28話 奇襲
「お前、一体何をっ!?」
「身を隠せ!!!」
戸惑いと怒りが籠もったアーネの言葉を無視し、全員に聞こえるように叫ぶ。
直後。
バランを蹴り飛ばした俺の右足が爆ぜた。
激痛のあまり、意識が一瞬飛びかけるが唇を噛み締めなんとか堪える。
それを見て何かを察したようで俺以外の全員が近くの茂みや木の陰に身を隠す。
さすがは第五段階パーティだ。
とっさの判断が早い。
俺もすぐに無事な方の足で地面を蹴り、近くの木の裏側に背を預けポーションを口に流し込む。
すぐさま原形を失っていた右足が巻き戻しのように回復するが、まだ何も終わっていない。
狙撃された。
バランを蹴り飛ばした直後に、飛んできた光弾が俺の足に直撃したのが見えた。
方角は北西。
六英雄の加護がある俺の足を吹き飛ばすほどの攻撃だ。
この世界でそんな芸当ができる相手などそう多くはない。
しかし、俺のスキル【帝王の縄張り】に反応は、無い。
つまり、相手は俺のスキルの有効範囲の外側からあの光弾を撃ち込んできた事になる。
半径1kmの外側から。
そういえば相手に思い当たる奴が一人だけ、いる。
チュートリアルの選択画面で1度だけ見た多数の銃火器を操る英雄。
『翡翠の英雄』
だとしたら最悪だ。
今の状況は完全にこちらが不利。
俺たちは相手の位置をまだ正確に把握できていない。
相手からすれば恰好の的だ。
現在も絶え間なく光弾が浴びせられ続けている。
このままではジリ貧だ。
「ロボ!『転移結晶』を使え!撤退だ!!」
「申し訳ありません、ディアボロ様!この『境界の森』内部では転移の魔道具の使用が阻害されて使えません!!」
「転移系の魔法は!?」
「転移形の魔法が使える者はヘルへヴンでも極僅かです!この中にはいません!」
少し考えればすぐに分かることだろう。
『転移結晶』が使えるなら探索の終了が決定した時点ですぐ使っていたはずだ。
油断。
反対側の茂みに身を潜めていたロボが、光弾の雨を避けて俺の近くに移動してくる。
「……ディアボロ様は何から攻撃を受けたのか、既に見当がついているのですか?」
「確証は無いが、恐らく相手は俺と同類だ」
「六英雄、ですか……」
「今まで、六英雄との交戦経験は?」
「二度ほど、しかし恥ずかしながらその時は防戦一方でした。そして今回の相手はそのどちらとも違うように感じます」
「その根拠は?」
「私が交戦した2人は、目視で捉えられないほどの遠距離からの攻撃手段は持っていなかったはずです。……私に見せていなかっただけかもしれませんが」
「俺の予想が外れていれば良いんだがな」
「残念ながらその可能性は低いでしょう。鎧を纏ったあなたの足を一撃で吹っ飛ばせる相手が、そうそういるとは思えません」
とっさの事でエンドレスダークの展開が不完全だったとは言え、英雄装備はそう易々と破れるものではない。
『暁の傭兵』のメンバーは未だに遮蔽物の陰からから動けずにいる。
だがそれでいい。
俺の足が吹き飛ばされた事で、相手が並みの相手ではない事も理解できたはずだ。
なら。
「ロボ、俺が狙撃手に強襲をかける。そうすれば自分のほうに向かってくる俺に光弾が集中するはずだ。その間に全員を撤退させろ」
「私も同行します。私は魔王様からあなたのお世話を任されています」
「正直、相手がどれほどの強さか分からない以上、俺が返り討ちされる可能性も十分考えられる」
「であればなおさらあなたを一人で行かせる訳にはいきません。魔王様が何のためにあなたを召喚したのか、お忘れですか?」
もちろんしっかり覚えている。
しかし、それじゃ駄目なんだよ。
「ヘルへヴンにとって最悪の展開はここで俺たちが全滅する事だ。第七段階冒険者のお前と、第五段階パーティの『暁の傭兵』と俺。今の状況でその三つとも失うのはかなり拙い。それじゃ今回の探索で得た相手の情報も持ち帰れない。まだスタンピードだってあるんだぞ」
「私は…」
「大事な教え子たちを、しっかり守ってやれ」
俺はそう言ってスキル『反響定位』を発動する。
このスキルは高濃度の魔力を波紋状に撃ち出すスキルなので『帝王の縄張り』よりも魔力の消費は激しいが、一瞬だけさらに広範囲の情報をより正確に読み取る事ができる。
こちらは相手の強さも関係なく、その姿形までまで捉えることができるのだ。
居た、膨大な魔力の持ち主が。
南東に。
北西にも魔力は感じるが南東と比べれば微々たる物だ。
恐らくは相手のスキルか何かだろう。
つまり今俺たちは無防備な背中を狙撃手に晒している事になる。
ただ、幸い狙撃手の位置はヘルへヴンの方向とは外れている。
これなら彼女らを逃がす事もできるだろう。
違和感はあった。
狙撃手が最初の一撃で目標を仕留められなかったからといって、場所を変えずに狙撃を続ける事などありえない。
それでは自分の居場所を相手に教えているような物だからな。
『暁の傭兵』のメンバーが何か言いたげな視線を送ってくる。
気まずいが今はそれどころではない。
特に蹴り飛ばしたバランの方は怖くて見れなかった。
先程は緊急事態だったため、他にいい方法が思い付かなかったとはいえあれはまずかったか。
見た感じ怪我はないようだが俺に対する心証は最悪だろう。
だが今はとにかくこの状況を脱しなければ。
俺はロボに静かに告げる。
「俺が合図を出したらお前たちはすぐヘルへヴンに向かって走れ。森を抜けるまで決して立ち止まるな」
「…分かりました。ご武運を。すぐに救援を連れて来ます」
これは社交辞令のようなものだ。
ヘルへヴンからここまでの距離を考えれば当然救援など期待できない。
「行け!!!」
俺は合図を送ると同時に狙撃手の下へと走り出した。




