第三十七話
宇宙暦四五二六年七月九日。
クリフォード率いる護衛艦隊は輸送船団と合流した。
しかし、ヤシマの護衛艦隊の司令官、リュウイチ・クロカワ少将は護衛が無駄だと考え、非協力的な態度を隠そうともしなかった。
そのため、クリフォードは輸送船団の中で発言力がある船長、ケンジ・タカムラと話をすることにした。
すぐに通信が繋がり、スクリーンにはがっしりとした体つきで、商船の船長にしては不愛想な五十代の男性が映っている。
「サンイ商船の第二十五ホウエイマル船長、タカムラです。お話があると伺いましたが?」
「アルビオン王国軍キャメロット防衛第四艦隊第三戦艦戦隊のクリフォード・コリングウッド少将です。ベテラン船長であるあなたに今回の航宙について意見を伺いたいと思い、連絡を入れました」
「私の意見ですか? 我々は艦隊の指揮官の命令に従うだけです。クロカワ少将は私ども商船乗りの意見は不要とお考えでしたので」
その言葉を発する際、タカムラは僅かに顔を顰めている。
クリフォードはそれに気づいた。
(クロカワ少将は彼に話を聞かなかったようだな。航路に詳しいベテラン船長の意見は是非とも聞くべきなのだが……)
そう感じた彼は小さく頷く。
「命令には従っていただきますが、その命令を出す上で情報が必要です。特にゾンファ星系への航路に詳しい船長の意見は貴重だと思っています。この輸送任務に対して少しでも危惧を感じているなら、それを教えていただけないでしょうか」
その言葉にタカムラが一瞬目を見開く。
そもそも彼はこの輸送任務が危ういと考え、受託しないよう本社の担当役員に直談判していたほどだ。しかし、政府の肝いりということで、彼の意見は聞き入れられず、サンイ商船は三十隻の大型商船と五十隻の大型タンカーを参加させることを決定してしまった。
決定が覆らないと知った彼は護衛艦隊のクロカワに意見を具申しようとしたが、危険などないと思い込んでいるクロカワは聞く耳を持たなかった。そのため絶望したが、危険を感じたら契約を無視してでも引き返そうと考えていた。
「少将はゾンファが攻撃してくるとお考えなのですか? その可能性が低いと我が国の上層部は考えているようですが」
「それについては分からないとしか答えようがありません。ですが、何らかの妨害行為は行ってくるはずです。そして、今のゾンファ軍は指揮命令系統が完全とは言えません。現場が暴走し、なし崩し的に攻撃を受けることは充分にあり得ると考えています」
この考えはタカムラと全く同じだった。
「私も同じことを考えています。本来ならこのような大船団ではなく、百隻程度の比較的小規模な船団を断続的に送り込むべきなのですが……」
彼の意見にクリフォードは頷きそうになった。
百隻ということは二十の船団になる。ゾンファの将兵が暴走したとしても、そのすべてを攻撃することは考え難いし、万が一攻撃を受けた場合も百隻の犠牲で済む。
「残念ながら既にゾンファ共和国政府には二千隻規模の輸送船団が送り込まれることが通知されています。ですので計画の変更は不可能です。その上でゾンファ軍が万が一攻撃してきた場合でも損害を最小化する方策が必要だと考えています」
タカムラはクリフォードが噂通りに思慮深いことに安堵し、協力を申し出た。
「分かりました。では、私が持つ情報を送付します。その上で気になることがあれば、何でも聞いてください。それが我々の安全に繋がりますから」
「ありがとうございます。ジャンプインまで十日ほどありますから、いろいろ教えていただくかもしれませんが、その際はよろしくお願いします」
クリフォードは船団のキーとなりそうなタカムラと協力関係を築けたことに安堵した。
その後、船団をグループ化していくが、加速度や巡航速度など船のスペックがまちまちで、なかなか進まなかった。
それでも彼は大型で鈍重な船から順にAからDの四段階に分け、それぞれの百隻程度のグループになるよう1から番号を振ることで、約二十のグループを作ることに成功する。
この陰にはタカムラの協力があった。
クリフォードは船団の各船に対し、操船や緊急時の措置を定めた命令書を送った。そして、その命令書に従った操船訓練を実施する。
それに対し、船長たちは反発した。
『俺たちは軍人じゃねぇんだ。こんな細かな操船なんざできるわけがねぇ!』
『こんな命令書がいらないように護衛をするんだろう! そのために高い税金を払っているんだからな』
特に独立系の商船の船長は全く協力しようとしなかった。
『本船団は小官の指揮下にある。また、本ジュンツェン星系は敵性国家と認定される可能性があるゾンファ共和国の支配宙域であり、現在は準戦闘状態と規定している。この状況で小官の命令に従わないことはアルビオン王国及び自由星系国家連合に対する反逆行為である。命令に従わない者は拘束し、ヤシマ防衛軍の軍警察に引き渡す。このことはジュンツェン星系派遣艦隊司令官、ナカハラ大将の了承も得ている』
この通信はジュンツェン星系派遣艦隊にも届いており、トモエ・ナカハラ大将はすぐに反応した。
『コリングウッド少将の命令に従わない船にMPを派遣する。その上で船長を国家反逆罪の疑いで拘束し、本国に送還する。これは準敵性国家支配宙域での軍最高司令官の権限によって実行される正当な行為である。なお、予定通りに出発できない船は契約に違反したものとして、多額の違約金が発生することを改めて伝えておく』
果断な性格のナカハラが明言したことで、船長たちも拘束が脅しではないと考え、渋々従い始めた。三日間のシミュレーション演習により、ある程度命令通りに動けるようになる。そのことにクリフォードは安堵していた。
(これで少なくとも命令を無視する者はいなくなった。あとは私が適切に判断すれば、全滅ということはなくなるだろう……もっとも適切な判断ができるかという問題は残るが……)
ちなみにヤシマの護衛艦隊のリュウイチ・クロカワ少将だが、シミュレーション演習の結果が悪すぎて、ナカハラから叱責されている。その結果、渋々ながらも命令に従うようになったが、クリフォードは戦力として看做しておらず、直掩部隊として船団と行動を共にさせると決めている。
七月十九日。
隣のランジョン星系を偵察したスループ艦が戻ってきた。
『ランジョン星系に艦隊の待ち伏せなし。また、確認可能範囲においてゾンファ艦隊の艦影なし。機雷は五十万基が存在したものの、機能停止状態。停戦協定に従った対応を取っている模様……』
その報告を受け、クリフォードは出発することを決断した。
彼はジュンツェン星系派遣艦隊の総司令官ジャスティーナ・ユーイング大将に通信を入れた。
「これよりゾンファ星系派遣艦隊への輸送任務を開始します」
その報告に対し、ユーイングはすぐに返信を送る。
『非常に難しい任務ですが、貴官なら必ず達成できると信じております。ですが、もし僅かでも危険を感じたのであれば、すぐに引き返してください。船団の安全のこともありますが、戦争のきっかけになることは絶対に避けなければなりませんから』
その通信にクリフォード以外が驚いている。
なぜならいつもは気だるげな鼻に掛かったようなしゃべり方だが、今回の通信ではそのようなことが一切なかったためだ。
「女主人も普通にしゃべられるんだな……」
クリフォードの後ろで聞いていたブルーイットが小声で呟いていたほどだ。
クリフォードにもその言葉が聞こえていたが、真面目な表情を崩すことなく返信する。
「はい、提督。安全を最優先して任務に当たります」
そう言うと、敬礼する。
「護衛艦隊、超光速航行に移行せよ。輸送船団は護衛艦隊のジャンプインの一時間後、グループA1より順次、超光速航行に移行すること」
その命令を受け、旗艦アガメムノン96を皮切りに次々と超空間に突入していった。
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