴェリル。最近異世界から召喚されたあなたはご存じないかしら?」

 「俺は六英雄が一人『黒曜の英雄』ディアボロです。アーネから少し話を聞いたので、そのお名前と『ヴェノム商会』がヘルへヴン有数の商会であることくらいは知っています」

 「それだけ知っていれば十分ね。私も今までそれなりに生きてきたけど、六英雄と面と向かって話す機会なんてなかったからあなたにわざわざご足労願ったって訳」


 そう言って彼女は再び紫煙を吐き出す。


 一応言っておくか。


 「ただ単純にあなたが愛煙家なのであれば構いませんが、俺は六英雄の加護により、殆どの毒物に耐性があるため()()()()()()()()()()()()()()()()は効きませんよ」

 「……へぇ」

 

 彼女はそれを聞いて口角を吊り上げた。

 この女、俺がこの部屋に入る前から毒煙を部屋に充満させてやがった。

 何が『対面で話す』だ。

 最初から殺す気満々じゃねえか。

 

 俺の体に何か太い、縄のような物が巻きついてくる。

 

 巨大な蛇の胴体だ。


 「なるほどなるほど」


 ヴェリルがそう呟きながら立ち上がり、こちらに向かってくる。

 何かを地面に引きずるような音と共に。


 執務机の影から姿を現した彼女の下半身は、俺の胴体に巻きついたソレと繋がっていた。

 彼女は半身半蛇のラミアだった。


 「悪くない、悪くない」


 そう言いながら目の前に移動してきた彼女は、身動きが取れない俺の顔をペタペタ触り始めた。

 その気になればいつでも振りほどけるのだが、今は彼女の好きにされていた方が後々面倒な事にはならないだろう。

 さすがに攻撃されれば反撃はするが。

 

 「怒ったかしら?でも、本当にあなたが六英雄ならこれくらいたいした事ないでしょ?試したのよ」

 「そうですか」

 「あまり男の子らしくない顔立ちね。それに随分体も大きい…」

 「そうですか」


 そして今度は俺の体をペタペタ触り始めた。

 身動きが取れずなされるがままの俺はもうロボットのように同じ言葉を繰り返すしかない。

 早く飽きて離れてくれ。


 「れろん」

 「……」


 次に顔をその長い舌で舐められた。

 顔には出していないつもりだがそろそろ本気でしんどい。

 これ犯罪じゃねえの?

 まさか人族の俺はヘルへヴンの法律の対象外だから何してもいいとか思ってないだろうな。 


 「まぁ、挨拶はこれくらいにしておきましょうか」

 

 そう言って俺はようやく解放された。

 舐められた顔を袖で拭う。

 もう今日は俺頑張っただろ。

 挨拶?も終わったしここで帰っても許されるだろう。

 そんな俺の願いをあざ笑うかのようにヴェリルは俺に自分の胴体を差し出してきた。


 「それじゃあさっそくお話しましょうか?悪いけどこの部屋には私が使ってるラミア専用の椅子しかないの。だから今日のところはそれで我慢してくれる?」

 「いえ、俺は立って」

 「座ってくれる?」


 拒否権無いのかよ。

 俺は泣く泣く彼女の胴体部分に腰をかけた。

 

 

 

 

 

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