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アルビオン王国宙軍士官物語~クリフエッジと呼ばれた男~(クリフエッジシリーズ合本版)  作者: 愛山 雄町
第九部「輸送船団を死守せよ」

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第五十一話

 宇宙暦(SE)四五二六年八月十九日。


 シェンタオ星系のリアンユジャンプポイント(JP)近くでの戦いはアルビオン艦隊の勝利で終わった。


 ゾンファ艦隊は戦闘艦三百隻中、百七十隻余りが撃沈もしくは放棄された。また、中破以上も六十隻を超え、戦闘力を有している艦は六十隻余り、喪失率は五十七パーセントと壊滅と言っていい。


 一方のアルビオン艦隊は集中的に攻撃を受けた第三戦艦戦隊で喪失十二、大破三、中破五という壊滅状況だが、この他の戦隊では重巡航艦七、駆逐艦二十五隻が喪失、中破以上は重巡航艦八、軽巡航艦一、駆逐艦三十二で、全体での喪失率は二十五パーセント以下だ。


 二倍近い戦力であったゾンファ艦隊が壊滅的な状況に陥ったのはソン・ジジエ大佐の戦艦スーチュアンを含む三十二隻が暴走して壊滅されたことに加え、二百隻規模の高機動戦闘という通常では行われない戦闘についていけなかったことが大きい。


 また、ゾンファ各艦の士官の質が低いことから、ダメージコントロールが不完全で、その結果、放棄せざるを得なくなったことも大きな要因だ。


 クリフォードは脱出した将兵の回収状況を確認していた。


(オーティス艦長は無事に収容されたようだな。彼女の覚悟とサムの判断がなければ、もっと多くの犠牲が出たはずだ。しかし、私に対する憎悪がここまでとは思わなかったな……)


 今回の戦闘のきっかけが自分に対する憎悪であったことは彼にとって衝撃的なことだった。


「第三戦艦戦隊の各艦の応急補修は順調です。ランジョン星系にジャンプする前には完了できそうです」


 サミュエルの報告を受け、クリフォードは小さく頷く。


「助かるよ。他の戦隊でも放棄する艦はなさそうだし、民間船にも被害は出なかった。君とオーティス艦長のお陰だ」


「ありがとうございます」


 サミュエルはそう言って笑顔を見せる。


「オーティス艦長ですが、ウォースパイトに無事収容されたそうです。ドレッドノートの乗組員は七割程度が脱出に成功しています。これは脱出時に生存していた乗組員全員だそうです。あの激戦の中で敵にばれないようにしながら脱出できたことは賞賛に値しますね」


 ドレッドノート223は旗艦に偽装するため、最前線に出ていた。また、クリフォードを逃がすまいとするゾンファ艦隊はドレッドノートに注目しており、激戦の中であっても気づかれずに脱出することは至難の業だ。


 そんな話をしていると、副官のヴァレンタイン・ホルボーン少佐が、通信が入ったことを報告する。


「オルセン少将からの通信が入っています。少将(サー)


「繋いでくれ」


 すぐに第五重巡航艦戦隊司令官ネヴィル・オルセン少将の姿が映し出される。


『生存者の収容が終わった。司令官代行としてゾンファ艦隊に通信を入れるが、何か注意すべき点はあるだろうか?』


「脱出したゾンファ将兵は捕虜にしていない旨を強調してください。但し、攻撃の意思が見えたら、手近な脱出ポットの安全は保障できないとも伝えてください」


「それにはどのような意味があるのだ?」


 オルセンが疑問を口にする。


「スループを密かにゾンファ星系に送ります。ですので、ツォン中将がリアンユ星系にすぐに戻らないようするため、脱出ポットがより広範囲に散開し、救助に時間が掛かるようにします。ですので、怒りを抑えているという感じで話していただければと思います」


 クリフォードは戦闘に参加させなかったスループ艦を密かにゾンファ星系に向かわせている。スループ艦は総質量五万トン程度と超空間航行(FTL)が可能な艦船の中で最小であり、ジャンプアウト時の時空震が小さく密かに星系に侵入できる。


 その性能を生かし、最新の情報をアデル・ハース大将率いるゾンファ星系派遣艦隊に伝えたいとクリフォードは考えていた。


『了解だ。ならば、五時間程度動くなと言っておいた方がいいだろう。私の目付きの悪さが役に立ちそうだな』


 オルセンは鋭い目つきで笑うことが少ないため、機嫌が悪いと思われることが多い。以前はそのせいで艦長から嫌われていた(第二部参照)。

 クリフォードはそのことを思い出し、苦笑しそうになるが、表情を引き締める。


「よろしくお願いします。この星系を脱出するまで、ゾンファ艦隊の追撃は受けたくありませんし、ハース提督に正確な情報をお伝えしたいですから」


 クリフォードは通信を切ると、シートに深く沈み込む。


(多くの将兵が無駄に死んだ。それにこの後もどうなるか分からない。私が指揮を執らなかった方がよかったのか……)


 彼が挑発したわけではなく、ソンが勝手に暴走した結果だが、自分が原因であることに忸怩たる思いを抱いていた。


■■■


 宇宙暦(SE)四五二六年八月十九日。


 ツォン・ダーバオ中将はオルセンからの通信を聞いていた。


『ゾンファ軍リアンユ星系防衛艦隊に告ぐ。アルビオン艦隊の司令官代行ネヴィル・オルセンだ。我が軍の将兵の救助は完了した。貴艦隊の将兵は捕虜としていない。救助活動を妨げる気はないが、小官は不当な攻撃を行った貴艦隊を信用していない。救助活動はこれより五時間後以降に開始することを勧告する。本勧告に従わない場合は奇襲攻撃の恐れがあるとして、貴艦隊に攻撃を行う。また、漂流する救助ポットを回収し、捕虜として連行する。この場合、正当な理由なく攻撃を行った武装勢力の一員として、我が国もしくは自由星系国家連合(FSU)の航宙法に従って厳正に処分する。以上だ』


 その通信を聞いた後、参謀長のシェン・レー少将が溜息を吐く。


「脱出した我が軍の将兵を捕らえて海賊として処分するということですね。まあ、彼の言い分は分からないでもありません。ソン大佐の暴走とはいえ、宣戦布告をしていない状況、すなわち、停戦協定が有効な状況で、協定によって安全が保証されている輸送部隊を正当な理由なしに攻撃したのですから、軍人としての権利を主張することはできませんから」


 ペルセウス腕銀河には捕虜交換など戦争に関するルールは明確にされていないが、以前の銀河帝国や銀河連邦で行われていた不文律は存在する。


 その中には軍人に対する扱いもある程度決まっており、捕虜が犯罪に関与しておらず、命令に従って戦闘行為を行った場合は国内法で裁かず、停戦後に扱いを協議することが定められている。


「従わざるを得ないな。敵の方が確実に戦力は上だし、英雄であるコリングウッドを殺した我々に復讐したいと考えているはずだ。これ以上、戦死者を増やすことに意味はない」


 ツォンはクリフォードが戦死したと確信している。その根拠は旗艦が撃沈した際に脱出した者が確認できなかったことと、オルセンが司令官代行として指揮を執っていることだ。


「私も賛成です。脱出ポットが広範囲に広がりますが、駆逐艦や軽巡航艦を送り込めば、回収は難しくありませんから」


「全員を回収したら本星に戻る。戦争犯罪人として私の首が必要になるだろうから……」


 ツォンはクリフォードを殺すという選択を行ったが、そのことは後悔していなかった。


「……それに私が王国艦隊に引き渡されれば、政治家たちが利用するはずだ。宿敵コリングウッドを倒した英雄(・・)を見殺しにするのかと言って、将兵や民衆の怒りを掻き立てるために……」


 ツォンは英雄という言葉を使ったが、自嘲する口調だった。自分が作られた英雄として殉死させられると考えているからだ。


「その時は私もお供しますよ。司令官と参謀長がいれば、他の者たちの罪を問うようなことはないでしょうから」


「そうだといいがな」


 そう答えた後、彼は思いに耽る。


(この後はどうなるんだろうな。本星にいる連合艦隊に情報が届かないように星系を封鎖することはできるが、輸送船団が戻るから王国とFSUには情報が届く。この先、我が国はどうなるんだろうな。まあ、私にはそれを見届けることはできないのだろうが……)


 ツォンは死を覚悟していた。

 人身御供として王国かFSUに引き渡され、戦争犯罪人として裁かれるか、政府が責任を押し付けて処刑するかのどちらかだと思っているためだ。


 彼はそんなことを考えながら、アルビオン艦隊のアイコンが映るメインスクリーンを見つめていた。


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