↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
臆病・口下手・不器用と三拍子揃った俺だがこの奇妙な異世界には負けたくない  作者: Deadfool


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/188

17話 孤狼王の極刑


 「さっきディアボロ様のことを、『魔王様が召喚した例の六英雄』と言ったな?」


 叩き付ける。

 給仕がくぐもった悲鳴を漏らす。


 「つまり貴様は、それを知った上で侮辱したわけだ。魔王様が直々に召喚の儀式を行い、呼び出した彼のことを」


 叩き付ける。

 テーブルの耐久力は限界に達し、砕け散る。


 「魔王様は決して、伊達や酔狂で膨大な魔力を必要とする儀式を行った訳では無い。分かるか?」


 叩き付ける。

 細かいテーブルの欠片が散らばった床に血溜りが広がり亀裂が走るが、ロボがその手を止める気配は全くない。


 「そ(・)れ(・)だ(・)け(・)の(・)価(・)値(・)が(・)あ(・)る(・)と思われたからこそ、彼をヘルへヴン(この国)に招いたのだ」


 叩き付ける。

 もはや給仕はピクリとも動かない。


 「彼への侮辱は魔王様への侮辱だ。よって」


 彼女はそこでようやく給仕の頭から手を離し、立ち上がると黒いブーツを履いた足を給仕の頭上に持っていく。

 白と黒のメイド服は返り血で真っ赤に染まっていた。


 「極刑に処す」


 パキャッ


 俺の目の前で、命が1つ消えた。


 俺は吐き気を必死でこらえながら店の外に出る。

 彼女の行動がもし、俺個人のために行われたことであれば恐怖を感じつつも止めに入っただろう。

 

 分かっていたことだ。

 覚悟はしていた。

 俺はそれほど気にしていない。

 報酬が約束されている以上、あの程度のことで俺が魔族に見切りをつけることはない。

 

 様々な言葉と実力を以ってして止めたはずだ。


 だが俺はそうしなかった。


 別に自分を馬鹿にしたような態度をとられたから、などといった理由ではない。

 ロボの言葉をそのまま受け取るなら、彼女は魔王への侮辱行為に対して刑罰を与えたと言うことになる。

 であれば自分は干渉すべきではないと思う。

 この国にはこの国のやり方がある。

 そこにこの国にとって異物である俺の倫理観を持ち込むべきではない。

 

 ここで正義感に溢れた優しい善良な人間であれば


 『こんなやり方は間違っている!命はそんな軽い物じゃない!』


 とでも言うのだろうが俺は違う。

 それを決めるのはこの国であって、自分の価値観を相手に押し付ける行為は害悪そのものでしかない。

 俺は優しくもなければ、正義感などといった高尚な物も持ち合わせてはいないのだ。


 あれ?

 思い出してみると俺も魔王に結構無礼な態度を取っているような気がする。

 気を抜いた瞬間に処されるかもな。

 

 「お待たせしてしまい申し訳ありません」


 ロボが店から出て来る。

 先ほどまで真っ赤に染まっていたはずのメイド服は、店に入るとき同様染みひとつない綺麗な状態だった。

 恐らく汚れを落とす魔道具か何かを使ったのだろう。


 「このあとはどうする?」

 「そうですね、結局昼食はとれていませんので…」

 「昼食はもういい」


 いや、昼食はもういいから。

 ただでさえ食欲ないのにあんなスプラッターな現場見せられたら何も食えねえよ。

 とりあえず歩き始める。


 「ですが」

 「言っていなかったが、俺もそれなりに食料は持ってるから心配はない。食事の提案を断ったのは、ちゃんと自分で用意した物を食べているからだ」


 そう言って俺は干し肉やローストチキン、牛串などを取り出す。

 肉ばっかじゃん。

 一応これらは回復アイテムとしても使っていた物だ。

 今思うと俺、戦闘中にこれ食ってたの?

 絵面が間抜け過ぎるだろ。


 「美味しそうですね」

 「多分旨い」


 ロボは俺が持つ干し肉に熱い視線を送っていた。

 俺は少し悩む。

 このアイテムの効果自体は知っているが、こっちに来てから使っていないので当然味は分からない。

 それなりの材料で作ったため、不味いと言うことはないと思うが自分も味が分からないものを人には勧め辛い。


 「もしよろしければいただいても?」

 

 人族から食べ物もらっちゃっていいの?

 さっきの店では結局彼女も何も食べていないので空腹なのは分かるが。

 

 「俺もまだ味が分からないからお勧めはしない」

 「毒ではないんですよね?」

 「それはない」


 仮にも回復やバフ付与アイテムなので間違っても毒ではない。

 ただ味がね。


 「純粋に興味があるのです。何があっても私の自己責任ですので、ディアボロ様はお気になさらず」


 そこまで言われてしまうと断りづらい。

 俺と一緒じゃなかったら彼女はさっきのステーキを食べる事ができただろうし。


 「言質はとったからな」

 「はい、ありがとうございます」

 

 彼女は俺が渋々渡した干し肉に何のためらいもなく食らい付いた。

 口の端から立派な犬歯が覗いている。

 絶対噛まれたら痛いでは済まないだろうな。


 「……これは、私が知っている干し肉とはかなり違いますね」

 「美味しくなければ、俺に気を使わずにすぐ吐き捨ててくれ」


 頼むから旨いのか不味いのかはっきりしてくれ。

 

 「とても美味です。ただ、美味し過ぎて困惑してしまったと言うか。これは保存食なのですよね?」

 「ああ、それは確かに保存食だ」


 彼女の尻尾を見ると小刻みに揺れていたので嘘はついていないように思える。

 もし意図的にこの動作をやっているのであれば、もう俺はお手上げ状態だ。


 「そもそもそれはアイテムだ。アイテムに使用期限や賞味期限はないからな」

 「……それは初耳です。ポーションなどもアイテムと言う括りになりますが、あれらにも使用期限は存在します」


 絶対俺、今余計なこと言ったな。

 最近長時間、人と話す機会がなかったためつい口が滑ってしまった。

 馬鹿か俺は。

 

 しかし、彼女はそのことについて何か追求してくることはなかった。

 助かった。

 

 「ところで、先ほど『俺もまだ味が分からない』とおっしゃいましたよね?」

 「ああ」

 「では、やはりディアボロ様は召喚されてからまだ一度も食事をとっていないということですね」


 助かってなかったわ。

 さっきからボロボロじゃねえか俺。

 何を油断してる。

 ここにはお前の味方は1人もいないんだぞ。

 気を引き締め直せ。


 「もう過ぎたことですし、それはもう水に流します。しかし今日はもう、町並みを見るどころではなさそうですね」

 

 そう言ってかロボが周囲を見渡すと目が合いそうになった人々はみんな目を逸らした。

 多分お前があの店で起こした公開処刑が原因だと思うんですけど。

 あの時、店内にはかなりの人数客がいた。

 その客があの後、町中で惨劇の様子を触れ回ったのかもしれない。

 

 「もう帰らないか?」

 「そうですね。続きはまた後日と言うことで」


 もういいから。

 もう腹いっぱいだから。

 

 「しかし、今日の『町を見てもらう』と言う目的は少なからず達成できました。ですので今日はもうお休みください」


 そう言ってロボは『転移結晶』を使用する。

 そのあと俺は少し用事を済ませて来ると言う彼女と別れてから自分の部屋に戻り、彼女に渡した干し肉を齧ってみた。


 


 彼女が『美味しい』と言ったその干し肉は、何の味もしなかった。


 

 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] どっちの意味で味がしなかったのだろうか
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。