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アルビオン王国宙軍士官物語~クリフエッジと呼ばれた男~(クリフエッジシリーズ合本版)  作者: 愛山 雄町
第九部「輸送船団を死守せよ」

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第三十五話

 宇宙暦(SE)四五二六年七月七日。


 ジュンツェン星系にヤシマの輸送船団が到着した。

 輸送船団は大型輸送船五百八隻、大型タンカー千四百九十八隻の計二千六隻の大船団だ。


 演習で想定した通り、最大の船は二千万トン級タンカーで、明確な隊形を取ることなく、ノロノロとランジョン星系ジャンプポイント(JP)に向けて進み始めている。


 その情報を見ながら総司令官であるジャスティーナ・ユーイング大将は驚きの声を上げた。


「あらあら護衛艦が三十隻しかいませんわ。困りましたね」


 いつも通りの気だるげな声だが、これは演技だ。

 こうなるように元首相ウーサー・ノースブルックがヤシマ政府に依頼しており、彼女はそのことを聞いていたからだ。


「すぐに提督方と協議が必要ですわね」


 そう言って副官にヴァーチャル会議をセッティングするよう命じた。

 すぐに各艦隊の司令官が参加する会議が行われる。


「皆さんもご覧の通り、ゾンファ星系への輸送船団の護衛が僅か三十隻しかございません。海賊や通商破壊艦が相手なら問題ありませんが、四個艦隊二百五十万の将兵の生命線を守るには明らかに不足しておりますわ」


「小官もユーイング提督のお考えに同意します。本国は何を考えているのか……危機意識がなさすぎる。大変申し訳ない」


 ヤシマ艦隊の総司令官トモエ・ナカハラ大将が生真面目な表情で謝罪する。

 腹芸が苦手なナカハラには、これがアルビオン王国とヤシマ政府の間で合意されたことだとは知らされていない。


「謝罪は不要ですわ。幸い、明日には我が軍の第四艦隊が到着いたします。そこから護衛艦隊を抽出しましょう。それならば、我々の戦力を落とすことなく、万全を期せますから」


「貴国にご負担を掛けることになりますが、よろしくお願いしたい」


「あまり大規模な護衛艦隊はゾンファを刺激することになります。そうなると二百隻程度の分艦隊となりますから、少将が指揮を執ることになりますわ。輸送船団全体の指揮もその少将に任せたいと思いますけど、ナカハラ提督のお考えはいかがですか?」


 ユーイングは指揮権の問題を解決するため、ナカハラに話を振る。


「無論賛成です。指揮命令系統は統一しておくべきと考えます」


「ありがとうございます。お願いがあるのですが、提督と(わたくし)の連名で、輸送船団はアルビオン王国軍の管轄下にあるという命令書を出したいのですが、よろしいでしょうか」


「もちろん問題ありません。輸送船の船長たちに命令を出すには、我が国の最高司令官の命令書があった方がよいでしょう」


 ユーイングはジュンツェン星系派遣艦隊の総司令官であり、ヤシマ政府からも指揮権を認められている。そのため、本来なら彼女の命令だけでも問題はないが、船長たちの多くがヤシマ国民であるため、法的に問題があると言い出しかねない。


 一方、ヤシマ軍の総司令官であるナカハラが正式に命令を出せば、政府の正式な命令となるため、船長たちも命令を否定できない。


 通常の航宙なら当該宙域の政府の法に従っていれば本国政府の命令を聞く必要はないが、今回は輸送船団自体がヤシマ政府の管理下にあると契約に明記されているため、反抗的な態度は取れなくなる。


 これと同様にアルビオン王国軍の管理下に入るということは、王国の支配星系と同じく王国の法律と軍の命令が優先される。反抗的な態度を取れば、船長を拘束し、王国軍士官が指揮を執ることも可能になるということだ。


 翌日、第四艦隊が輸送艦隊と共にジャンプアウトした。

 すぐに司令官であるレヴィン・コンウェイ大将に連絡が入り、クリフォードが護衛艦隊の指揮官となる旨が派遣艦隊に伝えられた。


 その方針にアルビオン艦隊の中で反発が起きる。


崖っぷち(クリフエッジ)の能力は認めるが、少将に昇進してまだ半年ほどだ。それに護衛艦隊を率いた経験もない。そのような若造にゾンファ星系派遣艦隊の命運を委ねてよいのか』


 この声が最も多かったが、冷静な指摘もあった。


『コリングウッドの名はゾンファでも知られている。特に第二次タカマガハラ会戦で行った謀略の立案者として憎悪の対象になっていると聞く。そのような者が護衛艦隊を指揮すれば、攻撃を誘発させかねない』


 それに対し、ユーイングは冷静に反論した。


『コリングウッド少将に船団護衛の経験がないことは存じておりますが、今回のような準敵国内を他国の船団を率いるようなケースは、王国軍の長い歴史の中でも行われたことがありません。つまり、誰も経験したことがないということです。それに少将は輸送船団護衛のシミュレーション演習で最も優秀な結果を出しています。あの厳しい条件で防衛側として五十パーセントも成功させているのです……』


 船団護衛のシミュレーション演習は三月末頃から六月末までの三ヶ月ほど続けられた。クリフォードも防衛側、攻撃側の双方で指揮を執り、防衛側で五十パーセント、攻撃側では百パーセントの成功率を叩き出している。


 全艦隊での防衛側の成功率は僅か五パーセントでしかなく、複数回防衛に成功しているのはクリフォードだけだ。


『コリングウッド少将に恨みを抱き、攻撃を誘発する危険性は確かに存在します。ですが、ゾンファ軍が覚悟を決めていた場合、誰であっても攻撃を受けるのです。ならば、成功率が高いコリングウッド少将に防衛艦隊の指揮を任せることは合理的だと判断しました』


 ユーイングの説明に多くの者が納得した。


 司令官室にいたクリフォードの下に命令書が届いた。

 更にコンウェイから通信が入る。


「非常に難しい任務だが、君なら成し遂げてくれると信じている。ユーイング提督の命令書にもあるが、疑問や不安を感じたらすぐに引き返せ。ゾンファの国民感情を悪化させるかもしれないが、一個艦隊を護衛として派遣するという選択肢もあるのだからな」


「ありがとうございます、提督。疑問や不安を感じた場合は船団の安全を最優先します」


「船団の安全も重要だが、君自身の安全も忘れないでくれ。将来君が艦隊を背負って立つのだ。このようなところで命を捨てられては困る」


 クリフォードはその高い評価に困惑気味だ。


「任務を最優先に考えますが、提督のお言葉も忘れないようにいたします」


「それで頼む。では健闘を祈る」


 通信が切れると、クリフォードは大きく息を吐き出す。

 そして、副官であるヴァレンタイン・ホルボーン少佐に命令を出した。


「護衛艦隊の各戦隊指揮官に連絡。標準時間一四〇〇にヴァーチャル会議を実施する。各戦隊に連絡。一六〇〇にランジョン星系ジャンプポイント(JP)に向けて加速を開始する」


了解しました、少将(アイアイサー)。各戦隊指揮官及び全艦に命令を送ります」


 ホルボーンは敬礼すると、すぐにコンソールを操作し始めた。

 今回クリフォードが率いる分艦隊は三月に行われたシミュレーションと同じ編成で、重巡航艦戦隊一、駆逐艦戦隊三、スループ艦二十の計二百隻だ。


 命令を出した後、クリフォードは戦闘指揮所(CIC)に向かった。

 CICに入ると、盟友であり旗艦艦長であるサミュエルに話しかける。


「この任務中、本戦隊の指揮は君に任せることになる。よろしく頼むよ、サム」


了解しました、少将(アイアイサー)! 俺にできることは何でもやりますよ」


 サミュエルはわざと明るい表情で答えた。

 この任務が厳しいものであることは全乗組員が理解しているため、少しでも不安を払拭しようと考えたのだ。


「ウォルター、ランジョンJPに到着するまでに輸送船団の詳細を知っておきたい。ヤシマ艦隊に照会しておいてくれ。リンジーは船団の運用方針の最終チェックを頼む」


 情報参謀のウォルター・リントン中佐と作戦参謀兼運用参謀のリンジー・バウケット中佐に命令を出す。

 二人が了解すると、参謀長であるアンソニー・ブルーイット大佐に顔を向ける。


「先行部隊としてスループを出発させたい。スループの艦長たちに送る命令書の作成を頼む」


了解しました、少将(アイアイサー)。既に作成済みです。承認をいただき次第、送信可能です」


「さすがだな。助かるよ」


 クリフォードはそう言うと、命令書の確認を始めた。


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