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アルビオン王国宙軍士官物語~クリフエッジと呼ばれた男~(クリフエッジシリーズ合本版)  作者: 愛山 雄町
第九部「輸送船団を死守せよ」

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第四十六話

 宇宙暦(SE)四五二六年八月十九日。


 ゾンファ共和国軍リアンユ星系防衛艦隊がジャンプアウトした。


「アルビオンの護衛艦隊はランジョン星系ジャンプポイント(JP)行き航路上、約三十四光秒の位置にあり! 輸送船団は更に約十三光秒前方です! 護衛艦隊は〇・〇二四光速()で慣性航行中!」


 ツォン・ダーバオ中将の旗艦ルーシャン級バオシャンの戦闘指揮所(CIC)で情報参謀の声が響く。


「敵艦隊に向けて三kGで加速開始。目標は護衛艦隊。戦艦は確実に沈めるぞ」


 ツォンの冷静な声に司令部とCICの要員が「「「了解!」」」と答える。


「スーチュアンと同行した艦の敵味方識別信号(IFF)が確認できません。脱出ポットの救難信号は確認できますから、殲滅されたようですね」


 参謀長のシェン・レー少将が感情を排した声で報告する。


「そのようだな。脱出した者には悪いが、まずは敵を叩く。仇は取らせてもらうぞ」


 脱出ポットは〇・一五Cという速度で流されているため、JPから大きく離れている。


「アルビオン艦隊のデブリはありません。百基以上の最新ミサイルが発射されたはずですが、無傷のようです」


「あの画期的なミサイル防衛戦術を考えた男だ。距離もあっただろうし、百基程度のミサイルでは無効化されてもおかしくはない。それよりも奇襲に使えなくなった。このことの方が痛いな」


 外付けのミサイルポッドは奇策として用意したものだが、暴走した部隊が使うことは容易に想像できることから、アルビオン艦隊に看破されているとツォンは考えていた。

 約二分後、アルビオン艦隊に動きが出る。


「アルビオン艦隊、針路変更。左舷方向に三kGで加速開始しました」


 情報参謀が報告すると、ツォンは頷くが、シェンに視線を向ける。


「参謀長、敵は輸送船団を逃がそうとしていると思うか?」


「常識的に考えれば、自分を囮にして輸送船団を逃がそうとしているのでしょう。ですが、相手はあのコリングウッドです。そのような単純な行動を採るでしょうか?」


「私もそう思う。だが、追わないわけにもいかん……全艦に命令。左舷六十度回頭。敵の頭を抑えるぞ」


 ツォン艦隊は距離があることと速度で優るため、アルビオン艦隊のベクトルに対応しやすい。


「このままでいけば、すぐに戦艦の射程に捉えられます」


 情報参謀が勝利を確信したような声で報告する。


「戦艦の射程内に入りました」


「了解。戦艦戦隊砲撃開始!」


 二十隻の戦艦が砲撃を開始した。

 しかし、この時、〇・〇六Cと艦隊戦の六倍の速度で航行していた。そのため、砲撃はほとんど命中せず、ごく稀に直撃するものの、防御スクリーンに阻まれ、損傷は与えられなかった。


「奴もこのまま逃げを打つだけではあるまい。敵の動きを見逃すな」


 ツォンの言う通り、すぐにアルビオン艦隊のベクトルが変わる。


「敵艦隊百八十度回頭。加速度はそのまま。元の航路に戻るようです」


「右舷百七十度回頭。ベクトルを合わせる。敵を逃がすな」


 ツォンはそう命じながらも違和感を覚えていた。


(この無駄な機動はどんな意味があるんだ? 無駄に速度を落としているようにしか見えないんだが……輸送船団を逃がすためだとしても、輸送船の速度では逃げ切れないことは明らかだ。罠に誘導しているようにも見えるが……)


 しかし、あまり考えている時間はなかった。


「このまま砲撃を継続。すぐに重巡航艦の射程に入る。砲撃は敵戦艦戦隊に集中せよ。但し、敵ミサイルには充分注意しろ」


 暴走した部隊が抜けたが、戦艦は二十九隻、重巡航艦は五十六隻で計七十五隻による砲撃となる。それを戦艦戦隊にだけ集中させれば、防御力の高い戦艦であっても撃沈は可能だ。


「こちらのミサイルはどうされますか?」


 シェンが確認する。


「敵の思惑が分からん以上、温存するしかない。何といっても全数を発射できるのは一回だけなのだからな」


 外付けのミサイルポッドは重巡航艦と軽巡航艦で四つ、駆逐艦に二つ取り付けられている。しかし、ミサイルの補充はできないため、一斉発射は一回だけとなる。


「確かにその通りですが、あのコリングウッドを相手に後手に回るのは危険ではありませんか? 先手を打って攻撃すべきでしょう」


「その考えもあるか……よかろう。全艦に命令。ステルスミサイル全基発射準備」


 隊列が乱れていることと、激しく機動したため、座標の設定に時間が掛かり、全艦の準備が完了したのは二分後だった。


「全艦、発射準備完了しました」


「全艦ミサイル発射!」


 ツォンの命令で九百九十六基のミサイルが発射された。

 そのうち、七百三十六基はヤシマの技術が導入された最新の幽霊(ユリン)改ミサイルだ。

 最大加速度二十kGを誇るが、距離があるため、到達まで三分ほど必要だ。


「砲撃継続。加速空洞が多少焼けても構わん。撃ち続けよ! 敵にミサイル防衛体制を取らせるな!」


 ツォンはクリフォードが考案したミサイル防衛システムの情報を得ている。そのため、砲撃を激しくして手動回避に専念させ、戦隊ごとのミサイル迎撃を妨害しようと考えたのだ。


「敵のミサイルはどうだ?」


「発射された形跡は確認できません」


 ツォンはクリフォードがミサイルを使ってこないことに違和感を覚えていた。


(どこで使ってくるつもりなのだ? 砲撃能力では圧倒的に我が方が有利なのだ。ミサイルを使わなければ、この状況は打開できないはずだ。隊形が崩れ始めている今が使い時だと思うのだが……)


 現在のツォン艦隊の速度は〇・〇三七C。艦隊戦速度の〇・〇一Cを大きく超えており、命令を受領し変針を行うタイミングが艦ごとにずれたため、ジャンプアウトした直後の隊形から崩れ始めている。


 まだ、戦隊の位置関係は大きく変わっていないため、致命的な状況ではないが、最適なミサイル防衛体制とは言い難い状況だった。


 情報参謀が再びアルビオン艦隊の動きを報告する。


「敵艦隊、再び回頭。左舷方向に向きを変え、減速を開始しました」


 目まぐるしい機動にツォンはそれに追従する命令を出すしかない。


「左舷九十度回頭。加速度そのまま」


 高機動での戦闘に慣れていないツォン艦隊の隊列は大きく崩れていく。


(単純な追撃戦はともかく、これほどベクトルを頻繁に変えられると、戦艦戦隊はどうしても遅れてしまうな。軽快な軽巡航艦や駆逐艦が旗艦の動きに制約されて窮屈そうだ……)


 戦艦の場合、艦隊戦の最終盤に撤退する敵艦隊を追撃する以外で、最大戦速である〇・〇一Cを超える戦闘機動を行うことはほとんどない。


 追撃戦の場合、基本的にジャンプポイント(JP)に向けて逃げる敵を追いかけるだけであるため、速度は高いものの複雑な機動を行うことはほとんどなかった。


 また、戦艦は巡航艦や駆逐艦に比べて質量が大きく、その分慣性力が大きいため、スラスターの効きが悪い。そのため、機敏に動ける巡航艦や駆逐艦があえて緩慢な動きをする必要があり、上手く追従できない。


(まあいい。少しずつ接近できている。それに敵も逃げきれないと諦めたようだ。ここで一気に片を付ける)


 振り回されているものの、確実に敵を追い詰めており、ツォンは勝利が近いと確信していた。


「砲撃は継続。これで一気に近づけるぞ! それに敵は後退しながらの攻撃になるのだ。我々が圧倒的に有利だ! ミサイル到着時刻に合わせて敵戦艦戦隊に砲撃を集中せよ!」


 ツォンは勝利を確信し、命令を出した。


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面白くなってきまたねぇ~ただ相手が崖っぷち大将だからなぁ~どうなることやら
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