25話 情報の価値
「ディアボロは毒物にも詳しいのか?」
「どうした急に」
見張りをしながらアイテムの整理をしていると、アーネが声をかけてきた。
「前にスカルスパイダーの毒液を採取していただろう?私はお前から聞くまで、スカルスパイダーの名前は知っていてもその毒液があれほど役に立つことは知らなかった」
「便利だからなアレは」
彼女は俺が渡した小瓶に入っていた毒液を既に何度か試している。
その効果は彼女の想像以上だったようだ。
「そもそも、高危険度のモンスターは情報が出回りにくい。遭遇率自体が低く、万が一遭遇したとしても生きてそのモンスターの情報を持ち帰ることも簡単ではない。お前は自分の持つ情報の重要性を分かっているのか?」
「それなりにはな」
「お前、その様子だと分かっていないようだな……」
アーネは深くため息をついてから、俺を少し睨んできた。
今の会話にお前が不機嫌になる要素なんて無かっただろ。
「いいか?お前の情報は金になるんだ」
「ほう」
「お前が持っている情報、それを冒険者ギルドに売れ。そうすれば売った情報の重要度にもよるが、その価値に見合った報酬が支払われる」
「ここの冒険者ギルドはそんなこともやっているのか」
「ここの?これくらいどこのギルドでもやっているぞ。ギルドは冒険者たちの生存率を上げることに最も力を入れているからな」
「そもそもそんな報酬を払うギルドの財源ってどこにあるんだ?」
これは前から気になっていたことだ。
俺が知っている人族の冒険者ギルドはそのあたりのシステムは描写されていなかった。
「そうか、お前は異世界人だったな」
「ああ」
「運営をしているのは国だ。ギルドの運営には国の予算が割り当てられている。さらに依頼主からまずはギルドに依頼が送られそれを冒険者が受けるシステムになっているんだ」
「ギルドは公的機関なのか」
「そうだ。そして冒険者が依頼を成功させれば依頼主からまずはギルドに報酬が支払われ、そのうちの7割が冒険者の手取りになる」
仲介業者みたいなものなのか。
結構現実的なんだな。
「まずは依頼主からどれだけの報酬がギルドに支払われるか、これは冒険者にも確実に知らせなければならない。でなければ冒険者が報酬をもらう際、それが本当にギルドに支払われた報酬の7割なのか分からないだろ?」
「冒険者ギルドは信用が無いのか?」
「ちがう。むしろもっと信用されるためにこの制度が導入されたんだ。さっきも話したがギルドは国が運営する機関だ。そこでもし冒険者や依頼主の信頼を裏切るようなまねをすれば、それはそのまま魔王軍への不信につながる」
「なるほど」
「だから人選もとても厳しい。給料は悪くないが、それでもギルド職員になる難しさを考えれば高いとは言えない。だから今のギルド職員には富よりもギルド職員という国を支える仕事に憧れを持った魔族しかいない」
「ずいぶんと詳しいんだな」
「……まあな」
結構しっかりしてるんだな冒険者ギルド。
真面目な公務員みたいな感じか。
「有事の際には人族との戦争にも駆り出されるからその分、ギルドは冒険者を大切にしてるんだ。国の安全に関わるからな」
「……嫌じゃないのか?」
「自ら進んで参加したいとは思わない。でも、この国が無くなればどの道私も生きてはいけないから覚悟はできてる」
「そうか……」
「話が逸れたな……。要するに、もっと有益な情報があるなら私たちにただで教えずにギルドに売ったほうがいいぞ」
「なんでそれをわざわざ俺に?それを俺に伝えて、お前に何の得がある」
アーネの釣り目がさらに釣りあがっていく。
余計なこと言ったなこれは。
「得はある。冒険者ギルドにお前が情報を売ればギルドはその情報を無償で冒険者全員に公開する。そうやって重大な情報を共有できれば、生存率も上がり、質も高まる。それがそのままヘルヘブン全体の戦力の増強にもつながるんだ。あとは…」
「あとは?」
「情報の価値を理解していない間抜けを見ていられなくなっただけだ」
滅茶苦茶言ってくるな。
ギルドに情報が売れるというのは初耳だったが、『暁の傭兵』に情報提供を行っていたのは一応俺なりに考えてのことだったんだが。
「せっかく教えてもらったところ悪いんだが、ギルドに俺の情報は売れないな」
「何故?」
先ほどとは違ってアーネから突き刺すような敵意を感じる。
『何で魔王に召喚されたのにこの国のために協力しない?』とでも思っているのだろうか。
「簡単だそれは俺が人族だからだ」
「……」
ラビスには自分が人族であることを言い訳にするなと言われたがこれは仕方が無い。
「敵対種族が提供した情報を、大事な冒険者に伝えるのか?さっきの話を聞いていると、ギルドの職員は随分と愛国心が強そうだがその分、敵対種族への負の感情も強いだろう」
なにせ、現在ヘルへヴンはファンタズムに劣勢を強いられているのだ。
良い感情など持てるはずも無い。
「だったら」
「俺が提供した情報をお前たちがギルドに売るのも無しだ。嘘を言うつもりはないが俺の情報も絶対に正しいとは言い切れない。もし俺の情報が間違っていてみろ、その責任がどこ帰属するのか分かるだろ」
「ギルドは情報の真偽を判断するための調査員を用意する。だから」
「『このモンスターの急所はここだ』といった情報なら捜査員がそのモンスターの討伐に行くのか?俺の情報が間違っていれば死人が出る可能性もある」
「……」
「背負う必要の無い責任をお前たちが背負う羽目になる。もしギルドが責任は問わないと言ったとしても、お前たちはそれで気にせずいられるのか?」
「……悪かった。お前もお前なりに色々考えてたんだな」
「一応な」
夜が明ける。
俺は立ち上がって軽く伸びをした。
固まっていた関節が鈍い音を立てながら解れていく。
「お前、意外と大変なんだな」
「……そうでもない」
俺は自分の国が敵国に攻め込まれたことも無ければ、目の前で大切な仲間を失ったことも無い。
彼女らに比べれば恵まれた人生だ。




