15話 魔族の町
「おはようございます」
太陽がそこそこ昇った頃、ロボが俺を起こしに来た。
どうやらかなりゆっくり休ませてくれるつもりだったらしい。
結局いつまでも眠れなかった俺は、アイテムや魔道具を整理していたのだが気がついたらこんな時間になってしまった。
しかし、一人の空間で過ごせたので気力はかなり回復できた。
彼女を見ると昨日と同じメイド服姿である。
これでは俺がいくら目立たないように努力しても同行している彼女が目立つため無駄に終わっていただろう。
「……その格好で行くのか?」
「はい。ご不満でしたら着替えますが?」
「すまん。今のは忘れてくれ」
できればもう少し目立たない服装にして欲しかったが、この状況で着替えてくれと言える勇気は俺にはなかった。
相手が男性でも女性でも、その人の服装にケチをつけるのはどう考えても失礼だろう。
言動にも気をつけなければ。
反省しつつも装備を変える。
汚れの心配はないが『吹き零れ』の際、何人かの冒険者には今の姿を見られているため、せめてもの対策で着替えることにした。
少しデザインが違う黒いコート『黒龍の夜』を選択して装備する。
相も変わらず口元覆うような奇妙なデザインのコートだ。
これ、着替えた意味あまりないな。
俺は昔から人に口元を見られるのが嫌いだった。
自分の顔全体を他者に晒すのが何故か恥ずかしかった。
通っていた大学の教授が言うには、口元を隠す行為は自己防衛の表れらしい。
根が臆病な俺にはそれが当てはまっている気がして腑に落ちた記憶がある。
「分かりました。では参りましょう」
「どうやって行くんだ?」
「ここから町の入り口まで転移します。あなたには、我々魔族の『日常』を知ってもらいたいのです」
確かに、俺はこの国の魔族の日常について何も知らない。
少し、興味が湧く。
「準備はよろしいでしょうか?」
「大丈夫だ」
ロボは見た事がある石を取り出し、それに魔力を流し込んで起動させる。
『転移結晶』
自身の魔力を込める事で、1度訪れた場所なら即座に転移できる魔道具だ。
俺もよくお世話になった。
「それでは参りましょう」
一瞬の浮遊感と眩い光のあと。
俺たち二人は大きな門の前にいた。
人通りもかなり多い。
「ここが町の入り口です。少し手続きをしてきますのでディアボロ様は少々ここでお待ちください」
そう言ってロボは門番の元に向かう。
何人かの魔族からの何とも言えない視線を感じて非常に居心地が悪い。
彼女は門番といくつか言葉を交わしたあとにこちらに戻ってきた。
「お待たせいたしました。それでは参りましょう」
ロボの横に並び、門番の横を通って町の中に入る。
その際、門番たちは俺の方をじっと見つめていた。
門番は二人、1人がリザードマンで1人がミノタウロスであったが、やはり二人とも女性。
リザードマンは俺よりも少し背が低く、逆にミノタウロスの方はかなり筋肉質で俺より頭1つ分ほど背が高かった。
自分より身長が高い女性に会う機会などこの世界に来るまでなかったのでかなり威圧感を感じる。
「市場なども通りますので、何か欲しい物などがあればお申し付けください」
「わかった」
多分、それどころじゃない。
町に入る前からいろいろな音が聞こえていたが、実際に入ってみるとよりいっそう活気を感じる。
店先からは商品の値段を交渉する声が、喫茶店のような場所からは和気藹々と談笑する声が、走り回る子供たちの笑い声も聞こえる。
何人かの魔族はこちらに視線を向けてきたが、すぐに逸らして去っていった。
俺の心配は杞憂だったのかもしれない。
これではまるで自意識過剰ではないか。
かなり恥ずかしい。
「……俺の故郷よりよっぽど都会らしいな」
「ディアボロ様は、どのような場所に住んでおられたのですか?」
最悪だ。
無意識のうちに口に出していたらしい。
とは言え無視するわけにもいかない。
「ここよりずっと人も店も少なくて、周りはほとんど山や川、田畑ばかりの静かな場所だった。それでも俺にとっては居心地の良い場所だったが」
俺の生まれ故郷は本当に静かな場所だった。
周りには子供が少なく、ゲームセンターや映画館などの娯楽施設も電車で都市部まで向かわなければ見当たらないような田舎町。
大学進学と共に離れることとなったが、俺はそんなあの場所が好きだった。
自然が多い分四季を身近に感じることができ、さらに都会の喧騒とはかけ離れた静寂が俺の肌には合ったのだろう。
部活の帰りに小さな駄菓子屋で買ったアイスの味も、桜の木の下で寝転がった感触も、秋の涼しげな風も、冬のしんしんと降る雪の冷たさも、今でも思い出せる。
少し、泣きそうになった。
あそこはもう、俺の帰る場所ではなくなってしまったのだ。
「この町はどう見えますか?」
「ありきたりな言葉にはなるが活気があって、良い町だと思う」
「ディアボロ様には少し騒がしいのでは?」
「騒がしいと賑やかは違う。ここは、悪くない」
それは嘘偽りのない言葉だ。
少なくとも表面上はこの町の人々が幸せに暮らしているのが伝わってくる。
それもスタンピードに対応する冒険者、人族に対応する魔王軍あってこそなのだろうが。
にしても本当に色々あるなこの町。
怪しげな薬屋、鍛冶場、露天商、酒場、見世物……。
本当は中まで入って色々見て回りたいがさすがにそれは厳しいので断念する。
見るだけでも今回の目的は果たせるだろう。
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