21話 騒がしい夜
「それにしても、見れば見るほど男らしくないね」
「ここではそうらしいな」
野営の準備が整い、焚き火を囲んでの食事中に酒を飲んでいたレドが絡んできた。
ちなみにこの世界で言う男らしいとは小柄、華奢、中性的な顔のことを言うのだ。
俺が持っていた常識とはあまりにもかけ離れていて違和感がすごい。
「背も高いし体格もいい。あまり女に好かれる見た目ではないな」
「……悪いとまでは言わないけど」
「ちょっとみんな、やめなよー」
「そうですよ、ディアボロさんに失礼です……」
アーネとバランも乗っかってくる。
セクハラだろこれ。
幸い、ラビスとカロアは宥めようとしてくれてるみたいだが、他の酔っ払い3人はロボから向けられている冷たい視線にいつ気がつくのだろうか。
「悪い悪い。あたし、男を見るのってディアボロが初めてだったんだ。だから『吹き零れ』の時はそれどころじゃなかったけど、今日は結構緊張してたんだ」
「そうは見えなかったが」
「レドは昔から恥ずかしがり屋だったからな」
「そうは見えないんだが……」
アーネにからかわれている彼女の顔が赤いのは酒を飲んでるからなのか、照れているからなのか判別が付かない。
もともと若干赤ら顔なので余計にだ。
嘘をついてるようには見えないが。
「本当ですよ」
先ほどから静かに食事を取っていたロボが会話に混ざって来た。
「私が教官を務めていた時、彼女はオーガにしては珍しく内気な子で私も打ち解けるのに時間がかかりましたから」
「それがだんだん口数が多くなって、最後のほうなんか先生によく『少し静かにしましょうか』って窘められていたよねー?」
「おいおいそんな昔のことを持ち出すなよ!」
「これに懲りたらあまり人をからかい過ぎないことです。自分が仲良くなったと思う相手には特に考えずに物を言うのはあなたの悪い癖ですよ?」
「ごめんなさい…」
レドが縮こまる。
本当にロボには弱いなこいつ。
……は?
「仲良くなった?誰が?」
「お前と、あたしが。いやあたしたちか?」
「おい、私はまだ完全に信用してるわけじゃないからな」
「そうだよねー。アーネはこれからだもんねー?」
ラビスがそう言って隣に座るアーネに抱きつく。
「ええい、ひっつくな!バランとカロアはどうなんだ!?」
「……私は保留」
「わ、私はディアボロさんは信用できる方だと、その…」
バランはともかくカロアは人の顔色を窺い過ぎだろ。
俺の方にチラチラ視線を向けながら口ごもっている。
「え、そうなの?」
レドは皆のリアクションにキョトンとしている。
まさかさっきの本気で言ってたのか?
俺の方は全く仲良くなった記憶がないんだが。
「一緒に互いの命を預けあって戦ったんだぞ?これはもう深い仲になったも同然だろ」
「それはちょっと意味が違うかなー?」
レドの謎理論にラビスも少し呆れている様子だ。
全く意味が分からん。
飲み過ぎてるんじゃないか?
「もういい時間でしょう。明日に備えてそろそろ休みましょう。レドも、そんな感じですし」
「え?あたし、今どんな感じ?」
「フラフラな感じー」
「……先生、見張りの順番はどうしましょう?」
「そうですね、では……」
やはり見張りなどはしっかりと置くようだ。
当然と言えば当然だが少し新鮮だ。
一応、俺は『境界の森』入ってから探知系の専用スキル『帝王の縄張り』を使っている。
このスキルは自分の魔力を薄く周囲に漂わせる事で周囲の動向を探るスキルで有効範囲は半径約1km。
しかし一定の強さの存在しか探知できない、常に自身の魔力を相手に気取られない程度に調節しながら放出するので神経を使う、燃費が悪い、などメリットよりもデメリットのほうが目立つスキルである。
背に腹は代えられないため使っているが、これが黒曜の英雄専用スキルだというのだから笑えてくる。
使い勝手が悪過ぎるだろ。
とりあえず、誰が見張りをやっていてもこのスキルを使い続けることには変わりないので俺が立候補しておく。
「じゃあ俺がやろう」
「もう一人は私が」
俺が手を上げるとロボも追随してきた。
できれば見張りをしながら一人で考え事をしたかったのだが、そううまくはいかないらしい。
「じゃ、じゃあ次は私と……」
「いや、どうせ俺は眠れないから交代はいらない」
「でも」
「私も問題ありません。あなたたちはゆっくり休みなさい。彼とは少し話したいこともありますから」
えぇ、なんで……?
一気に気が重くなる。
「……そういうことなら」
「お任せしまーす」
そう言って『暁の傭兵』のメンバーはテントの中へと消えていった。
「……」
「……」
しばらく、お互いに無言の時間が過ぎる。
俺は気まずくなり、周囲の虫の鳴き声や焚き火にくべられた薪がはじける音に意識を向けているとロボが指を鳴らした。
空気が変わる。
「今、【静寂】の魔法を使いました。これで私たちの会話が彼女たちに聞かれることはありません」
「それで?」
尋問でも始める気か?
今まで彼女はあまり俺に突っ込んだ質問はしてこなかった。
と言うより俺のスキルや装備、戦闘面の情報を聞き出そうとすることはなかったように思える。
それを今聞くのか?
「彼女たちを見て、どう思いましたか?」
少し肩透かしを食ったような気分だ。
何が狙いだ?
「統率のとれたいい冒険者たちだと思う。才能がありすでに十分な実力を備えていながら、俺のような人族に教えを乞うてでも成長しようという気概が見える。…師が良かったのかもな」
「……随分と良い評価をしていただけるのですね」
ロボがわずかに目を見開く。
何を驚くことがある。
俺は事実を口にしただけだ。
「さすがに現状あの中でカロアの実力は1,2段劣るが、この調子ならさほど問題ではないだろう」
彼女は物覚えがよく、ヒーラーとしての才能も十分だ。
他のメンバーとの連携も上手くとれており、その精度はこれから更に上がっていくだろう。
ただ1つ、気になることがある。
「彼女、最初からヒーラーだったのか?」




