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アルビオン王国宙軍士官物語~クリフエッジと呼ばれた男~(クリフエッジシリーズ合本版)  作者: 愛山 雄町
第九部「輸送船団を死守せよ」

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第三十六話

 宇宙暦(SE)四五二六年七月八日。


 クリフォードはヤシマの輸送船団の情報を見ながら、内心で溜息を吐いていた。


(大型輸送船が五百八隻、大型タンカーが千四百九十八隻。これは想定内だが、遅すぎる。エネルギー消費量を抑えたいのだろうが、〇・二kGでしか加速していないし、速度も最大巡航速度の八十パーセントほどでしかない。ヤシマの護衛艦隊もそれを認めているようだが、この先が思いやられるな……)


 輸送船団の最大の船は二千万トン級タンカーで、加速能力は〇・五kG、最大巡航速度は〇・〇五光速()だ。つまり、最大加速度の四十パーセント、最大巡航速度の八十パーセントしか出していないことになる。


 加速度を小さくすれば、通常空間航行用機関(NSD)のエネルギー消費量を抑えることができるし、巡航速度を下げれば、防御スクリーンの負荷が小さくなるからエネルギーを節約できる。


 事前の政府間の調整では、ゾンファ共和国の支配宙域内では速やかに移動するため、最大加速度で加速し最大巡航速度で航行するとされていた。六個艦隊が制宙権を維持しているジュンツェン星系は安全な宙域だが、決められたことを守らない姿勢にクリフォードは内心で溜息を吐いたのだ。


「この先もあの速度で移動する気ですかね」


 参謀長のアンソニー・ブルーイット大佐が呆れたような声でクリフォードに話し掛ける。

 それに作戦参謀兼運用参謀のリンジー・バウケット中佐が答えた。


「ランジョン星系ジャンプポイント(JP)で待機することになりますから問題はないのですが、こちらに状況を報告してこないことが気になります」


 クリフォードは輸送船団の護衛任務を受けた後、すぐにスループ艦を発進させた。最大巡航速度で移動しているが、ランジョン星系の安全が確認できるのは最短でも十二日後であるため、ランジョンJPで十日ほど待機することになる。


 この計画はクリフォードが命令を受領してから船団に送られているが、その前から速度を上げることはなかった。また、計画を受領したはずの船団から反応はなく、そのことを気にしていた。


「命令通りにJPで留まってくれるならいいですが、勝手にジャンプしかねません。少将、一度釘を刺しておいた方がよいのではありませんか?」


 副官のヴァレンタイン・ホルボーン少佐が進言する。


「まだ距離はあるが、もう一度命令を送っておこう。ヤシマの護衛艦隊のクロカワ少将にも連絡を入れておいてくれ」


 ヤシマの護衛艦隊は軽巡航艦五隻と駆逐艦二十五隻の計三十隻で、リュウイチ・クロカワ少将が司令官を務めている。


 しかし、クロカワからは命令を受領した旨の報告があっただけで、その後は特に反応はない。一光時近く離れているため、双方向通信は現実的ではないが、本来なら計画のすり合わせなどのやり取りが行われてもおかしくはなく、そのことにクリフォードは危惧を抱いていた。


 七月九日標準時間一四〇〇。

 クリフォード率いる護衛艦隊はランジョンJPに到着した。

 しかし、輸送船団はまだ到着しておらず、ゆっくりと減速を始めたところだった。


 約一時間半後、ランジョンJPに輸送船団が到着する。


「ヴァル、ヤシマの護衛艦隊に繋いでくれ」


 クリフォードはホルボーンにクロカワの旗艦軽巡航艦ユラ389に通信を繋ぐよう命じた。本来ならクロカワの方から全体の指揮を執るクリフォードに通信を入れ、指揮の引き継ぎを行うのだが、なかなか連絡がなかったため、クリフォードから連絡を入れたのだ。


 すぐに繋がり、クロカワがスクリーンに現れた。クロカワは四十代半ばで撫でつけた髪がセールスマンのように見える男だ。彼は作り笑いを浮かべて話しかけてきた。


「お呼びと聞きましたが?」


 連絡を入れなかったことに対し謝罪するでもなく、それどころか自己紹介すらしないことにブルーイットら司令部の面々は怒りを覚える。

 クリフォードはそのことを気にすることなく、用件を伝える。


「アルビオン王国軍キャメロット防衛第四艦隊第三戦艦戦隊のクリフォード・コリングウッド少将です。本船団の指揮の引き継ぎを行います」


「相変わらず真面目な方ですね。指揮の引き継ぎも何も、ナカハラ提督の命令で既に貴官の指揮下に入っています。船団の情報は既に送っていますし、これ以上引き継ぐことはないと思いますが?」


 クロカワは同じ階級である自分が十歳以上若いクリフォードの指揮下に入ることに不満を抱いていた。


 もちろん、今回の任務を命じられた際、ヤシマ防衛艦隊司令長官のサブロウ・オオサワ大将から直々に、危険な任務であり、アルビオン王国軍に積極的に協力するよう言われている。


 しかし、参謀出身である彼は合理的に考えてゾンファが輸送船団に手を出してくる可能性は皆無であり、追加の護衛など無駄だと考えていた。そのため、真面目に護衛を務めようとするクリフォードに呆れている。


「では、これをもって小官が輸送船団の指揮を執ります。早速ですが、船団が超光速航行(FTL)に入るまで十日ほどあります。その間に船団を組織化したいと思いますので、協力をお願いします」


 クリフォードは船団をグループ化して命令が即座に実行できるようにするつもりでいる。


「組織化ですか? 会社単位なら可能でしょうが、少将の考えているようなグループ化は無理だと思いますよ」


 クロカワは冷笑を浮かべながら否定する。


「船団の安全のために必要なことです。それが終わるまで出発しません」


「よろしいのですか? ゾンファ星系では貴国の艦隊も補給を待っているんですよ。そもそも襲撃を受ける可能性がないのに無駄に偵察を行っています。更に時間を無駄にする必要はないのではありませんか?」


「船団の安全が脅かされる可能性が僅かでもあるなら、それに対処できるようにしておくべきです」


「おっしゃることは理解しました。船長たちには話をしておきます。彼らも無駄だと思うでしょうが」


 クロカワはこれ以上ごねると、ヤシマ艦隊の総司令官であるトモエ・ナカハラ大将から叱責を受けると考えて引き下がった。


 そのことにクリフォードは溜息を吐きそうになるが、それを抑えて頷いた。


「よろしくお願いします。輸送船団の中で特に発言力がある船長を教えていただけないでしょうか」


「発言力のある船長ですか? 独立系の商船の船長は皆癖がある者ばかりですが、彼らに対して意見を通せるとしたらサンイ商船の船団長のタカムラ船長ですね。ご存じだと思いますが、サンイ商船は我が国の最大手の商船会社ですし、本国とゾンファの間の輸送を何度も行っているベテランですから」


 交易国家であるヤシマには一千隻を超える大型商船を持つ会社がいくつもある。その中でもサンイ商船は最大手で、アルビオン王国内にも定期航路を持っているため、クリフォードも当然知っている。


 停戦後、ヤシマはゾンファから富を収奪するため、多くの商船を派遣している。その多くが大手商船会社の大型船であり、ベテランの船長なら何度も行き来していてもおかしくない。


「ありがとうございます。では、船長たちにグループ化のことを伝えておいてください」


「伝えておきます。まあ、反発はあるでしょうが、それは貴官の方で対処してください」


 それだけ言うと、クロカワは通信を切った。

 その通信を聞いていたサミュエルは無礼ともいえる態度に腹を立てていた。


「ヤシマは何を考えているんだ! 一つ間違えばこの船団が壊滅することすらあり得るんだ。それなのにあの危機感のなさはあり得ん!」


 それにブルーイットも同調する。


「艦長の言う通りです。ナカハラ提督に伝えて、護衛艦隊を入れ替えてもらった方がよいのではありませんか?」


 クリフォードは即座に否定する。


「それはできない」


「なぜですか? ナカハラ提督は護衛の少なさを嘆いたと聞きます。危機感のない指揮官を罷免するよう要求することは理に適っていると思いますが」


「確かにクロカワ少将を罷免するよう要求すれば、認めてもらえるだろう。だが、ヤシマ艦隊との間に必ずしこりが残る。ただでさえ、我が国の政府はヤシマに対し、多くの艦隊を出せと強要している。更に強硬な要求をすれば、ヤシマ将兵も気分が悪いだろう。そうなれば、ユーイング提督とナカハラ提督の仕事を増やすことになる」


 クリフォードはヤシマの将兵の感情を考慮したのだ。

 ブルーイットがそれに反論する。


「しかし、ただでさえ護衛艦が少ないのです。僅か三十隻とはいえ、もう少し協力的な指揮官に変えてもらう方がよいのではありませんか」


「元々ヤシマの護衛艦隊には期待していない。彼らが持つ船団護衛のノウハウは少数の通商破壊艦部隊に対するものしかないのだからな」


 その言葉でブルーイットも納得した。


「確かに練度が低いヤシマ艦隊に期待することは危険ですね。ならば最初からいないものとして扱っても問題ないということですか」


 その言葉にクリフォードは答えず、ホルボーンに命令する。


「タカムラ船長に繋いでくれ。直接話をしたい」


了解しました、少将(アイアイサー)


 ホルボーンはすぐにコンソールを操作し始めた。


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