32話 読めない心
ロボ視点
「全員付いて来ていますね!?」
私は『暁の傭兵』のメンバーの安否を確認しながらも彼女たちが付いてこられるギリギリの速度で森の中を駆け抜ける。
「大丈夫です!」
「……」
「私も」
「はいー……」
「レドさん、ごめんなさい……」
全員揃っている。
カロアは流石にこの早さには付いて来れなかったので、彼女から身体強化の魔法を受けたレドに背負われている状態だ。
「先生」
このパーティの中で一番俊敏性に優れているラビス横に並んでくる。
「彼、置いて来て良かったんですかー……?」
「……本人が言っていた通り、あそこは彼に任せることが最善でした」
嘘だ。
良い訳がないだろう。
彼は確信はないと言っていたが、あの狙撃手は間違いなく六英雄の一人だ。
私だって好きで彼にあの場を任せたわけではない。
任せるべきではなかったし、任せるつもりもなかった。
それでも彼を止める術が、今の私にはなかったのだ。
彼はその気になれば私を説得などせずとも振り切ることができたはず、それをしなかった理由は一つ。
私とこの子たちを無事ヘルヘヴンに帰らせるためだ。
あの場でもし、彼が私を振り切って一人で六英雄の下に向かっていたならば私はすぐに彼を追いかけたことだろう。
しかしそうすれば『暁の傭兵』のメンバーはどうなる?
もし、この『境界の森』の中に来ている六英雄が狙撃手一人ではなかったら?
狙撃手に私とディアボロが、もう一人の英雄に『暁の傭兵』がそれぞれ撃破される可能性を見越していたのではないだろうか。
仮に今、もう一人の英雄が現れたとしても私を囮にこの子たちは逃がしきることができる。
全滅という最悪の事態だけは避けられる。
私の仕事は彼の監視だ。
だが、建前とはいえ世話役でもあるのだ。
世話をするべき主人を囮にして逃げ出すメイドがどこに居る。
彼の言い分はどこまでも正しい。
正し過ぎる。
彼の決断は常に効率を追い求めた物でそこにはまるで感情らしきものが感じられない。
違う。
彼にも確かに感情があるはずだ。
本人に自覚があるかどうかは分からないが不器用ではあるものの、彼の行動一つ一つからは他者への思いやりを感じる。
希少なモンスターの素材を譲り、ダイアナの役割を引き継ぐために天職ではないヒーラーを続けるカロアの意志を尊重し、過去に囚われそうになっていたラビスに前を向かせ、ギルドに情報を提供する仲介役を申し出ようとしていたアーネの立場を案じた。
優しい青年だ。
しかし、その優しさのベクトルが自分自身にまるで向いていない。
自らが望む結果を手にするためならば、何の躊躇いもなく自分の命を賭ける。
魔王城で初対面の魔族たちによって身に覚えのない憎しみに晒された時も、町の店であれほど虚仮にされた時も、彼の表情にはまるで変化がなかった。
今なら分かる。
彼は最初から我々魔族に期待などしていないのだ。
だから我々の理不尽な態度に悲しみも憎しみも怒りも見せない。
だが、私たちに彼を哀れむ資格はない。
なぜならそんな状況に彼を追い込んだのは他でもない、我々なのだから。
あの召喚の儀式が行われた玉座の間で、既に魔族は彼によって見切りをつけられていたのだ。
にもかかわらず彼が我々に手を貸している理由が分からない。
何故そんな我々のために命が賭けられるのかが分からない。
そんな彼のことが、私は恐ろしい。
そんな彼のことが、私は悲しい。
「……先生」
「何でしょう」
「……ディアボロは、なぜ私を助けた?」
狙撃手から彼によって助けられたバランが苦々しい表情で問いかけてきた。
彼女はこの『暁の傭兵』中でもっとも人族に敵対心を抱いており、合同探索中も殆どディアボロとは会話を避けていた。
彼女の母は過去に人族との戦争で戦死している。
もちろん彼女の母親を殺したのはディアボロではないし、そのことは彼女自身もよく分かっているはずだ。
しかし、それでも、頭では分かっていても彼が人族だという時点で無意識のうちに嫌悪の対象になってしまう。
その事を彼女は悩んでおり、私のもとに何度か相談に来ていた。
「……私、あの時、ディアボロに蹴り飛ばされたとき」
「……」
「『やっぱりこいつも人族なんだな』って思ってしまったッ…!!」
「それは……」
「……あいつは自分の足を犠牲にしてまで私を助けてくれたのにッ!それを、私は…」
不測の事態に陥った時、その人物の本性が出るというのはよく聞く話である。
それに彼女も気づいたのだろう。
「……謝ったら、彼は許してくれるだろうか?」
「そうですね。彼ならきっと……」
恐らく彼はその謝罪を受け取らないだろう。
バランは彼が自分のために体を張ってくれたというのに自分は彼に対して疑念を抱いていた事を謝ろうとしているようだが、恐らく彼はそのような事気にも留めていないはずだ。
仲間に疑いをかけて申し訳ない
と彼女が彼に謝ったら困惑するに違いない。
なぜなら彼は私たちのことを仲間だと思ってもいなければ、疑われている事も当然だと思っている節があるからだ。
「先生!もうすぐ森を抜けます!」
「抜けた瞬間に『転移結晶』を使いなさい!あなたたちは医療部隊のところへ自分たちの治療と彼の救護を依頼!私はすぐに魔王様に事態を報告する!」
「「「「「はい!」」」」」
森の出口を見つけたアーネと他のメンバーに指示を飛ばす。
彼には死んでもらっては困る。
私はまだ。
彼の本当の顔を見ていない。




