35話 再び
「町に?」
「はい」
目を覚ました次の日の朝、ソファに座りながら考え事をしていた俺にロボが声をかけてきた。
彼女が昨日の夜から何か話したそうにしている気配を感じてはいたのだが、絶対面倒な事になると思ってこちらから声をかける事はしなかった。
結果は変わらなかったようだが。
「この前行ったばかりだろ」
「前回は私の行きつけの店にご案内できませんでしたので」
「また混んでいて中に入れないかもしれないぞ」
「ご心配なく。既に予約は済ませていますので」
これである。
それ断れない奴じゃん。
何で俺に一声もかけずに勝手に予約しちゃうんだよ。
かけたら断られる事を予見していたのか?
滅茶苦茶賢いな彼女。
最近俺の行動パターンが読まれている気がして怖い。
「……わかった」
「味は保証します。私が知る限り、そこ以上の肉料理が出せる店はありません。種類、値段、味、ボリューム全てが最上級の店ですので、ぜひ楽しみにしていてください」
相当自信があるようだ。
そこまで自信を持って人に勧められるということはよっぽど自信があるのだろう。
俺は彼女の後ろでゆらゆら揺れる尻尾を視界の端で捕らえながらそんな事を考えていた。
旨い料理が食べられるなら、本当に楽しみだ。
昼まではまだ時間があるので、また前回のような事になったらどうしようかと考えていたのだが彼女は俺の顔を見つめたままその場から動こうとしない。
「まだ何かあるのか?」
「もう準備はよろしいのですか?」
「……なるほど」
俺はソファから立ち上がり、大きく伸びをした。
朝から肉を食いに行くのか……
どうやら彼女は朝からそこに向かうつもりだったらしい。
ボリュームのある肉料理が出ると聞いて完全に昼からのつもりで居たのだが、これは完全に俺の思い込みだ。
反省しなくては。
「よぉ、元気そうで安心したぞ!!」
「そちらもな」
以前同様、ロボの『転移結晶』で町の入り口に転移した俺たち2人を待っていたのは『暁の傭兵』のメンバーだった。
たった二日前に『境界の森』の探索を終えたというのに五人とも随分元気そうである。
さすがは第五段階冒険者、非常にタフだ。
とりあえず軽く挨拶だけ交わしてそのまま町に入ったのだが、彼女らは当然のように俺たちに付いてきており、町に入ってからも別れる気配がまるで無い。
これ、彼女たちも一緒に店に行く流れなのでは?
たしかにロボは自分の行きつけの店に二人で行くとは一言も言っていない。
それでも他にも誰か誘うなら一言言ってくれよ。
振り回されっぱなしである。
「こちらです」
着いた先はレンガ造りの立派な店で、看板には『Nice To Meat You』と書いてある。
正直ちょっと面白かった。
「懐かしー、昔何度か先生に連れて来てもらったよねー」
「私は、初めてです」
「良い店だからカロアもきっと気に入るはずだ」
やっぱりな。
五人が先に店内に入ったロボと俺に続く。
ロボがやって来た給仕に一言二言告げると、店の奥へと案内された。
案内された先は七人が入っても十分な広さの個室だった。
ちなみに案内してくれた給仕は俺を見て少し驚いた様子ではあったが、それだけで前回のような事はなかった。
さすがプロだ。
見た目からして高級店のようだし従業員の教育も徹底しているのだろう。
俺は一番出口に近い端の席に着いた。
昔から複数人で外食に行った際の定位置である。
「……」
「……」
その隣にバランが座ってきた。
エメラルダに襲撃された際は余裕が無かったとはいえ、俺は彼女のことを思いっきり蹴り飛ばしているので非常に気まずい。
俺の隣には当然監視役であるロボが来ると思っていたのでこれは完全に予想外だ。
そもそもなんで自分から俺の横の席に来るんだよ。
他にも席があるだろ。
……謝ったほうがいいのだろうか
「先に飲み物頼もうか!私は火酒!皆はどれにする?」
「私はフルーツサワーを」
「……葡萄酒」
「カルーアミルクをお願いします」
「私ビールー」
「私はラム酒にしましょう。ディアボロ様はどれになさいますか?」
「ウォッカを頼む」
この国では酒が飲める年齢も成人とみなされる年齢も特に決まっていないらしい。
その理由としては種族によって身体構造が違うためその手の法律が作れないそうだ。
個人差以前に酒に酔いやすい種族も居れば逆に酔い難い種族もいるためこれは致し方ないだろうことだろう。
俺が酒を頼んだのは前から飲んでいたからというわけではなく、実験的な意味合いが強い。
六英雄の加護はBADステータスに対する強い耐性を対象者に付与する。
では酒によってもたらされる『酔い』はBADステータスに含まれるのか?
それが知りたかった。
ウォッカにしたのは単純にあまりアルコール度数が低い物を頼んで酔いが回らなかった場合、それが加護による物なのか単純に度数が弱かったからなのか判断がつかないからだ。
年齢的にまだ未成年ではあるが、こちらの法律を破っている訳では無い。
郷に入っては郷に従えというやつだ。
「おまたせしました」
給仕が飲み物を持ってきた。
俺が一番個室の扉側なので受け取った飲み物を全員に回す。
「あ、すみません!」
「いえ、ありがとうございます」
全員分の飲み物が渡ったところで、ロボが給仕に追加でいくつか注文を済ませた。
俺はメニューを見たところでよく分からないので彼女に任せる。
そういえば今日は何の集まりなのだろうか?
流れに身を任せていたため特に気にしていなかったが、やはり合同探索の打ち上げのような物なのだろうか?
「全員に飲み物が渡ったな?」
俺の顔くらいのサイズのジョッキを片手にレドが音頭をとる。
見た目からして酒に強そうだもんね。
「今日は特別な日ということで!今日の支払いは先生が持ってくれるそうだ!!」
メンバーからは歓声が上がりロボも満足げに頷いている。
本当に教え子が可愛いいんだな。
「それじゃあ……」
レドがジョッキを高々と掲げる。
「バラン誕生日おめでとう!!!」
いや合同探索関係ないのかよ。




