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アルビオン王国宙軍士官物語~クリフエッジと呼ばれた男~(クリフエッジシリーズ合本版)  作者: 愛山 雄町
第九部「輸送船団を死守せよ」

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第四十二話

 宇宙暦(SE)四五二六年八月十四日。


 クリフォードはゾンファ軍のリアンユ星系防衛艦隊が突如として動き始めたことに驚くが、すぐに命令を発した。


「輸送船団に命令! 直ちにシェンタオ星系ジャンプポイント(JP)に向けて最大加速開始。船団の隊形を維持する必要なし。各船の最大加速度でJPに向かえ!」


 その命令に対し、船団の反応は鈍かった。

 一部の輸送船は命令に従い加速を開始したが、戻ることに躊躇する船が多かったのだ。それら船の船長たちはゾンファが攻撃してくるとは考えておらず、燃料を消費してまで引き返すのは無駄だと思っている。


「輸送船団各船に告ぐ。ゾンファ艦隊の一部の艦が命令に反して攻撃を実行しようとしている。護衛艦隊は最後尾で防ぐが、ゾンファ艦隊の方が総数は多い。直ちに加速を開始し、JP到達後は速やかに超光速航行(FTL)に移行せよ」


 攻撃される可能性があるとクリフォードが自信を持って言ったため、輸送船の船長たちも慌てて加速を命じた。

 ヤシマ艦隊のリュウイチ・クロカワ少将はその命令を受け、クリフォードに問い合わせてきた。


『ゾンファ艦隊の一部が突出していることは確認しましたが、攻撃してくると決まったわけではないのではありませんか?』


「ゾンファ艦が何の通告もなく加速を開始しています。敵対行動でない可能性はありますが、予防的に退避させる必要があると判断しました。貴艦隊も船団の護衛としてJPに向かってください」


『一光分以内に入ったのなら理解できますが、この段階で過剰な反応だと思いますよ。まあ、命令ですから発進はしますが』


 それだけ言うと、通信を切った。

 クリフォードはクロカワに構うことなく、命令を出していく。


「護衛艦隊は輸送船団の加速度に合わせて移動を開始する。第三戦艦戦隊は最後尾。ゾンファ艦を食い止める。第五重巡航艦戦隊は第三戦艦戦隊の前方三光秒で散開。戦艦戦隊を抜けていくゾンファ艦を排除せよ。第八、第十二、第二十三駆逐艦戦隊は戦艦戦隊の前方五光秒の位置に移動。迂回するゾンファ艦に対応せよ。スループ各艦はJPに向かえ。但し、チェリーリーフ119とオークリーフ398はジャンプインしたと見せた後、ステルス機能を最大にし、ゾンファ艦隊を迂回、チーフォン星系JPに向かえ……」


 輸送船団がジャンプアウトするまでの一時間という時間を使い、対応方針は検討してあった。そのため、各戦隊は迷うことなく、命令を実行していく。


 二隻のスループ艦はゾンファ星系にいるアデル・ハースに情報を送るため、前進させる。スループ艦のステルス性能なら見つからずに移動できるためだ。


 クリフォードはマイクを手に取った。


「ゾンファ共和国軍リアンユ星系防衛艦隊司令官ツォン・ダーバオ中将に告ぐ。貴艦隊は通告なしに当船団に向け加速を開始した。そのため、予防的な措置として船団を退避させる。貴艦隊の行動についてどのような意図があるのか説明を要求する」


 通信を終えたところで、参謀長のアンソニー・ブルーイット大佐が小声で確認する。


「本当にゾンファ艦隊は攻撃してくるのでしょうか?」


「それは分からない。だが、あの隊形でこちらに向かってくるということは計算されたものではないはずだ。通信を分析してみないと分からないが、恐らく一部の艦が暴発し、それに続く者が出たのだろう。すぐに艦隊全体が動き始めるはずだ」


「艦隊全体が暴走に引きずられるとお考えですか?」


「それはないと思う。ただ、暴走した艦を見捨てれば、残された艦の将兵が不満に思う。それに暴走した艦が攻撃を仕掛ければ、ゾンファ軍としては言い訳ができない。それならば、秩序だった攻撃に切り換え、我々に少しでも損害を与えた方がよいと考えるのではないかと思う」


 すぐに彼の予想通りになった。


「ゾンファ艦隊全艦が加速を開始しました! 但し、先行艦はそのまま加速を継続! 艦隊に戻る気はないようです!」


 情報参謀のウォルター・リントン中佐が報告する。


「了解。ウォルター、ゾンファ艦隊の通信を分析してくれ」


了解しました、少将(アイアイサー)。ですが、距離が離れていることと暗号が使用されているため、内容まで分析するには時間が必要です」


「とりあえず、通信の量を確認してほしい。恐らくだが、先行した戦艦が全艦に向けて通信を送っているはずだ。その後に旗艦から全艦に向けて通信が送られているだろう。それが分かれば、先行した艦が暴走した根拠になり得る」


「なるほど。では解析を開始します」


 クリフォードはリントンから旗艦艦長サミュエル・ラングフォード大佐に視線を向ける。


「間違ってもこちらから手を出さないよう、各艦に念を押しておいてくれ。こちらを焦らせる謀略の可能性もあるからな」


了解しました、少将(アイアイサー)。ですが、一光分以内に入れば敵対行動だと宣言しているのです。先制攻撃を行わないと不利になりますが、よろしいのですか?」


 加速度の関係でジャンプインするギリギリで戦艦の射程に入る。そのため、牽制の意味で攻撃を加えた方がよいのではないかとサミュエルは暗に提案したのだ。


「それには及ばない。射程に入ったとしても三十秒ほどでFTLに移行できる。その短時間では先行艦を数隻沈められればいい方だろう。その程度の戦果のためにゾンファに口実を与えるのは割に合わない」


了解しました、少将(アイアイサー)。確かにそうですね。その旨も各艦長に伝えておきます」


 サミュエルも同じ考えだったが、自分の命令ではオーティスらベテランたちが従わない可能性があると考え、合理的な理由を欲していたのだ。


 十五分後、輸送船団の先頭をいく船がFTLに移行した。その後、次々と超空間に入っていく。


「ヴァル、各戦隊に連絡。追撃の可能性があるため、ジャンプアウト時は第一種戦闘配置とし、司令部からの連絡を待て。輸送船団にも指示を出す。ジャンプアウト後も最大加速度でランジョンJPに向かえ。FTL中にミサイル運用プラン(デルタ)を準備せよ。以上だ」


 副官のヴァレンタイン・ホルボーン少佐が即座に了承する。


了解しました、少将(アイアイサー)!」


 クリフォードはこの短時間では有効な命令が出せないため、超空間を移動中の五日間で対応方針を考えるつもりでいたのだ。


 また、輸送船団は補給用のステルスミサイルを輸送している。その一部を使うため、準備を命じたのだ。

 輸送船団が次々とジャンプインしていく。


 その間に最後尾の戦艦戦隊がゾンファ戦艦の射程に入った。


「ゾンファ艦主砲発射! 推定出力二十五テラワット! フージェン級戦艦の主砲の模様!」


「了解。第三戦艦戦隊は手動回避開始。ホルボーン少佐、航宙日誌(ログ)に記録せよ。SE四六二六年八月十四日標準時間一五一二、ゾンファ共和国軍リアンユ星系防衛艦隊攻撃開始。これより当該艦隊を敵性勢力と認定する」


了解しました、少将(アイアイサー)


 クリフォードは冷静に命令を出したが、ホルボーンを始め、CICにいる者は攻撃を受けたという事実に驚きを隠せなかった。


 なぜならこのような中途半端な状況では輸送船団はともかく、護衛艦隊の一部はジュンツェン星系に帰還できるからだ。


 作戦参謀兼運用参謀のリンジー・バウケット中佐も表情にこそ出していないが、内心では驚いている。


(あの戦艦の艦長は何を考えているの? 少なくともジャンプで逃げられるのだから、このタイミングで砲撃を行っても意味がないわ。私なら追い詰めるだけ追い詰めて、ジャンプアウト後に雌雄を決する策に出る。その程度のことも分からないのかしら?……)


 戦艦同士の戦いの場合、遠距離砲撃だけで致命的な損害を与えることはほぼ不可能だ。

 戦艦の防御スクリーンは強力であり、直撃を受けても一発だけでは損害を与えられない。損害を与えるためには連続で命中するか、ステルスミサイルとの併用が必須だからだ。

 それに加え、超空間に突入できれば、小破程度の損傷なら補修で回復できる。


 一方、ジャンプアウト後は船団の盾となるべく、踏み止まらなくてはならないため、乱戦となる可能性が高い。その状況なら数の優位で勝ち切ることは難しくなく、バウケットの考えは正しい。


 また、護衛艦隊に大きなダメージを与えたら、鈍足の輸送船団は降伏するしかないが、ステルス能力が高く快速のスループ艦なら逃げ切れる。そのため、殲滅することは不可能で情報を持ち帰られることは防げないが、これに関してはどこで攻撃を仕掛けても同じだ。


(ゾンファの士官の質が落ちているという話は聞いているけど、ここまで酷いとは思わなかったわ。それとも消極的な司令官に攻撃を促すつもりで攻撃を仕掛けたのかしら? こうなったら言い訳のしようがないから、腹を括って攻撃するしかないと思わせたかったのかもしれないわね……)


 そんなことを考えている間にサミュエルの声が響く。


「第三戦艦戦隊、FTLに移行します! ジャンプイン!」


 大きな損害を受けることなく、殿(しんがり)にいた第三戦艦戦隊も超空間に突入した。


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― 新着の感想 ―
ゾンファのイカレ艦長はマジで撃沈できると思ってたのかね。 クリフの判断が早すぎるのか
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