20話 暁の傭兵
「ディアボロ!そっち行ったよ!」
レドの声が『境界の森』に響き渡り、目前に第四危険度モンスター、脚が数本欠けたスカルスパイダーが迫ってくる。
スカルスパイダーは機動力に優れたモンスターだが、その分脆い。
なのでパーティで討伐するなら前もって誰か一人を囮にし、動きを封じてから挟撃するのが一番簡単だ。
当然、今回は俺が囮役を申し出た。
襲い掛かってきたスカルスパイダーと衝突するが、予想通りさほど重さは無い。
暴れる足を抱え込み、こちらに喰らい付こうとする顎を掴む。
こいつの神経毒もかなりの脅威なのでそこには細心の注意を払う。
「っ!!」
身動きがとれず、無防備なその腹部にラビスが両手に握った二本のシミターを振り下ろす。
緑色の液体が飛び散り、耳障りな鳴き声とさらに暴れようとするがそれは俺が許さない。
こいつが死ぬのは時間の問題だろうが、死に際にこちらに致命傷を与えてくる可能性もあるのだ。
『ゲーム』のように目に見えるHPを0にすればいいというわけではない。
バランが両手剣をその首めがけて断頭台のように振り下ろす。
しばらくもがいていたスカルスパイダーの力が徐々に弱まり、完全に動きを止めた。
こいつらの恐ろしい所は、首を落としても、心臓を貫いても数秒は動けるところだ。
だから油断は決してできない。
「……良い、切れ味」
バランが剣を指でなぞりながら呟く。
以前討伐したヒトクチの歯を加工して鍛えられた一品だそうだ。
「私のシミターも、いい感じだねー」
ラビスのシミターにも同じ素材が使われている。
「ああ、前の物よりも上等だな。やはり素材がいいんだろうね」
「ずいぶんあっさり片付いたな」
「みなさん、お疲れ様です……」
他の三人とも合流した。
アーネが炙り出し、レドがスタミナを削る。
カロアは後方支援といったところだろうか。
話を聞くと彼女はすでに『第三段階』冒険者に昇級しているらしい。
ただ、まだ他のメンバーよりも遥かに経験が乏しいため自信が持てずにいるそうだ。
『第三段階』の冒険者ともなれば一般的にはもう一人前なので、それ相応の自信が持ててもよさそうなのだが。
俺はスカルスパイダーの牙から滴る毒液を小瓶に入れて採取していると、背後から視線を感じる。
「何してるんだ?」
「スカルスパイダーの毒液には麻痺付与の効果がある。少し回収して行こうと思ってな」
「なるほど……」
アーネが興味深そうに小瓶に入った毒液を見ている。
「知らなかったのか?」
「今まで第四危険度のモンスターに遭遇することなど、スタンピードの時くらいしかなかったからな。その時は素材を回収している暇など無かった」
ここは『境界の森』の入って間もない、まだ比較的浅い地点だ。
『境界の森』のモンスターは基本的に奥に進めば進むほどその危険度が上がる。
彼女も言っていたが、第四危険度のスカルスパイダーも本来であればこんな場所まで出てくるモンスターではないのだ。
そんなことを考えながら俺は小瓶をアーネに差し出す。
「これ、使うか?」
「いいのか?」
「構わない。持っている矢や、短剣に塗るといい。ただ即効性の毒だから扱いには注意してくれ」
「……分かった。使わせてもらおう、感謝する」
彼女は少し逡巡していたようだが、最終的に受け取ってくれた。
やはりまだ俺のことを警戒しているのだろう。
それでいい。
シーフにとってはその用心深さがメンバーを守る大事な武器となる。
「それにしても助かったよ。ディアボロのおかげで私たちも知らなかったモンスターの情報がたくさん手に入ったからね」
「気にするな。これは俺にとっても必要なことだ」
レド曰く、今後も一緒に戦うことになるであろう俺と交流を深めつつ、見慣れない高危険度のモンスターの討伐方法が知りたかったらしい。
いきなり自分のパーティに入ってくれと言われた時は、『何言ってんだこいつ』と思ったが理由を聞いてみれば納得できた。
提供するのが俺自身の情報ではなく、モンスターの情報なので俺にとっては何のリスクも無い。
むしろこれから一緒に戦う上で、向こうから情報の提供を頼んできたことは俺にとって渡りに船だった。
俺から情報の提供を申し出ることは、魔王とカミーラとの一件同様都合が悪い。
ただ、今回は俺がもし間違った情報をこのパーティに伝えたとしても同行している『第七段階』冒険者のロボが対処できるため問題は無い。
彼女らが俺の言った情報を受け入れている一番の要因はロボだろう。
これは俺にとっても嬉しい誤算だ。
「レド、そろそろ野営の準備をしましょう」
「そうですね!みんな今日のモンスター討伐はもう終わり!野営の準備をするぞ!」
しばらく離れていたロボが声をかけてくる。
彼女はもしものために周囲の警戒を買って出てくれていたのだ。
「話したいことが、たくさんあるからな」
「……楽しみ」
「先生の話も聞かせてもらいたいなー?」
「わ、私も」
パーティのメンバーがロボを取り囲んでいる。
彼女も満更ではないようで、その尻尾は小さく左右に揺れていた。
よっぽど好かれているのだろう。
いい風景だ。
俺は、その輪から少し離れて野営に適した場所を探しはじめた。




