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アルビオン王国宙軍士官物語~クリフエッジと呼ばれた男~(クリフエッジシリーズ合本版)  作者: 愛山 雄町
第九部「輸送船団を死守せよ」

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第二十七話

 宇宙暦(SE)四五二六年三月二十日。


 ヤシマ政府の外交団がキャメロット星系に到着した。

 代表は外相のシゲオ・ヨシダで、ゾンファ共和国に対する方針のすり合わせのためだ。


 首相のロジャー・エバンスはキンバリー・レストン外務卿、サイモン・スペンサー軍務卿と共に協議に入った。

 最初にエバンスが発言する。


「我が国はゾンファ共和国の暴挙を許すべきではなく、艦隊を派遣すべきと考えています。しかしながら、これは我が国だけの問題ではなく、貴国及び自由星系国家連合(FSU)にも大きく関わる問題です。その点について協議を行いたい」


 ヨシダは懲罰部隊を派遣すると聞き、内心で安堵しながら頷く。


「我が国も同様の考えです。ゾンファの横暴を許せば、以前のように我が国と貴国に野心を剥きだしてくることは明らかです。我が国としましては早急にジュンツェン星系に艦隊を派遣し、J5要塞の破棄作業の再開と責任の追及を行うべきと考えております」


 その言葉にレストンが首を横に振る。


「ジュンツェン星系だけでなく、ゾンファ星系にも艦隊を派遣すべきです。責任を追及するといっても軍事力による背景がなければ、のらりくらりとはぐらかされるだけで終わるでしょう。そして、ゾンファの不満の原因となった貴国には、より積極的な行動をお願いしたいと考えています」


 ヨシダの表情が一瞬曇った。

 彼もゾンファ星系に艦隊を派遣する可能性があると考えていたが、積極的に関与すべきという言葉に警戒したのだ。


「我が国もゾンファ星系への艦隊派遣に反対ではありませんが、具体的にどの程度の規模が必要だとお考えでしょうか?」


「統合作戦本部と防衛艦隊で検討した結果、最低でもジュンツェン星系に六、ゾンファ星系に四個の艦隊が必要です。そのうちの半数を貴国に出していただきたい。また、ゾンファ星系派遣艦隊への補給も貴国にお願いしたいと考えております」


「我が国から五個艦隊も……我が国には現在八個艦隊しかありません。そのうち二個艦隊は星系内用ですから、ほぼ全艦隊を派遣させることになります。非常に厳しいと言わざるを得ません」


「そのことは理解していますが、現在帝国が侵攻してくる可能性は皆無です。我々は貴国が五個艦隊を派遣しても問題ないと考えています」


「その点は私も同意します。ですが、問題は別にあります」


 想定していなかった言葉に、エバンスが首を傾げる。


「別の問題ですか?」


「はい。我が軍の恥を晒すことになりますが、八個艦隊に増強したものの、兵站部門が全く追いついていないのです。具体的には輸送艦が定数に満たず、遠征が可能な艦隊はギリギリ三個艦隊という状況なのです」


 冴えない中年男であるヨシダは哀愁を帯びた表情を浮かべて、大きく頭を下げる。

 エバンスはヨシダが自国艦隊を出したくないための演技ではないかと考え、それまで浮かべていた笑みを消し、強い視線を向けた。


「貴国艦隊の情報は我が国が派遣した教導隊から得ていますが、輸送艦不足が酷いとは聞いておりません。疑うわけではありませんが、もう少し詳しく教えていただけませんか?」


 ヤシマ及び自由星系国家連合(FSU)の各軍に対し、アルビオン王国は教導隊を派遣し指導を行っている。特に最前線になるヤシマとロンバルディア連合には多くの教官を派遣していた。


 教導隊だが、艦隊縮小により予備役に回される将兵の受け皿にもなっている。そのため、ヤシマには二千隻近い艦艇と三十万人ほどの将兵が派遣されており、ヤシマ艦隊に関する情報は以前より質・量ともに充実していた。


「第二次タカマガハラ会戦後に艦隊の増強に着手しておりますが、星系防衛のための戦闘艦を優先したため、補助艦艇は以前とほとんど変わらぬ四個艦隊分しかありません。また、戦闘艦の乗組員不足もあって、補助艦艇から転属させており、動かせる艦が減っている状況です。教導隊の方々は主に戦闘艦の指導を行っていただいておりますので、気づいておられないのではないでしょうか」


 三年前のSE四五二三年の第二次タカマガハラ会戦でヤシマ艦隊は七千隻以下にまで減っている。その後、ゾンファから大型艦八千隻が譲渡されたが、八個艦隊四万隻には遠く及ばない。


 ヤシマはその高い生産能力をフル稼働して艦隊の増強を図り、僅か三年で三万七千隻程度にまで回復したが、この短期間では人的な補填が全く追いついていなかった。


 また、ロンバルディア連合からの要請を受けて戦闘艦を作っており、さすがのヤシマも補給艦などの補助艦艇にまで手が回っていない。


 このことは教導隊も気づいていたが、ヤシマ星系内での演習では輸送艦などの補助艦艇を使う必要はなく、ヤシマ艦隊が遠征に出る可能性は低いと考えていたため、実数としての報告はあったものの、注意すべき事項として報告されておらず、政府は認識していなかった。


「しかし、今回の事態は貴国が原因でもあるのです。我が国の国民も貴国が同数の艦隊を出さなければ納得しません。その場合、ゾンファに与することになりますが、それでもよろしいのですか?」


「そうおっしゃられましても動かせる艦隊は三個艦隊のみ。貴軍にご負担を掛けることとなりますが、防衛協力費を増額するということでご納得いただけないでしょうか」


 そう言ってもう一度大きく頭を下げる。

 その後、協議を続けたが、議論は平行線を辿り、この日の会合は物別れに終わった。


 宿泊施設に向かう地上車(ランドカー)の中で、ヨシダは表情を硬くしていた。


(今の王国政府は頼りにならない。ゾンファを恫喝するのであれば、我が国の艦隊ではなく王国艦隊を多くすべきなのだ。そうでなければゾンファの指導者も民衆も本気で考えないのだから……世論を気にしているのだろうが、そのための言い訳を用意してやったのに最初の案に固執して取り付く島もない。ノースブルック氏の策も空振りに終わりそうだ……)


 三個艦隊しか派遣できないという話は元首相ウーサー・ノースブルックがヨシダに示唆したものだ。


 ノースブルックは王国艦隊が少なければ、不測の事態に対応できず、戦闘が起きた場合に多くの戦死者を出すと考えていた。そのため、事前にメッセージを送り、ヤシマ艦隊が出せないというもっともな理由を付けて王国艦隊を増派するように仕向けたのだ。


(言っては悪いが、我が国の司令官で外征に耐えられるのはオオサワ大将、ナカハラ大将、アベカワ大将の三人しかいない。だが、オオサワ大将は体調を崩して長期の遠征には耐えられん。この程度のことはエバンス首相も理解していると思ったのだが、買い被りだったようだ……五個艦隊を出さざるを得ないが、これは厳しい状況だぞ。特にゾンファまでの輸送は……)


 三個艦隊しか出せないと言ったが、ジュンツェン星系までなら派遣は難しくない。

 ヤシマ星系からジュンツェン星系までは支配星系であるイーグン星系と中立星系となったシアメン星系を経由するだけであり、民間船を徴用しても危険は少ないし、徴用できなくとも一個艦隊分の輸送艦がピストン輸送することで対応は可能だ。


 しかし、ゾンファ星系までの輸送は事情が大きく異なる。

 現在のヤシマ艦隊の輸送艦では数が足りないため、民間船を徴用する必要がある。しかし、交易国家であるヤシマでも一千隻以上の輸送船を用意することは大きな負担だ。


 何とか掻き集めることができたとしても、大規模な船団を組んだことはなく、敵国と言えるゾンファ国内を航行させることは大きなリスクを伴う。


(ノースブルック氏に相談したいが、エバンス首相の心証を悪くする。通信では盗聴の恐れもあるし、どうしたものか……)


 そんなことを考えていたが、ウーサー・ノースブルックは堂々とヨシダに会いに行った。

 報道陣が駆け付け、質問する。


「ヤシマの外交団と何を協議されるのですか?」


 その問いにノースブルックはいつもの爽やかな笑みを浮かべて答える。


「私が首相の時、ヨシダ外相にはいろいろと世話になりました。せっかくキャメロットまで来てくださったのですから、旧交を温めようと訪問しただけです」


「政治的なものではなく、個人的な表敬訪問だということでしょうか?」


「基本的には個人的な表敬訪問です。もちろん、下院議員として可能な範囲で国益に沿う話はするとは思いますが」


 それだけ言うと、ヤシマ大使館に入っていった。

 ヨシダは堂々と入ってきたノースブルックに若干呆れながらも助かったと安堵する。


「相談したいと思っておりましたので助かりましたが、後で問題になりませんか?」


「国益を損なうような話をするわけではありませんから、問題などありませんよ。それより首相との話し合いは上手くいかなかったようですな」


「ええ。あれほど頑なに同数に拘るとは思いませんでした。ゾンファの情報操作の影響でしょうか?」


「そのようです。今回のゾンファの工作は用意周到です。世論を気にせざるを得ない首相を上手く追い詰めています。我々も後手に回っており、奴らの思惑通りに進んでいます」


 その言葉にヨシダは愕然とする。


「それほどまでとは……それがゾンファの思惑だと首相たちは気づいていないと」


「首相も気づいているはずですが、民主党には大局を読めない者が多いですから。ここで世論を敵に回して辞職するよりマシだと考えているのではないかと思います」


「そうであるなら、我が国から五個艦隊とゾンファ星系への輸送船団の派遣は覆せないということでしょうか?」


「そうなります。ハース提督と話をしましたが、艦隊も危惧しているようです。ですので、貴国にはあることをお願いしたいと思っています。これならば、エバンス首相の主張を受け入れながらも最悪の状況を回避することができますので」


 その言葉にヨシダは安堵の表情を浮かべた。


「あなたがそうおっしゃるのであれば安心です。それで我が国はどのようにしたらよいのでしょうか?」


 その後、ノースブルックとヨシダは協議を重ねた。


「分かりました。あなたの提案は必ず我が軍に飲ませます」


 ヨシダはそう言うと、ノースブルックの手を取った。

 その後、当初の案通り、ヤシマから五個艦隊を派遣することと、ゾンファ星系への補給物資輸送も行うことで合意した。


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