24話 あなたが嫌い
「……」
最悪の気分だ。
昨夜は一晩中、自分のした行為をひたすら後悔しながら座り込んで見張りを続けていた。
いくら考えても答えが出てこない。
俺はいったい、なぜあのような行動に出た?
昨日の手合わせ、その気になればすぐにでも終わらせられただろう。
確かに彼女は強かったが、現時点で六英雄を相手取るには到底足りない。
彼女がまだ俺に実力の全てを見せていない可能性も無くはないが、あれが全力なら俺にとっての脅威にはなりえない。
俺が強いのではない。
『六英雄』の加護が強力なのだ。
手を抜いていたわけではないが調整はしていた。
調整を誤れば本気で殺しかねないほどの力の差が、俺と彼女の間にはある。
ロボが万が一に備えて控えていたとはいえ、この世に『絶対』などありはしない。
その力を以てして、ただ彼女の言うように体力が尽き果てるまで付き合ってやれば良かった。
その方が簡単にあの場は収めることができたし、それは俺も理解している。
途中までは俺もそうするつもりだった。
最後の方は完全に蛇足だ。
疲れ果てた彼女を引き倒して終わり。
それで良かったではないか。
声を荒げて、怒鳴り付ける必要がどこにあった?
感情を吐き出すのは彼女だけで良かったはずだ。
にもかかわらず、俺は彼女に何を言った?
何様のつもりだお前は。
お前が彼女の何を知っている?
「本当に、なにをやってるんだ……」
頭をガシガシと乱暴に搔く。
この『暁の傭兵』との合同探索、正確にいつまでの予定なのか聞いておかなかったのは大失敗だ。
盛大にやらかした俺にとって今の環境は居心地が悪過ぎる。
まあ、完全に俺の自業自得ではあるのだが。
『ロボに頼み込んで抜けさせてもらうか?』
などといった姑息な手段が思いつくほどに俺は参っていた。
恐らく本気で頼み込めば、彼女は拒否しないだろう。
だが、それではあまりにも無責任だ。
自分が好き放題やった結果、居辛くなったのでパーティを抜けさせてくださいなどとは口が裂けても言えない。
「ねぇ……」
後ろから声をかけられる。
ラビスだ。
先ほどから気配は感じていたが一向に話しかけてこないので自分への用事ではないと思い込んで考え事に没頭していたのだが、そう上手くことは運ばないらしい。
何を言われても良いように身構えておく。
あわよくば
『もうこのパーティから出て行け!』
とでも言ってもらえないか期待しているあたり、俺も大概である。
「私、あなたのことキラーイ……」
「昨日は悪かった。俺が全面的に間違っていた」
最初の言葉は想定内だ。
むしろかなり優しい。
それはともかくパーティを離脱するにしろ残るにしろ、まずは謝罪だけはしておく。
「……間違ってはないよ。ただ、そんなに親しい仲でもないのにあんなにズケズケと物を言われるのはムカつく」
「そのうえ俺は人族だしな」
「それもキラーイ」
「は?」
後ろにいたラビスが横に座り、俺の顔を両手で挟みこんで強引に自分のほうを向かせた。
真っ赤な双眸には怒りの色こそ浮かんでいたが憎しみの色はなかった。
「なんでも自分の種族のせいにしないのー。仮にあなたが魔族だったとしても私はムカついてた」
じゃあ俺もうただの嫌な奴じゃん。
自覚はあるが。
「だから昨日みたいなのはもっと仲良くなってからにしてねー?」
言いたいことが良く分からない。
俺が混乱していると、彼女は小さく微笑んだ。
「あなたも、私たちと変わらないんだねー」
「……」
「怒ったりするんだねって事!今まではなんだか感情の無い別の生き物、モンスターと接してるような感覚だったからー」
「……そうか」
「私もさすがにモンスターとは友達になれないよ?」
「そこまで言うか」
「だからー、ディアボロはそうじゃないって分かったの!」
彼女はそう言って俺の頭を揺らしてくる。
本当に止めろ。
力が強過ぎるんだよお前らは。
「だからー、今は嫌いだけどディアボロとは友達になれる可能性も出てきたの!」
「そうなのか?」
「今は嫌いだけどねー?」
「それはもう分かったから」
滅茶苦茶念を押してきた。
俺が彼女にしたことを考えれば当然なのだが、分からないことがある。
なぜわざわざ『友達になる可能性』に言及してきたんだ?
『私はあなたが嫌いだ』だけで十分だろ。
「その感じキラーイ……」
「どうすればいいんだよ……」
不満げな視線を向けられても俺にはどうすることもできない。
どう対応するのが正解なんだこれ。
「ラビス、レドが呼んでましたよ」
「はーい、今行きまーす」
ロボに呼ばれた瞬間にラビスはそちらに跳んでいった。
本当に凄まじい瞬発力だ。
バスケットボールをやらせたらすごい選手になりそう。
「ラビスから話は聞けましたか?」
「聞けた。だが俺が嫌いだということしか分からなかった」
ロボが小さくため息をつく。
察しが悪くて悪かったな。
「彼女は結局、何が言いたかったんだ?」
「それは私の口からは言えません。あなた自身の力で気がつかねばならないことです」
「まるで教師だな」
「ええ、かつてはあの子たちの先生でしたから」
さすがに説得力が違う。
ただ、いつかは答え合わせをして欲しい。
今のままでは、永遠にその答えに辿り着けないような気がするから。




