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アルビオン王国宙軍士官物語~クリフエッジと呼ばれた男~(クリフエッジシリーズ合本版)  作者: 愛山 雄町
第九部「輸送船団を死守せよ」

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第三十八話

 宇宙暦(SE)四五二六年七月二十四日。


 クリフォード率いる護衛艦隊は最初の星系であるランジョン星系に到着した。


ジャンプポイント(JP)周辺にゾンファ艦隊の艦影なし! 機雷は存在するものの作動確認できず! ロックされている模様!」


 情報参謀のウォルター・リントン中佐の大きな声が戦闘指揮所(CIC)に響く。


「了解。ブルーイット大佐、スループに星系内を探査させながら先行するよう命令を送ってくれ」


 参謀長のアンソニー・ブルーイット大佐が「了解しました、少将(アイアイサー)」と冷静に答え、艦隊に同行している十隻のリーフ級スループ艦に命令を出していく。


「各艦は作戦通り星系内を走査しつつ、最大戦速でシェンタオ星系JPに向かえ……」


 その命令を聞きながら、副官のヴァレンタイン・ホルボーン少佐に視線を向ける。


「全艦に命令。シェンタオJPに向けて発進。フォーメーションは(ブラボー)。加速度〇・五kG。加速時間千八百秒」


了解しました、少将(アイアイサー)


 ホルボーンはきびきびと命令を伝えていく。


「バウケット中佐、輸送船団がジャンプアウトし巡航速度に達したところで、シミュレーション演習を実施したい。計画書の作成と各戦隊に伝達してくれ」


了解しました、少将(アイアイサー)。演習の計画書を作成し、各戦隊に伝達します」


 作戦参謀兼運用参謀のリンジー・バウケット中佐は復唱を終えると、コンソールを操作し始めた。


 クリフォードは敵がいなかったことに安堵するが、ここで待ち伏せされる可能性は低いと考えていた。


(ここで待ち伏せしても殲滅できなければ、ジュンツェン星系派遣艦隊に報告され、大規模な侵攻作戦を誘発するだけだ。待ち伏せるとしたら、ジャンプ後も星系内で追撃可能な次のシェンタオ星系以降だ。補給基地があるリアンユ星系が可能性は高いが、油断はできない)


 ジュンツェン星系からゾンファ星系まではランジョン、シェンタオ、リアンユ、チーフォン、シーダオという五つの星系を経由する。これらの星系のうち、中間地点に当たるリアンユ星系には補給と補修のための簡易拠点があった。


 一時間後、JPに輸送船団がジャンプアウトしてきた。

 予め送ってある命令書に従い、グループごとに船団を組みつつ、球形陣を形成していく。


 その様子を見ていたアガメムノン96の艦長サミュエル・ラングフォード大佐が後ろに座るクリフォードに声を掛ける。


「ずいぶんマシになりましたね。演習初日はどうなるかと思いましたが」


「そうだな」


 そう言いながらも満足そうな表情は見せない。


「ヤシマの護衛艦隊が一番酷い感じですね。右往左往しているようにしか見えませんよ」


 サミュエルの言う通り、リュウイチ・クロカワ少将率いる三十隻の護衛艦隊は球形陣の前方に出るべく加速を開始したが、輸送船を避けるべく変針を繰り返している。本来であれば、船団の移動経路は容易に予想がつくので、このような無駄な変針は必要ない。

 それでも十分ほどで所定の位置についた。


 クリフォードの護衛艦隊と輸送船団の距離はおよそ百光秒。星間物質濃度が低い星系外縁部はこの距離を維持し、星間物質濃度が高く待ち伏せが容易な星系中心付近では三十光秒程度まで接近することにしていた。


 これは十隻のスループによる索敵では見逃す可能性があり、護衛艦隊の索敵範囲に入ったところで奇襲を受けた場合でも即座に対応できる距離とするためだ。


 輸送船団が安定したところでヤシマの護衛艦隊の旗艦軽巡航艦ユラ389から通信が入る。


『やはり待ち伏せはありませんでしたな。慎重も度が過ぎると臆病にしか見えませんよ』


 クロカワは船団の状況を報告するわけでもなく、嘲笑するような言葉だけを送ってきたのだ。


「まだ危険がないと判明したわけではありません。船団の状況に問題がないようならシミュレーション演習及び特殊訓練を実施します。状況の報告をお願いしたい」


 百光秒も離れているため、返信が届くのは二百秒後だ。


『船団は安定していますが、シミュレーション演習など無駄ではありませんか? 輸送船の船橋(ブリッジ)要員は少ないんです。シフト体制に移行して休ませてやるべきでしょう。それに特殊訓練は甲板員の負担が大きい。そのことも考慮していただけませんか』


 客船はともかく貨物船は人件費を削減するため、大型船であっても乗組員は二十名程度だ。そのうち、船長と一等航宙士が指揮と航法を行い、操舵長が操船、機関長と一等機関士が機関の調整を行うが、巡航航宙に入ったらすぐに自動操船に切り換え、シフト体制に入る。


 特殊訓練は万が一の戦闘に際し、ある策を実行するために行う訓練だ。これには船倉で作業を行う甲板員が駆り出される。


「超空間で充分に休養できているはずですから、その提案は却下します。命令書を送付していますので、それに従ってください」


 クロカワの非協力的な行動にクリフォードは頭が痛くなるが、妥協する気はなかった。


 その後、星系中心部付近を航行するが、ゾンファ軍の艦船はシェンタオJP付近にいる情報通報艦しか見つからなかった。

 シェンタオJPに接近していくが、既に偵察を終えたスループが戻っていた。


『シェンタオ星系に情報通報艦以外のゾンファ艦なし。ステルス機雷もロックされておりました』


 この情報に対し、クロカワが再び嫌味を言ってきたが、クリフォードは無視してジャンプを命じた。


 八月三日にシェンタオ星系に到着したが、スループの報告通りで護衛艦隊の中にもゾンファの攻撃はないのではないかという楽観的な空気が蔓延する。


 幸い、ネヴィル・オルセン少将やシャーリーン・コベット准将ら指揮官がその楽観論を封じ込める。


『元々、シェンタオまでは待ち伏せの可能性が低いと考えていたのだ。あの戦略の天才、“崖っぷち(クリフエッジ)”のコリングウッド少将が次のリアンユが最も可能性が高いと言っている。それにリーフォン、シーダオでも油断できん。気を引き締め直せ!』


『油断を誘う敵の作戦である可能性が高いのです。洞察力が高いコリングウッド少将が、リアンユ星系が最も危険であり、その後も油断できないと言っている以上、ここで警戒を緩めることはゾンファの思惑に乗ることです。準備を怠らないように』


 彼らの言葉で護衛艦隊に緩みは見られなくなったが、輸送船団では楽観論が蔓延していた。


『コリングウッド少将も初めての護衛任務で必要以上に慎重になっているんじゃないか。これまでゾンファが手を出してきたことなんてないんだからな』


『ここで失敗すれば、これまでの名声が地に落ちる。それを心配しているのだろうが、迷惑な話だ』


 船団の隊形すら崩れ始めていた。

 クリフォードはクロカワに船団の隊形を維持するよう命じた。


「船団の隊形が崩れている。各船団の距離を維持し、適正な位置に着かせていただきたい」


 クロカワはやる気を見せなかったが、サンイ商船のケンジ・タカムラ船長が楽観的な船長たちを引き締める。


『大胆な策を用いて我が国を救ってくれたコリングウッド少将が危険だと言っている。彼ほどの実績を持つ指揮官の言葉を軽んじ、実績のない者の言葉を信じることは愚かなことだ。コリングウッド少将を臆病者と笑いたいのなら、本国に戻ってからにした方がいい』


 実戦での指揮の経験のないクロカワの言葉より、死線をくぐってきたクリフォードを信じるべきだという言葉で船長たちも納得し、従い始めた。


 八月八日、リアンユ星系を偵察してきたスループがジャンプアウトする。


『リアンユ星系に情報通報艦以外のゾンファ艦なし。ステルス機雷もロックされておりました。補給基地にも特に動きは見られません』


 その報告を受け、クリフォードは超光速航行(FTL)を命じた。


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