31話 紅玉の強襲
「動かないでもらえますか?」
俺が指輪をはめるのと同時に再び一斉に光弾が放たれたが、もう遅い。
全ての攻撃が俺の体をすり抜けていく。
スキル【幻影の霧】
五秒間だけだが全ての攻撃を透過させる英雄スキルだ。
俺はその間にポーション飲み干して次のスキルを発動させる。
「GURURUAAAAA!!!!!」
「なッ……!」
【帝王の雄叫び】
相手に魔力のこもった雄叫びを叩き付けることで麻痺、萎縮などのBADステータスを付与する防御不能の英雄スキル。
エメラルダの周囲に張り巡らされていた障壁が砕け散るのを待たずに彼女との距離を一瞬で踏み潰す。
「打ち抜け【ケルベロスフィスト】」
エンドレスダークを地獄の番犬の顔が刻印された篭手に変形させ【帝王の雄叫び】の効果で棒立ち状態だったエメラルダの腹部を全力で殴り飛ばした。
拳から肉と骨を叩き潰した嫌な感触が伝わってくる。
考えるな。
土煙を上げながら地面に衝突した彼女に更なる追撃を加えるべく突っ込んでいった俺の眉間に、煙の中から伸びてきた銃口が火を吹いた。
とっさに頭を捻って避けたが、頬を赤い血が滴り落ちてくる。
そのまま続けざまに光弾が放たれたため、やむを得ず再び距離をとる。
「掠ったか……」
「いけませんね。危うく本気で殺しにいくところでした」
誤算だ。
スキルの効果が切れるのが早過ぎる。
できれば相手の反撃を受ける前に決着をつけたかったが仕方ない、次の手を考えよう。
「あなたの魔力は既に尽きる寸前だと思っていたんですが、見誤りましたね…。それとも、その魔道具の効果でしょうか」
「親切に教えるとでも?」
正解だ、よく見ている。
俺が今はめている指輪『代償の指輪』は未来の自分の魔力を前借りする魔道具だ。
これのおかげで彼女の言うとおり空っぽ寸前だった俺の魔力は回復し、なんとかここまで戦況を持ち直す事ができた。
デメリットとして、借りた分の魔力は本来その魔力が回復するまでの時間自然回復はもちろんアイテムを使っても回復する事ができなくなるという点がある。
例えば一日に魔力が100回復するとして、その明日回復するはずだった100を今日借りると明日一日は魔力回復が行えなくなる。
その間は魔力を用いたスキルや魔道具、魔法が使えない無防備な状態になってしまうため、できればこれは使いたくなかったが背に腹は代えられない。
この場を乗りきることができなければ、どのみち俺に明日など来ない。
先ほど彼女は自分たち六英雄は仲間だと言っていたが、それもどこまで本当かは分からない。
彼女の攻撃を全て空気を殴りつける事で発生した空気弾で撃ち落しながら再び距離を詰める。
先ほどよりも手数、威力共に落ちていることが目に見えて分かった。
ダメージは着実に蓄積している。
「状況が良くありません、30点ですッ」
「させねえよ」
手に持ったポーションも撃ち落す。
今更回復されてはたまった物じゃないからな。
目前に迫ったエメラルダの右手を掴み、地面に引き倒して馬乗りになる。
今度は彼女のほうがガス欠のようだ。
「女性に馬乗りになるなんて、紳士のやる事ではありませんよ?」
「あいにく俺は老若男女差別しない主義だ」
左手に握られたリボルバーを向けられるが、そちらも掴んで狙いを僅かに外させる。
彼女はそれに構わず引き金を引いたが、当然斜線上に俺はいないので空に向かって光弾が放たれた。
ッパァン!!
頭上で大きな音が鳴り響く。
これは、今まで放たれた光弾のどれとも違う。
下ではエメラルダが薄い笑みを浮かべていた。
「相変わらず早いですね」
「ピンチに颯爽と現れるヒーロー、素敵でしょ!!」
すぐ後ろから、初めて聞く明るい少女の声が聞こえてきた。
それと同時に俺の胸元に真っ赤な刃先が生える。
俺の口から溢れ出した血が、下にいるエメラルダの顔を濡らすが、彼女は笑みを崩さない。
「……ッ!!」
「駄目ですよフレイヤ、彼は私たちの仲間なのですから。これでは死んでしまいます」
「あ、そうだった。とにかく止血しないと!」
背後から俺を貫いていた刃が炎を噴き出しながら引き抜かれた。
胸元から自分の肉が焼ける不快な臭いがする。
あまりの激痛に悲鳴を上げそうになったがそれに耐えながら背後の女を蹴り飛ばしたが、刃の腹で受け止められたためダメージは入っていない。
その間に抑え付けていたエメラルダにも抜け出されてしまった。
「ごめんね!でもお兄さんも悪いんだよ?女性に馬乗りになるなんて、紳士のやる事じゃないよ!」
「よく覚えていましたね。100点です」
俺を背後から襲った少女の頭をエメラルダが嬉しそうに撫でる。
赤い瞳に赤髪ショートカットの活発そうな少女だ。
その手に握られている炎を纏った赤い片手剣には見覚えがあった。
「えーと、初対面の人にはまず自己紹介だね。僕は六英雄が一人『紅玉の英雄』フレイヤ!よろしくねお兄さん!」
「マジかよクソッタレ……」
あまりの苦境に思わず毒づく。
ファンタズムが誇る六英雄の2人目が、そこに居た
「エメラルダさん。彼が例の?」
「ええ、そうです。彼が六英雄最後の一人『黒曜の英雄』ディアボロさんです」
「わあ、やっと召喚されたんだね!にしても男の人だったんだね……。他の人が皆女の人だったから、最後の六英雄も女の人だと思ってた」
「フフフ、最初は私も驚きましたがいいじゃないですか。貴重な男手が増えますよ?」
「そうだね!でも急に後ろから刺しちゃったから、怒ってないかなあ……?」
俺を前にしても余裕の態度で会話を始める二人を見て、これ幸いとポーションを飲む。
恐らくこれは油断しているのではなく、圧倒的強者故の余裕なのだろう。
傷口は塞がったが刺された痛みと肉を焼かれた痛みが頭に残っている。
何が止血だ舐めてんのかこのクソガキ。
「大丈夫ですよ。でも彼は今、魔族に洗脳されてしまって私たちに敵対してます。なのでその洗脳が解けたら私と一緒に謝りましょう。彼は優しい子ですからきっとすぐ許してくれます」
「本当!?にしても魔族の連中、相変わらず卑怯な真似を……。大丈夫だよお兄さん!すぐに助けてあげるからね!」
「お兄さんって呼ぶな」
初対面の相手の胸元に風穴開けておいて馴れ馴れしいんだよ。
距離の縮め方を勉強し直せ。
最悪の状況だ。
恐らく最後にエメラルダが放った光弾は最初から俺を狙った物ではなく信号弾。
それを目印にして同じく『境界の森』にいたフレイヤを呼び出したのだろう。
六英雄が複数人この森に来ている可能性を失念していた。
「じゃあ、死なない程度に殺して保護しよう!」
「矛盾してんぞ」
フレイヤが片手剣を構える。
俺もケルベロスフィストを構えて2人の様子を伺う。
傷は治した。
魔力の問題も『代償の指輪』で解決できる。
ただ、それでもなお今のコンディションで英雄2人を相手に自分が勝利を収めるイメージが全く湧かない。
これ死んだかもな。
何とか打開策を探る俺を見て、エメラルダは首を横に振った。
「そうしたいのは山々ですが、今回は撤退しましょう」
意外にもその状況に待ったをかけたのはあちら側だった。
「えー!?なんでー!?」
「私はもう魔力が残っていません。必要ないと思って魔力を回復させるアイテムを持ってこなかったのが失敗でした。フレイヤちゃんは持って来てますか?」
「ない!」
「ではあなた一人で彼と戦ってもらう事になりますが……、多分今の彼の状態だと殺しちゃいますよね?あなたは加減を知りませんし」
「そんなことないもん!」
「なので今回は引きましょう。次はもっと盛大に迎えに来ますね?」
しばらく不満げに口を尖らせていたフレイヤだったが、渋々納得したようでエメラルダと共に光を放ちその場から消えた。
「あいつ、転移魔法使えるのかよ……」
俺は2人の気配が完全に消えたのを確認してから受け身もとれないままその場に倒れこんだ。




