第四十七話
宇宙暦四五二六年八月十九日。
クリフォードは艦隊に指示を出しながら、敵艦隊の状況を確認する。
(隊列が崩れつつある。このままいけば敵に大きな打撃を与えることができるが、決定力に欠ける……)
敵を翻弄するためベクトルを変えながら、輸送船団が放出した一千基のミサイル群に接近していた。
既に放出されている一千基のミサイルに加え、艦隊から発射する六百基のミサイルで攻撃を掛けるつもりだが、思っていた以上に的確に追従してくるため、奇襲効果を考えても決定打にならないのではないかと考えていた。
その間にも敵の激しい砲撃は続いている。
「第五重巡航艦戦隊より報告! コーンウォール451被弾! 主砲損傷!」
「第八駆逐艦戦隊より報告! アロー196、通常空間用航行機関損傷! 艦隊の機動には追従可能!」
「第二十三駆逐艦戦隊より報告! ビーグル559、大破! 総員退艦中!」
敵との距離は二十光秒を割り込み、重巡航艦も砲撃に加わり始めていた。そのため、直撃を受ける艦が増え、その報告がひっきりなしに上がってくる。
クリフォードはそれに応えながらも命令を出す。
「全艦右舷九十度回頭。この場で迎え撃つように見せるんだ!」
「「了解しました、少将!」」
戦闘指揮所のあちこちから了解の声が上がる。その声には力があり、士気が保たれていることにクリフォードは安堵していた。
(策が成功した後も厳しい戦いが続く。だが、旗艦のCICの士気が落ちなければ、艦隊もそれに続くはずだ。サムはよくまとめてくれているな)
そんなことを一瞬だけ考えたが、すぐに次の命令を出す。
「第三戦艦戦隊、この場で砲撃戦を行え! 第五重巡航艦戦隊に連絡! 第十二駆逐艦戦隊を率い、敵艦隊の左側面を窺うように機動せよ。第八駆逐艦戦隊、第二十三駆逐艦戦隊は戦艦戦隊の後方で待機」
クリフォードの前ではサミュエルが力強く明るい声で命令を出している。
「第三戦艦戦隊各艦に連絡! この場で敵を迎え撃つ! 戦艦の見せ場だぞ!」
副官のヴァレンタイン・ホルボーン少佐が報告を上げる。
「オルセン少将より命令を受領する旨、報告がありました! ミサイル攻撃の準備も命じたとのことです」
「了解だ、ヴァル。さすがはオルセン少将だな。私の考えはお見通しのようだな」
クリフォードもサミュエルに倣い、あえて陽気な声で答えた。
「敵艦隊距離十二光秒! 軽巡航艦、駆逐艦も砲撃を開始しました!」
作戦参謀兼運用参謀のリンジー・バウケット中佐がやや高い声で報告する。
「了解。敵のミサイルが来るぞ! ミサイル防衛体制に入れ!」
「「「了解しました、少将!」」」
戦闘指揮所に了解の声が響く。
「敵ミサイル群確認! 距離三光秒! 数約一千基!」
情報参謀のウォルター・リントン中佐がいつも通りの大きな声で報告する。
「了解。サム、頼んだぞ!」
旗艦艦長のサミュエル・ラングフォード大佐に声を掛ける。
「任せてください! 操舵長! 君ならこの倍でも問題ないはずだ! 気楽にとは言わんが、いつも通りにやってくれ!」
「了解しました、艦長!」
第三戦艦戦隊のすべての艦が旗艦に同調する。
「敵ミサイル接近! 数は二十! 十基破壊!……二基が抜けてきます!」
「衝撃に備えろ!」
サミュエルの声が響いた直後、激しい揺れがCICを襲う。
一瞬、照明が点滅したが、すぐに通常の照明に戻った。
「被害状況を確認! 操舵長は手動回避継続!」
サミュエルが厳しい口調で命令する。
「至近弾の模様! 最外殻ブロックで減圧を確認。自動隔離により応急処置済みです」
「兵装関係異常なし!」
「機関異常なし! 対消滅炉も全系列正常です!」
「防御スクリーン、B系列停止! A及びC系列正常! B系列再起動シーケンス中!」
次々と報告が上がるが、大きな損傷がなかったことにクリフォードは安堵する。しかし、艦隊全体では少なくない数の損害が出ていた。
「コロッサス119,センチュリオン552、連絡途絶! デヴァステーション65より対消滅炉損傷との報告あり!」
「第五重巡航艦戦隊、戦闘不能三、中破四。第八駆逐艦戦隊、戦闘不能二、中破二。第十二駆逐艦戦隊、戦闘不能四、中破二。第二十三駆逐艦戦隊、戦闘不能三、中破四。各戦隊の旗艦は健在です!」
バウケットとリントンが報告する。
「了解。作戦を続行する」
一千基近いミサイルと後方からの攻撃を受けたが、戦闘力で十パーセント程度の損害で済んでいた。
(思ったより軽微で済んだ。問題はこれからだ……)
この時、ゾンファ艦隊との距離は既に十光秒を割り込んでいる。これはアルビオン艦隊が〇・〇二Cまで減速しているためで、彼我の距離は急速に接近していた。
そのため、両艦隊では激しい砲撃戦が繰り広げられている。
特に第三戦艦戦隊はクリフォードの旗艦があることから、集中的に狙われていた。
「ルーシャン級戦艦の主砲直撃! A系列防御スクリーン過負荷停止! 質量-熱量変換装置八十パーセント! 安全基準を超過する恐れがあります!」
機関士の声が焦りを含んだ声が響くが、サミュエルは冷静な声で命令を出す。
「B系列の再展開急げ。MECが厳しいようなら一時的にリアクターに逃がすよう機関制御室に伝えろ」
戦術士の声が被る。
「主砲命中! フージェン級戦艦撃沈!」
「了解」
サミュエルはそう答えた後、クリフォードの方に一瞬だけ視線を向けた。
この時、アルビオン艦隊は輸送船団が放出したミサイル群の中に接近しており、そろそろミサイル発射の命令が出ると思ったためだ。
彼の予想は当たった。クリフォードは全艦に命令を出す。
「全艦に命令。ステルスミサイル発射せよ。バウケット中佐、艦隊のミサイル発射八十秒後に船団の放出したミサイルに起動信号を送れ」
「了解しました、少将。艦隊のミサイル発射八十秒後に、起動信号発信します」
この時、アルビオン艦隊とゾンファ艦隊との距離は八光秒。アルビオン艦隊のミサイルが最大加速度二十kGで移動すると百六十秒後に到着する。
一方、放出されたミサイル群はゾンファ艦隊の右舷前方四光秒。起動を遅らせることで同じタイミングでゾンファ艦隊に届く。
八十秒後、バウケットが命令を実行した。
「ステルスミサイル起動信号発信しました」
「了解」
クリフォードは答えながらメインスクリーンに視線を向ける。そこではステルスミサイル群を表すアイコンが一斉に動き出した。
その間にも激しい砲撃戦は続いていた。
「バリアント187より報告! 主砲及びZプラス方向スラスター損傷。ドレッドノート223の後方で防御に徹するとのことです!」
「了解」
クリフォードは答えながら第三戦艦戦隊の状況を確認する。
(艦長がベテランだけあって、ドレッドノートとウォースパイトはよくやっている。サムの手が回っていない分、他の艦のフォローまでやってくれるとは思わなかった……)
ドレッドノート223の艦長ロビーナ・オーティス大佐は若くして昇進したクリフォードとサミュエルのことを嫌っており、演習では事あるごとに反対意見を出すなど、非協力的な態度が目立った。
ウォースパイト451の艦長デリア・フロスト大佐はクリフォードのことは認めたものの、縁故で旗艦艦長になったサミュエルに対して強く当たることが多かった。
しかし、二人とも戦艦らしい粘り強い戦い方で、戦線の崩壊を防いでいる。
戦艦戦隊が盾になっているため、後方にいる第八駆逐艦戦隊と第二十三駆逐艦戦隊には大きな被害は出ていない。
「第五重巡航艦戦隊のオルセン少将に連絡。攻撃を開始。その後、加速し敵左翼を通過後、反転。後方より攻撃せよ」
第五重巡航艦戦隊は第十二駆逐艦戦隊と共にアルビオン艦隊の右舷側に移動していた。ゾンファ艦隊は第三戦艦戦隊に攻撃を集中しているため、ミサイル攻撃後は損害が出ていない。
第五重巡航艦戦隊はゾンファ艦隊の左翼側、すなわち輸送船団が放出したミサイルとは反対側に位置している。
もっとも完全な側面ではなく、左舷三十度程度の位置でしかない。正面に近い位置から突破するように見えるが、既に彼我の距離は五光秒にまで近づいており、突破に必要な時間は短く済む。
第五重巡航艦戦隊が動き始めたところで、千六百基に及ぶステルスミサイルがゾンファ艦隊に殺到した。
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