26話 ぎこちない会話
「……」
「……」
先ほどから見張りをする俺の後ろで大きな気配が行ったり来たりを繰り返している。
足音ですぐに分かった、カロアだ。
いったい誰がけしかけて来た?
ラビス、アーネと来て次はカロアか。
「……」
「……っ!」
振り返るとすぐに草陰や木の後ろに隠れるのだが、体が大きいので全く隠しきれていない。
これを何度も繰り返している。
可哀想に、レドかロボにちょっとあの人族に話しかけて来いよとでも言われたのだろう。
俺は少し離れた場所に立って同じく見張りをしているロボに非難の目を向けるが、彼女自身はどこ吹く風である。
「何か用か?」
「ひっ、あ、あの……」
このままでは埒が明かないと思い、俺から声をかけるとカロアは木の影からこちらの様子を伺ってきた。
どうやら俺とは他のメンバーが一緒だと何とか話せるが、一対一だと厳しいらしい。
いや、ロボがいるから一対一じゃないわ。
とは言え、彼女は他のメンバーと違い直接ロボから指導を受けていたわけではないからなのか彼女に対してもまだどこかよそよそしい態度をとっている。
「……用がないならもういいな」
俺は場所を移すために立ち上がる。
さすがにこれ以上、後ろをうろうろされるのは俺もしんどい。
先ほどから背中に感じる視線のせいで居心地が悪いのだ。
「待ってくださいっ!!」
何を思ったのか彼女は立ち上がった俺の両肩を掴み、そのまま強引に俺を座らせた。
地面に強か臀部を打ち付けられ悶絶しそうになるのを堪える。
力つっよいなお嬢さん。
「あ、あ、ごめんなさいっ。私」
「大丈夫だ」
「お尻、痛かったですよね!?どうしよう……」
「本当に、大丈夫だから止めてくれ」
カロアが目に見えて動揺し、俺の尻を撫で始めた。
ちょっと、本当に勘弁してください。
混乱しすぎだろ。
「私、ごめんなさい……」
「気にするな、それで、何か俺に用があるのか?」
自分が何をやったのか気がついたらしく、顔を真っ赤にしながら謝り続けるカロアは既に涙目だった。
俺は何もしていないはずなのに罪悪感が凄い。
「あの、レドさんが、ディアボロさんとお喋りして仲良くなって来いって…」
「いったい何を考えてる……」
「で、でも最初にディアボロさんと仲良くなりたいって言い出したのは私で!だったらまずはお喋りでもして来なって……」
え?この子俺と仲良くしたいの?
何が目的で?
「俺と仲良くしたってお前に何の得も無いぞ。別に仲良くならなくても情報の提供を止めたりはしない。あれは俺のためにやってる部分もあるしな」
彼女たちが効率良くモンスターを狩れるようになれば、次の本格的なスタンピードも立ち回りやすくなるだろう。
人族の相手もしなくてはならないのに、ここで貴重な戦力を削られてたまるか。
そんな俺に対してカロアはずっと首をかしげている。
俺の言葉が足りなかったか?
「誰かと仲良くするのに、損得勘定が必要なんですか?」
「何を言って……」
何を分かりきったことを。
自分にメリットが無いのにわざわざ人と仲良くなろうとは誰も。
あれ?
仲良くなるって何だ?
思い出せ。
俺にも仲が良かったやつの一人や二人、居たはずだ。
学校で、部活で、塾で、バイト先で、家族で仲が良かった人が居たはずだ、なのに。
誰一人顔が思い浮かばない。
まるで頭の中に靄がかかったようだ。
「ディアボロさん?どうかしましたか?な、何か気に障ること言っちゃいましたか!?」
「ああ、なんでもない。すまん、少し考え事をしてた」
まあいい。
少し気持ち悪いが思い出せないという事は、あまり周囲との関係は良好ではなかったんだろ。
それよりも今はそんなことを考えている場合じゃない。
とりあえず彼女の気が済むまで相手をしてからお引取り願おう。
「まあ、仲良くなる云々は良く分からんが、聞きたいことがあるなら答えられる範囲で答えよう」
「……私は一方的に何かを教えてもらいたいんじゃ無くて、あなたとお話がしたいんですけど」
彼女はどうやら俺の返答がご不満らしい。
それどころか普段はオドオドしていて気弱な彼女が少し怒ってさえいるようにも見える。
こいつ、いつも人を怒らせてんな。
とは言え。
「お話と言っても、何の話をするんだ?」
「そうですね……、ディアボロさんは異世界からいらっしゃったんですよね?ではその世界の話を聞かせてください。私もこの世界についてお話しますから」
悪くない話だ。
話しても痛手にならない自分の世界の話をするだけで、この世界の情報が簡単に集められるのならこれに乗らない手は無い。
それから俺は、ロボに話した事と同じような内容の話をカロアにした。
俺の話に彼女は、終始興味津々のようだった。
特に俺の世界での男女比率やモンスターが存在しないという話にはかなり食いついてきた。
「男性と女性の数が同じくらいだなんて、まるで本の中の世界みたいですね……」
「そうなのか?」
「はい!特に『街中で偶然出会った二人は恋に落ち…』みたいなお話は現実よりも男性が多い設定で描かれます。じゃないと偶然出会って、更に恋に落ちる確率なんてとても現実的ではありませんから」
本の中の話なのにリアリティが求められるのか。
まあ、元の世界でも小説の内容に『リアリティが無い』なんて文句を言い出す連中もいたから、そんなにおかしな話でもないな。
……現実よりも男性の人数を多く描写するのはいいのか?
そんなことを話しているうちにカロアは寝てしまった。
最後の方は多少マシになったようだったが、会話中は緊張しているようだったので余計に疲れたのだろう。
そういえば彼女は何歳くらいなのだろうか?
パーティメンバーの彼女への接し方を見る限り、あの中では一番年下なのだろうが魔族基準でどこからどこまでが子供なのかが分からない。
もしまだ子供なのだとしたら、彼女は俺の幼少期とは比べ物にならないほど過酷な生活を送っていることになる。
少なくとも俺は命の危険に晒されるようなことはなかったはずだ。
彼女のあどけない寝顔を見ながら、自分のいた世界がどれほど平和だったかを考えさせられた。




