27話 帰るまでが冒険
「かなり深くまで来たな……」
『境界の森』での合同探索を始めてから一週間が経過した。
まだ森の最深部には程遠いが、それでもモンスターの危険度が目に見えて上がるくらいには深くまでやって来た。
今のところは全員大きな怪我もせずにここまで来ている。
ここまで順調に来られた要因としてまず第七段階冒険者のロボが同行している事、そもそも『暁の傭兵』自体が四人の腕利き第五段階冒険者を擁したパーティである事、あとは一応俺がいる事でモンスターに関する情報が充実している事などが挙げられる。
仮に大怪我を負ったとしても俺が持つポーションを使えば大事には至らない。
死んでさえいなければ何とかなる。
「ロボ、そもそも今回の探索でどこまで進むつもりだ?すでに高危険度モンスターの情報はある程度提供したはずだ。もう十分だろ」
「彼女たちとあなたの交流を深めることも目的の一つだということを忘れていませんか?」
「それも十分だ」
他の魔族たちとは違い、『暁の傭兵』のパーティメンバーには嫌われてはいても憎まれてはいないはずだ。
連携して戦うだけなら今の関係で十分だろう。
彼女は俺の顔を見て小さくため息を吐いた。
それ、地味に効くから止めて欲しいんだが……。
「そうですね……、今回はこれで良しとしていったん町に帰りましょう。あまり焦って進める事でもありませんし。レド、『暁の傭兵』もそれで良いですか?」
「先生、あたしたちはまだ余裕がありますよ?食料もまだもちそうだしな?」
レドの言葉を受けて他のメンバー達も頷く、ただカロアの顔には疲労の色が見えた。
いくら冒険者としての才能があるとは言え、現在のヒーラーは彼女の天職ではない。
そんな状態での今回の合同探索は、周囲が考えている以上に彼女にとって厳しい物だったはずだ。
むしろここまで良く付いて来ている。
経験としてはもう十分だろう。
「お前たちはいいかもしれないが、カロアはこのパーティに入ってまだ日が浅い。慣れない探索で疲れているように見える。大事なヒーラーとして育てるつもりなら無理はさせない方が良い」
「そんなっ、私まだ大丈夫です!」
カロアは否定するが、仮に今大丈夫だったとしてもどのみち戻るなら余力がある間に戻ったほうがいい。
限界まで体力を使い果たしてしまえば、何か不測の事態が起きたときに対処できなくなってしまう。
俺の言葉に『暁の傭兵』のメンバーがはっとする。
「ごめんなぁ!あたし、全然カロアの事考えられてなかった。これじゃあリーダー失格だ…」
「レドだけじゃない。私たちパーティメンバー全員がそこまで気を配らなくちゃならなかったんだ」
「あまりに調子が良かったから、皆ちょっと浮かれちゃってたのかもねー」
「ごめんなさい、私のせいで…」
「……パーティーメンバーのコンディションを正しく把握し、進退を決定するのは冒険者の基本。だから誰のせいとかじゃない」
余計な事を言ったかとも思ったが、メンバー達にも思い当たる節があったようだ。
これもしかしたら俺が言わなくても気づいてたかもな。
それにしても、互いが互いを思いやる事ができる良いパーティーだ。
ロボはそんな教え子たちの様子に小さく尻尾を振って喜んでいるようだった。
顔には殆ど出ないが、彼女の尻尾の方は感情豊からしい。
「方針は決まったようですね。それでは町へ戻りましょう。そうですね…、ではラビス。私は冒険から帰還する際はいつも何と言っていましたか?」
「『町に帰るまでが冒険、帰り道も油断せず』でーす!!」
「そうです。よく覚えていましたね」
小学校の遠足みたいな事言ってますね。
しかし、常に命の危険に晒される冒険者たちにとってはそれがどれほど重要な事かは理解できる。
よっぽど彼女らが大事なのだろう。
「じゃあ皆、今回の探索はここまでだ!町に戻ったらすぐに手に入った素材をギルドで換金するぞ!あ、自分の装備に使うものはちゃんと取っておけよ!」
「あとは今回の探索で使ったアイテムや魔道具の補充もね、カロア、残りの数はちゃんと把握できてる?」
「はい!大丈夫です!」
「……あとはしっかり休息もとらないと。本格的なスタンピードも、近い」
そこからはとんとん拍子で話が進んでいく。
さすがは第五段階冒険者パーティーといったところか。
というか今更だが、バランが言っていたように本格的なスタンピードが近いのにここまで長期間の探索に出ていて良かったのか?
今回の探索による疲れが取れないまま、スタンピードがやって来たらさすがに笑えないぞ。
……大丈夫だよな?
そんな俺の視線を受けた彼女は何を思ったのか豪快に笑いだした。
「はは!安心しろディアボロ。今回の探索で高危険度のモンスターを多く討伐できたのは、お前の力によるところが大きかった。だから当然、その分の報酬はお前の物だ!」
「いや、それはいらん」
駄目みたいですね。
てか俺に報酬を払うならその分自分たちの装備を充実させて欲しい。
立場的に俺から直接彼女たちにアイテムや装備などを渡せない以上、このような回りくどい方法を取るしかないのだ。
他の魔族たちに痛くも無い腹を探られるのは勘弁して欲しいからな。
しばらく報酬の件で食い下がってきたレドだったが、ロボに何か耳打ちされると渋々納得したようで引き下がった。
何を言ったんだ……?
気にはなるがとりあえず進んで来たルートを戻る事にした。
ここまでのマッピングはシーフのアーネがやっていたらしく、道に迷う事はなさそうだ。
俺の隣はバランが歩いている。
そういえば他のメンバーとは少なからず一対一で会話する機会があったが、彼女とはまだまともに話していない。
元々あまり喋るタイプではなさそうだし、無理してそのような場を設ける必要も無いだろう。
「……おい」
そんなことを考えていたのだが、意外にも彼女のほうから声をかけてきた。
俺はそんな彼女に。
何の躊躇いもなく蹴りを叩き込んだ。




