11話 知らない事象
「お前の働きは、ロボから聞いている」
現在、俺はまたも魔王の執務室に連れて来られている。
前にはまたカミーラとレイラが並んで座っており、後ろではロボが扉の横に控えている。
何かやらかしてしまったのだろうか。
偉い人に呼び出されると不安になる人っているよね?
俺もだよ。
「お前は今回の『吹き零れ』を見て、どう思った?」
「あの冒険者たちに討伐を任せるのは厳しいと思う」
思い上がりではなく、今回の『吹き零れ』は俺がいなければ全滅だってありえただろう。
お世辞にも彼女らの戦力と対処すべき脅威の度合いが釣り合っているとは言えない。
あれではまるで討伐ではなく足止めだ。
「本来であれば彼女たちだけで十分対処できる相手のはずだった」
「今回の『吹き零れ』は予想を上回っていたと?」
「そうだね、彼女たちには本当に悪いことをした」
そう言いながらカミーラは大きな地図を広げた。
当然と言えば当然だが、そこにはヘルへヴンとそこに接した境界の森の一部しか描かれていない。
「今回ディアボロ君に向かってもらったのがここ、いくつかある入り口の1つだね」
カミーラが指した場所を見る。
魔王城への直線距離が一番短い場所だ。
さっきは余裕が無くて気がつかなかったが、過去に俺も1度通ったことがある。
「今までは数ある境界の森の出入り口を無差別に襲っていたモンスターが、ある時を境にこの場所だけを狙うようになった」
「現れるモンスターもその時からどんどん強く、凶暴になっている」
とても嫌な予感がする。
「ファンタズムがお前以外の六英雄を召喚してからだ」
ほら見ろ。
「我々は六英雄の召喚とスタンピードの変化に何かしらの因果関係があると見ているが、まだ明確な証拠は掴めていない」
「でも偶然にしては出来過ぎていると思わないかい?」
「……」
カミーラが俺を見ながら笑みを浮かべる。
その赤い双眸はまるで笑っていないが。
『お前、何か知ってるんじゃないか?』
『目は口ほどにものを言う』とはよく言ったものだ。
カミーラの言いたいことがたやすく分かる。
が。
知るわけないだろ。
俺が異世界から来たことを知っているならそれぐらい分かってもらいたいが、俺も自分が何の知識もないまま召喚された訳では無いことを思い出す。
中途半端なゲームの知識が恨めしい。
「何か、知らないか?」
口に出したぞこの魔王。
カミーラもその爽やかな笑みが若干引きつっている。
そんな明らかに『お前を疑っている』と取れる発言は悪手だろ。
「悪いがそこに関しては俺も分からない」
これは嘘じゃない。
たいしてアテにならないであろう過去の記憶を掘り起こしてみても該当する物は思い当たらなかった。
英雄召喚のたびにスタンピードが強化されるなんて描写、少なくとも俺の記憶にはない。
ストーリーを進めていくにつれて、激化した魔族と人族の戦争に戦場となった境界の森が影響を受けてスタンピードが強化される描写こそあったがやはり英雄召喚との関連性は見出せない。
では複数の英雄が召喚されたことがトリガーになったのか?
思い出せディアボロ。
俺を召喚した神官は、英雄は1人しか召喚できない理由をなんと説明していた?
「聞きたいことがある」
「何かな?」
「お前たちは俺をどうやって召喚したんだ?」
「『女神の涙』を用意し、そこに私が魔力を注ぎ術式を起動させた」
「その『女神の涙』はどうやって手に入れた?」
「ファンタズムの大神殿『サンクチュアリー』を襲い、そこから奪った」
予想通り。
魔族に英雄召喚の術式が展開できるのは知らなかったが、そこ以外は俺の知っている方法と同じだ。
だがまだ足りない。
「よく英雄召喚の術式を起動する方法が分かったな」
「ああ、それはね。この『万能のスクロール』を使ったんだ」
カミーラ黒い渦の中から一枚の古びた巻物を取り出す。
「これを使えば、1度展開されたことのある術式は起動方法が浮かび上がるって仕組み。すごい優れものだけどその代り、かなり魔力を持っていかれるから君を召喚する時には私が使ったけどね」
「私にはお前を召喚するための魔力を残しておく必要があったからな」
「それに滅多に手に入らない上に一度きりの使い捨て。まあ効果を考えれば妥当ではあるのかな?」
知らない魔道具だ。
でもこれで彼女らが正規の、とまでは行かないまでも俺の知る召喚方法を用いていたことが分かった。
「何故、英雄召喚に『女神の涙』が必要なことを知っていたんだ?」
「私より前の魔王が英雄の一人を殺した際に、『私を殺したところで、私の中にある『女神の涙』は大神殿へと還る!それがある限り英雄は何度でも召喚され、貴様ら薄汚い魔族を根絶やしに来るぞ!!』と叫んでいたらしい」
「それを信じたと」
アホだろそいつ。
たぶんそいつがいなければ今頃ファンタズムには俺を含んだ六英雄が揃って魔族を根絶やしにしてたぞ。
大戦犯じゃねえか。
「一応言っておくけれど、さすがにその情報だけを信じたわけじゃないよ?」
「それ以前の文献からも英雄召喚に用いられる『女神の涙』についての記述は確認できていた。我々はそれでもなお、分が悪い賭けになることは承知でお前の召喚を決行した」
ある程度の裏づけは取れていたのか。
待て。
俺は何か忘れていないか?
『女神の涙』が今俺の中にあるなら、他の六英雄たちを召喚する際に用いられた『女神の涙』はどこへ行った?
そうだ。
英雄召喚に1つしか存在しない『女神の涙』使用し、その英雄が存命の間は一体化している『女神の涙』が使用できない以上他の英雄を召喚することは不可能なはずだ。
つまり。
俺以外の六英雄は『女神の涙』を使用しない他の方法で召喚された、もしくは本来1つしか存在しないはずの『女神の涙』が複数存在する?
どっちだ?
もし他の方法があるとすればそれをどこで知った?
もし『女神の涙』が複数存在するのであればそれをどこで手に入れた?
俺が思い当たる場所なんて『境界の森』ぐらいしかない。
ただの考え過ぎであって欲しい。




