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アルビオン王国宙軍士官物語~クリフエッジと呼ばれた男~(クリフエッジシリーズ合本版)  作者: 愛山 雄町
第九部「輸送船団を死守せよ」

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第四十一話

 宇宙暦(SE)四五二六年八月十四日。


 ゾンファ軍のリアンユ星系防衛艦隊に属する戦艦スーチュアンの戦闘指揮所(CIC)では、艦長のソン・ジジエ大佐がイライラしながらメインスクリーンを見つめていた。


「ツォン中将は何を考えているのだ。あそこに元凶であるコリングウッドがいるのだ。すぐにでも攻撃に移るべきだろうが」


 彼は独り言を言っているつもりだが、百九十センチを超える巨体とそれに見合った声量であるため、CICの中に響いている。

 CIC要員の多くが“またか”という思いで互いに顔を見合わせていた。


 以前の士官のように兵を見下すことがないソンのことを、下士官たちは嫌ってはいなかったが、すぐに熱くなる点は鬱陶しく思っている。


 ソンは三十三歳で戦艦の艦長になったが、第二次タカマガハラ会戦では駆逐艦の副長で階級は大尉に過ぎなかった。能力的には可もなく不可もないが、下士官たちに嫌われていないことが評価され、人材不足を埋めるべく僅か四年で大佐にまで昇進した。


 ソンが乗り組んでいた駆逐艦はフェイ・ツーロン艦隊に属していたため、反乱に巻き込まれることはなかったが、多くの友人が反乱による混乱で命を落としている。


 その悲劇的な状況を目の当たりにしたことで、策を立案・実行したアデル・ハースとクリフォードのことを強く憎んでいた。


「ええい! まどろっこしい! なぜ星系内に引き込んで一気に攻撃しなかったのだ! そうすれば逃げようがなかった!」


 ソンは小惑星帯に潜んだまま、船団を待ち受け、一気に殲滅すべきだと司令部に上伸した。しかし、その案は却下された。

 ソンの怒りに対し、部下の航法長ドン・ジョン少佐が冷静に指摘する。


「そりゃあ、司令官に攻撃する気がないからでしょう。英雄であり、国王のお気に入りのコリングウッドを殺せば、王国は本気になりますよ。ジュンツェンどころか本星まで攻め込まれ、属国にされることは目に見えていますから」


 ドンはソンより年長の三十七歳。彼は今でこそ戦艦の航法長という重職に就いているが、元は下士官である航法士だ。反乱には参加しなかったが、心情的には国家統一党の支配を憎んでおり、口には出さないもののクリフォードのやったことを評価している。


「貴様は我が軍が負けると言っているのか!」


「負けるでしょう。というより、我が国にはどれだけ掻き集めても十個艦隊もないんですよ。それにコリングウッドが殺されたという情報がジュンツェンに入れば、J5要塞にいる五個艦隊が合流できる見込みはありません。これで勝てる要素があると本気で考えているんです?」


 ドンの指摘は正鵠を射ているが、頭に血が上ったソンは目の前のコンソールに拳を叩き付ける。


「航法長を解任する! すぐにCICから出ていき、自室で謹慎していろ!」


「正式な記録を残しておいてください。この後、艦長が無謀な行いをしても、俺は無関係だったと分かるように」


 ドンはソンが暴走すると確信していた。


「よかろう! すべてが終わったら査問委員会に掛けてやる。首を洗って待っていろ!」


 ドンはその言葉を聞き、CICを出ていった。


(すべてが終わった後というが、勝手に攻撃を仕掛ければ、艦長は司令官の命令を無視したことになるんだ。査問委員会どころか軍法会議に掛けられるだろう。第一、あのコリングウッドを相手に力任せで攻撃して生きているつもりなのか? 最初に沈められるだけだろう。と言っても、俺も一蓮托生なんだよな……)


 そんなことを考えながら自室に戻っていくが、すぐに考えを変え、兵員区画に向かった。


 CICでは怒りに顔を赤くしているソンが命令を出していた。


「艦隊の全艦に通信を送れ! 祖国の宿敵、コリングウッドを討つ! スーチュアンに続けと!」


 通信士は内心で溜息を吐きながらもその命令を実行した。

 その内容は艦内にも放送され、下士官兵たちの多くが呆れている。


『司令官の命令を無視して攻撃を行うのか? 何を考えているんだ、艦長は』


『あとに続く艦がいるとは思えん。巻き添えを食って罰を受けるのは勘弁してほしいんだが』


『攻撃に反対した航法長が解任されたらしい。何を言っても無駄かもしれんな』


 愚痴りながらも攻撃に賛同する艦がいるとは思えず、頭に血が上った艦長でも諦めるだろうと考えていた。

 しかし、彼らの予想は覆された。


 重巡航艦チャンムーのCICでは艦長であるリー・ジアミン大佐が艦長席から立ち上がった。


「総員戦闘準備! スーチュアンに続け!」


 彼女は第二次タカマガハラ会戦で同じ重巡航艦に乗っていた夫ウェイ・ジュンカンを失っていた。まだ結婚したばかりの新婚であったため、一時は生きる気力を失ったが、艦隊の再編で招集され、大佐に昇進しチャンムーの艦長に就任した。


 普段は有能な弁護士のような雰囲気を持つ冷静な士官で、下士官兵たちとの関係も悪くなかったが、愛する夫の仇が目の前にいると知り、苛立っている。

 そのため、スーチュアンが動き始めたところで即座に命令を発したのだ。


「落ち着いてください、艦長! 明らかな命令違反です!」


 CICの次席指揮官である戦術士が指摘するが、逆上したリーは血走った目で睨みつけながら叫ぶ。


「黙りなさい! 操舵長! 命令に従って艦を前進させなさい!」


 操舵長は艦隊司令官の命令を無視することに躊躇い、周囲を見回すが、誰も目を合わせようとしない。


「何をしているの! 命令に従いなさい!」


 操舵長は直属の上官である航法長に視線を向けるが、航法長が諦め顔で頷いたため、仕方なく艦を発進させる。

 スーチュアンとチャンムーが動き始めると、三十隻の艦がぞろぞろという感じで、それに続いた。


 発進した艦は艦種がまちまちで隊列を組むことなく、スーチュアンの後ろに続く。加速度の関係で戦艦より前に出ることは可能だったが、戦艦であるスーチュアンに続く方がよいと考えたのだ。


 三十二隻の艦が無秩序に近い状態で前進する様子が旗艦のメインスクリーンに映し出される。それを見たリアンユ星系防衛艦隊司令官ツォン・ダーバオ中将は驚きのあまり立ち上がった。


「何をしているのだ! まだ前進命令は出していないぞ!」


 参謀長のシェン・レー少将が焦りながら報告する。


「スーチュアンのソン・ジジエ艦長が暴発したようです。更に悪いことに全艦に我に続けと通信を入れ、それに同調する艦が出ました。このままでは戦端が開かれてしまいます」


「大至急スーチュアンに回線を繋げ! ソンを説得する!」


 すぐに通信が繋がった。


「直ちに前進を中止しろ! こちらから攻撃を仕掛ければ、我が国は滅ぶ! 命令通りに圧力を掛け、向こうから手を出させるのだ! すぐに引き返せ!」


『祖国に仇なす策士を排除する! これこそが国を守ることだ! 中将はタカマガハラの悲劇を忘れたのか! 旗艦の諸君! 臆病な司令官の命令など無視して我に続け! 元凶をここで打ち倒すのだ!』


 吼えるような言葉にツォンは一瞬唖然とする。


「完全に頭に血が上っている……これはまずいぞ……艦長を解任するしかないか」


「それは悪手でしょう。司令官に攻撃の意思がないと思われ、更に続く艦が出ることになります。今は司令部の命令に従うよう冷静に指示すべきです」


 シェンの進言を受け、ツォンはすぐに全艦に向けて発信した。


「リアンユ星系防衛艦隊全艦に命ずる。司令部の命令に従い、前進を止めよ。隊列を乱して攻撃しても取り逃がすだけだ。繰り返す。司令部の命令に従え。直ちに隊列を組み直すのだ」


 ツォンの命令でスーチュアンに続く艦は出なくなったが、前進を開始していた三十二隻は命令を無視して加速していく。


「最悪の状況です。このまま戦闘に入れば、スーチュアンとそれに続いた艦は全滅します。艦隊の秩序を取り戻すため、一時的に攻撃に移行するように見せるべきです」


 シェンの進言にツォンは頷くしかなかった。


「それしかないか……分かった」


 そう言うと、再びマイクを握る。


「全艦、()輸送船団に向け、加速を開始せよ! スーチュアン及び先行する艦は直ちに所定の位置に戻れ! 隊列が崩れたままでは敵に有効な攻撃が加えられない」


 ツォンはあえて“敵”という言葉を使った。こうすれば、攻撃の意志があるように見えるからだ。

 その命令に対し、スーチュアンから返信が入る。


『我らが先陣を切る! 本隊だけでも敵より多い! 問題はないはずだ!』


 ソンはツォンを信用していなかった。隊列に戻ったら理由を付けて攻撃を取りやめると考え、先陣を切って攻撃を加え、なし崩しで本隊を戦闘に引きずり込んだ方がいいと考えたのだ。


 ツォンはその状況に頭を抱える。

 しかし、打つ手はなく、艦隊を前進させるしかなかった。


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こいつらのしつこさには、いい加減星ごと滅ぼしたく成るわ。
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