表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルビオン王国宙軍士官物語~クリフエッジと呼ばれた男~(クリフエッジシリーズ合本版)  作者: 愛山 雄町
第九部「輸送船団を死守せよ」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

419/432

第四十八話

 宇宙暦(SE)四五二六年八月十九日。


 ゾンファ共和国軍リアンユ星系防衛艦隊司令官ツォン・ダーバオ中将は旗艦バオシャンの戦闘指揮所(CIC)で指揮を執りながら、メインスクリーンに映るアルビオン艦隊のアイコンを見つめていた。


(さすがは戦術家としても名高いコリングウッドだ。ミサイル攻撃がほとんど無効化された。だが、戦力差を広げることはできた。それに敵のミサイルはあと二連射分、一千基ほどだ。ここで使ってくるだろうから、上手く対処できれば、戦艦を全滅させることは難しくない。だが、あの粘り強さは厄介だな……)


 第三戦艦戦隊の各艦は何度も直撃を受けながらも戦線を維持している。その粘り強さにツォンも手を焼いていた。


 しかし、彼にはまだ余裕があった。

 元々ゾンファ艦の主砲出力はアルビオン艦より高い。


 特にゾンファの軽巡航艦は他国とは異なりステルスミサイルを装備せず砲撃力を強化している。その性能は重巡航艦の小型版といえるもので、単純に砲撃能力を比較するなら二倍以上だ。


「敵艦隊ミサイル発射。数約六百基。約百五十秒後に到達します」


 情報参謀の報告を受け、ツォンはミサイル迎撃を命じた。


「密集隊形を取り、戦隊単位でミサイル迎撃を行え。敵のミサイルは一艦に二発程度だ。敵の砲撃が激しくなるが、落ち着いて対処すれば脅威にはならない」


 クリフォードが考えた戦隊旗艦に同調するミサイル迎撃法はゾンファ艦隊でも採用され、標準迎撃方法としてマニュアル化されている。

 そのため、未熟な士官が多いツォン艦隊でも混乱が起きることなく、迎撃態勢を構築していった。


「右舷前方よりステルスミサイルが接近! 約一千!」


 情報参謀が焦った声で報告する。

 ツォンも驚き、メインスクリーンに視線を向けた。

 突然現れたアイコンに声が裏返る。


「何! どこから現れたのだ!」


「分かりません! アルビオン艦隊のミサイルと同時に到着します! あと三十秒です!」


 その報告にCICに動揺が広がる。


「数が増えてもやることは同じだ! ミサイル迎撃に集中せよ!」


 その時、参謀長のシェン・レー少将が声を上げる。


「敵重巡航艦戦隊が前進を開始しました! 駆逐艦約三十五隻も追従!」


 第五重巡航艦戦隊と第十二駆逐艦戦隊を示すアイコンが前進を始めていた。


「慌てるな! 今はミサイル迎撃に集中せよ!」


 命令を出したが、ツォンは自分の命令が正しいのか不安を感じている。


(敵の策に嵌まっている。ミサイル迎撃に注力することも見透かされているはずだ。この状況はまずいぞ。こちらの方が敵より多いとはいえ、すれ違った後に敵の分艦隊が側方から攻撃してきたら、練度が低い我が艦隊はパニックに陥る。どうしたらよいのだ……)


 ツォンも戦術家として優秀であり、クリフォードが狙っている作戦が何か即座に理解できた。

 しかし、二百隻以上の艦隊で複雑な戦闘機動を行うことは想定していなかった。


「ミサイル接近! 迎撃開始!」


「十五テラワット級陽子加速砲直撃! 敵重巡航艦の主砲の模様!」


「ジャンスー、フーペイ喪失! ビアン、フートウ喪失!……」


 ミサイル攻撃とそれに合わせた砲撃に耐えきれなかった艦が次々と沈んでいく。その数はツォンが確認できただけでも三十隻を超えていた。

 艦隊は混乱に陥り、隊形が崩れている。


「ミサイルは使い切った! 敵戦艦戦隊に砲撃を集中せよ! 戦力的には互角になったにすぎん! 祖国の宿敵、コリングウッドを倒すのだ!」


 ツォンは指揮官シートから立ち上がり、拳を振って鼓舞する。普段冷静な彼の姿と異なることにシェンは驚いたが、すぐに意図を理解した。


「司令官のおっしゃる通りだ! コリングウッドを倒すことにのみ集中するんだ! 奴を生かしたまま返せば、我々は戦争の引き金になっただけの愚か者だ! 祖国のために奮戦せよ!」


 本来冷静であるべき参謀長が大声で鼓舞する。二人の声は全艦に送られており、ゾンファ将兵全員が自分たちの置かれた立場を理解した。


『このまま国に帰っても恥を晒すだけだ!』


『刺し違えてでも奴を倒せ!』


 兵士たちもこのまま帰国すれば、戦争を引き起こしたにもかかわらず、ただ一人の士官すら倒せなかった無能と言われると考えた。


 もちろん、下士官兵の中には無駄に戦端を開いたソン・ジジエ大佐ら士官の責任であり、下っ端である自分たちには関係ないと思っている者もいる。しかし、愛国的な考えの同僚たちの前でそれを言うことは憚られ、熱狂の渦に巻き込まれていった。


 参謀や情報士官が大声で報告を上げ始める。


「敵戦艦二隻轟沈! 四隻が戦線離脱! 敵戦艦は残り十二!」


「軽巡航艦戦隊旗艦ウヤ大破! ヤンズが指揮を引き継ぐとのこと!」


「重巡航艦戦隊より、敵重巡航艦戦隊に目標を変更したい旨、上申あり」


 ほぼゼロ距離になり、激しさを戦闘は激しさを増していた。


「ヤンズの指揮権を認める。重巡航艦戦隊の上申は却下。敵戦艦に集中せよ」


 側面から攻撃している第五重巡航艦戦隊と第十二駆逐艦戦隊はゾンファ艦隊に着実に損害を与えているが、駆逐艦を含む七十隻程度の砲撃では大きな損失は出ないと、ツォンは割り切った。


「敵戦艦一隻轟沈!」


「よし! このまますれ違いながら攻撃を続行!」


 ツォンはクリフォードを倒すという目的を達成できると考え、笑みが零れる。


(まだこちらには百五十隻以上の艦があるのだ。戦艦の防御力でも耐えきれないはずだ……)


 ミサイル攻撃により、六十隻以上が撃沈されている。また、その後の砲撃戦により、三十隻ほどが沈められ、暴走した三十二隻を加えると、百二十隻以上を失っている。

 また、損傷した艦も多く、三十隻近くが戦線を離脱していた。


 一方のアルビオン艦隊だが、第三戦艦戦隊に攻撃が集中しているため、他の戦隊には大きな損害はない。


 既に艦の数ではアルビオン艦隊の方が多くなっているが、ツォンはこのすれ違いざまの攻撃に賭けていた。


(目的はコリングウッドを倒すこと。どの戦艦が旗艦かは分からないが、全滅させれば問題はない。部下を残してコリングウッドが艦から逃げることはないから、これで奴を殺せるはずだ……)


 スヴァローグ帝国のソーン星系での戦いにおいて、クリフォードは大きく損傷した旗艦を見捨てず、捕虜になっている。また、最初の指揮艦である砲艦でも爆発寸前に退艦したことは有名で、ツォンもそのことを知っていた。


(この距離なら駆逐艦の主砲でも十分な脅威となる。戦艦を全滅させたら、即座にリアンユに戻る。無駄に部下を失う必要はないからな……)


 旗艦を狙うことは常套手段であるため、どの国でも特定されないように工夫している。

 特に通信については旗艦から全艦に直接送るのではなく、別の艦を経由する。また、経由する艦を変えることでどの艦が旗艦か判別しにくくしていた。


 アルビオン艦隊では軽巡航艦が旗艦である駆逐艦戦隊は別として、同じ艦種の戦隊では艦の性能から旗艦を割り出されないように質量や機関出力などのスペックを同じにしている。これによりデータを解析されても旗艦を割り出すことは困難だ。


「駆逐艦戦隊ミサイル発射! 全弾発射せよ!」


「このタイミングでミサイルですか?」


 シェンが思わず聞き返す。

 接近した状態でミサイルを発射することは珍しくないが、戦隊の隊列が崩れており、一斉発射とならず、簡単に迎撃されてしまうからだ。


「当たらずともよい。少しでも敵を慌てさせることができれば、砲撃の助けになるからな」


「なるほど。了解しました」


 その命令を受け、駆逐艦から五月雨式にミサイルが撃ち出されていく。


「あと十分で終わりだ! 安全規定の逸脱は認める! 加速空洞が焼けるほどの攻撃を行え!」


 ツォンは力強く命令を出していった。


感想、レビュー、ブックマーク及び評価(広告下の【☆☆☆☆☆】)をいただけましたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
かなり自信があるようですね。ただ崖っぷち大将を甘く見ない方が良いのでは?かなり痛い目にあうかも
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ