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アルビオン王国宙軍士官物語~クリフエッジと呼ばれた男~(クリフエッジシリーズ合本版)  作者: 愛山 雄町
第九部「輸送船団を死守せよ」

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第二十九話

 宇宙暦(SE)四五二六年三月二十四日。


 第四艦隊は演習のため、第四惑星ガウェインの公転軌道上にあった。

 クリフォードは自らが率いる分艦隊の指揮官を集め、会議を行っている。演習の命令が出された直後ではなく、一日置いたのは各指揮官に検討させたためだ。


「既に聞いている通り、船団護衛演習が行われる。船団に関する情報は命令書の通りだが、今一度確認しておきたい。バウケット中佐、説明を頼む」


 戦隊の作戦参謀兼運用参謀であるリンジー・バウケット中佐が「了解しました、少将(アイアイサー)」と答えてから説明を始める。


「船団は民間船を含む二千十二隻。輸送船は二百万トン級から五百万トン級で構成され約五百隻。タンカーは五百万トン級から二千万トン級とこちらもバラバラでこれが約千五百隻となります。最も鈍重な船は二千万トン級タンカーで、これが十二隻です。加速力は〇・五kGで最大巡航速度は〇・〇五光速()。当然のことながら防御力は皆無です。この他の民間船も加速力は〇・五kGから最大でも一kG。最大巡航速度も〇・一Cと低速です……」


 その説明に指揮官たちは溜息を堪えていた。

 艦隊に随伴する輸送艦やタンカーは加速力一kGで、最大巡航速度は戦闘艦と同じ〇・二Cだ。加速力はともかく、船団の巡航速度が遅すぎてノロノロとしか動けないという印象が強すぎるためだ。


 民間船は経済性を重視しているため、加速・減速による燃料消費を抑える傾向が強い。必然的に星系内の航行速度は抑えられることになる。


 星系内での移動に時間が掛かるため、人件費などのコストが上がるが、総質量一千万トン以上の大型船の場合、コストにおける人件費の割合は低いため、あまり重視されない。


 また、防御スクリーンはそれ自体の価格が高いだけでなく、その能力を発揮させるために対消滅炉(リアクター)などのエネルギー関連設備にも大きな影響が出る。民間船では建造コストを抑えるため、防御スクリーンの能力を下げる傾向にあった。


 防御スクリーンは航行中に星間物質との衝突エネルギーを吸収して船体を守るが、最大巡航速度でのエネルギー吸収能力しかなく、無限に加速が可能な宇宙空間であってもそれ以上速度を上げられないのだ。


「……船団の隊形ですが、直径〇・〇一光秒(約三千キロメートル)の比較的緩やかな球形陣を想定しています。加速時のベクトル調整において、民間船の低いスラスター能力ではこれ以上密集させると混乱が起き、最悪の場合、船同士の衝突が発生するためです」


 十隻程度の船団しか組まない民間船ではある程度広がっても経済航路に乗るまでに調整できれば特に問題はない。そのため、ベクトル調整用のスラスターの能力が低い。


 この説明を聞き、第五重巡航艦戦隊司令官ネヴィル・オルセン少将が鋭い目つきのまま溜息を吐く。


「これほど鈍重な船団の護衛は苦痛だな。相手の数が分からんし、守り切る自信はないな」


 オルセンの言葉に第八駆逐艦戦隊司令シャーリーン・コベット准将が生真面目そうな表情で頷く。


「オルセン少将のおっしゃる通りです。仮に敵が同数であっても軽快な駆逐艦にズタズタにされるでしょう」


 第二十三駆逐艦戦隊司令ニコラ・デリンジャー准将も同意する。


「小官も自信がありません。船団の護衛は何度か経験していますが、この船団を確実に守る方法は全く思いつきません」


 彼女は身長百八十センチメートルほどと背が高く、その体格に見合ったやや低い声が特徴的だ。緊張しているため声に威圧感はあるが、普段は気さくで下士官兵の人気も高い。


「我々駆逐艦戦隊が肝になるということでしょうか?」


 クリフォードに次いで若い第十二駆逐艦戦隊司令ロバート・エインズワース大佐がクリフォードに質問する。エインズワースは三十八歳で参謀長であるアンソニー・ブルーイット大佐とは士官学校の同期だ。


 笑みを絶やさない明るい性格だが、第二次タカマガハラ会戦では果断な指揮を執り、大佐でありながらも駆逐艦戦隊司令に抜擢された逸材だ。


「戦艦戦隊と重巡航艦戦隊は守りに徹することになるから、駆逐艦戦隊の動きが重要だと考えている」


 クリフォードの答えにオルセンが更に問う。


「数的にそうなることは当然だが、具体的にどう考えているんだ? 君ならある程度考えていると思うんだが?」


「まず状況を整理しましょう。今回の演習の戦略目的は船団を守ることです。襲撃側はどこかで待ち伏せしてくるでしょうが、敵の出方によって対応が変わります」


「確かにそうだが、ジャンプポイント(JP)で待ち伏せされればステルス機雷を考慮しなくとも逃げ切れることはできない。巡航状態でも加速力の関係で事実上逃げることは不可能だ。通商破壊艦が十隻程度なら分からないでもないが、百隻以上であれば、敵がどう動こうが守りに徹するしかない。対応方針は変わらないのではないか?」


 コベットもオルセンに賛同する。


「命令書に明記されていますが、我々から敵対行動を採ることは禁じられています。この状況で待ち伏せされれば、守り切ることは非常に困難です。敵を早期に発見し、船団から離れた場所で敵に手を出させた上で殲滅する以外に方法はないと思います。しかし、敵がこちらより多い場合は先手を取らせる以上、大きなリスクがあります。難しい条件であると言わざるを得ません」


 その意見に全員が頷いている。


「オルセン少将、コベット准将、忌憚のない意見をありがとうございました。私の戦隊でも事前に検討しているのですが、お二人の結論と大して変わりません……」


 そう言いながらコンソールを操作する。


「我々が考えた敵の攻撃パターンですが、ジャンプアウト直後の奇襲、巡航状態での攻撃、JPでの待ち伏せを想定しています……」


 スクリーンにそれぞれの状況が映し出される。


「ジャンプアウト後ですが、ステルス機雷については偵察艦(スループ)を先行させることで対応が可能と考えます。スループが機雷でやられれば、我々はジャンプインしませんし、スループがジャンプアウトした後に機雷を敷設するのであれば、完全な敵対行為ですから、スループを先行させて外交使節団やハース提督に連絡すれば、ゾンファは政治的に窮地に陥るので政府から禁じられているでしょうから、実行されることはないでしょう……」


 スループ艦はステルス能力が高く、一度見失えば捕捉することは難しい。次の星系でも待ち伏せするほどの敵対行為であれば、連絡艦の航行も妨げられるので、それをもって敵対行為とすることも可能だ。


 ステルス機雷は敵からの侵攻作戦が想定されない場合、自国の支配星系の航路上に設置することはない。特に現在は平和条約が締結されているため、他国の民間船も多く往来する。このような状況で機雷を設置することは即敵対行為と看做すことが可能だ。


「対応方針ですが、通常通り、護衛艦隊と輸送船団に時間差を付けてジャンプアウトする方法しかあり得ません。この場合、待ち伏せ側が圧倒的に有利ですが、それに対応するために速度を持ったままジャンプインし、ジャンプアウト後の敵の攻撃をはぐらかします……」


 通常の超光速航行(FTL)ではジャンプアウト後にJPに滞在している艦船などとの衝突を防ぐため、相対速度を低くしておくことが推奨されている。


 しかし、JPは平均的な大きさで直径三光秒(約九十万キロメートル)もの大きさがある。数万隻の大艦隊が偶然いたとしても衝突する可能性は限りなくゼロだ。


 仮に〇・一Cの速度でジャンプアウトした場合、JPを最長でも三十秒で通り抜けることになる。この状況でジャンプアウト後に敵からの攻撃を考慮して手動回避を行うと、人工知能(AI)による回避機動が阻害され、障害物に衝突する可能性は否定できない。


 特に艦隊単位でジャンプアウトする場合は危険で、過去には操舵長(コクスン)が障害物に驚いてパニックに陥り、艦同士で衝突する事故が起きており、相対速度を小さくする運用となっている。


「確かに有効な手だが、二百隻規模でそれを行うのはリスクが大きいと思うが」


 オルセンが常識的な意見を言った。


「予め各艦の回避範囲を定めておけば、人工知能(AI)による補正で艦同士の衝突は防げます。それに待ち伏せている敵がいたとしても、彼らには我々がいつジャンプアウトしてくるのか分かりませんから、シフト体制になっているので、想定外の状況に対応が遅れる可能性が高いと思います。それにシフト体制であるなら、我々がジャンプアウトした段階で攻撃するよう命じられているでしょうから、こちらも即座に反撃できます」


「その際はミサイル攻撃で敵を殲滅します。四十隻の重巡航艦、六隻の軽巡航艦、百十四隻の駆逐艦から発射されるミサイルは六百二十八基。二倍程度の敵であれば、初期に大きなダメージを与えることが可能ですから主導権を握ることは難しくありません」


「なるほど。確かにシフト中なら予め攻撃を命令しておくしかないし、ミサイル迎撃能力も落ちている。合理的な作戦だな」


 そう言ってオルセンは納得するが、コベットが疑問を口にする。


「確かに速度を維持したままジャンプアウトしてくると考えていなければ、パニックに陥るかもしれませんが、二つ目以降の星系では情報通報艦によって我々が速度を維持したまま、ジャンプアウトしてくるという情報が伝えられます。奇襲効果が小さくなるのではありませんか?」


「准将の言う通り、二つ目以降の星系では奇襲効果は薄い。しかし、このように警戒していると知らしめることで、JPでの待ち伏せを断念し、航路上での攻撃に切り換えてくれるなら、こちらとしてはその方がありがたい」


「なるほど。速度を維持したままジャンプアウトされれば、予想していても初動で後手に回る。不利な状況になるなら、こちらの行動が確定した航路上で攻撃する方が、リスクが少ないと考えるはずだと。敵の心理を考慮した策は今も健在ということですか」


 コベットはそう言って微笑んだ。


「まあ、私の思惑通りに行くかは分からないが、少なくともJPという不利な場所での対応はこれでいいだろう」


 クリフォードはそう言うと、再びコンソールを操作し始めた。


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400エピソードお疲れ様です。 四十隻の重巡航艦、六隻の軽巡航艦、百十四隻の駆逐艦から(一斉に)発射されるミサイルは六百二十八基。駆逐戦隊が軽巡2隻と駆逐艦38隻で構成されているのであれば水雷?戦隊の…
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