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アルビオン王国宙軍士官物語~クリフエッジと呼ばれた男~(クリフエッジシリーズ合本版)  作者: 愛山 雄町
第九部「輸送船団を死守せよ」

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第二十五話

 宇宙暦(SE)四五二六年三月六日。


 輸送船団護衛の極秘任務を受けたクリフォードたちは、レヴィン・コンウェイ大将と共に第四艦隊旗艦アイアンデューク25に戻ってきた。

 司令官室に入ると、コンウェイは少し疲れたような表情で話し始める。


「なかなか厳しい状況だ。ゾンファの懐深くまで脆弱な民間船を率いていかねばならん。だが、事前に準備もできん。私なら断っていたかもしれんな」


 その言葉にサミュエルが頷く。


「私も閣下と同じことを考えました。二千隻の鈍重な輸送船、それも言うことを聞くか微妙な連中です。それを僅か二百隻で守るなんて不可能だろうと」


 参謀長のアンソニー・ブルーイット大佐も同意する。


「輸送船団の詳細が分かりませんから、計画を立てることも難しい状況です。それに航路情報はあるとはいえ、星系内のどこにゾンファ艦隊が潜んでいるか分かりません。海賊船を装って襲ってきたら守り切ることは難しいでしょう」


 二人の言葉にクリフォードが答える。


「私も不安だが、誰かがやらなくてはならないんだ。提督方の信頼を無下にはできないしな」


 そう言った後、コンウェイに視線を向ける。


「護衛艦隊に加わってほしい指揮官が二人います」


 コンウェイはクリフォードが艦隊の構成まで考えていることに驚きを隠せない。


「既にそこまで考えていたのか……それで誰なのだ?」


「第五重巡航艦戦隊司令官ネヴィル・オルセン少将と第八駆逐艦戦隊司令シャーリーン・コベット准将です。この二人であれば信用できますから、事前に話ができます」


「コベットは昔の部下だったな。彼女の優秀さは私も理解している。それにしてもオルセンとも知り合いだったのか?」


「はい。私が中尉になったばかりの時、サフォークの戦術士で直属の上官でした。少し取っ付きにくい感じでしたが、常に沈着冷静な戦術士官であり、艦長に嫌われていた何も知らない若造に過ぎない私に、丁寧に仕事を教えてくれた正義感のある方でもあります」


 クリフォードがカウンティ級重巡航艦サフォーク05に戦術士官として配属になった際、第一艦隊司令官コパーウィート大将の副官だった彼は出世が遅れていた艦長に徹底的に嫌われた。その際、オルセンは艦長の顔色を窺うことなく、クリフォードに接している(第二部参照)。


「確かにオルセンは優秀だが、君と同じく昇進したばかりだ。その点が気になるな」


 オルセンはクリフォードと同じく今年の一月に少将に昇進し、重巡航艦戦隊の司令官になった。そのため、コンウェイは彼の人となりを充分に把握できておらず、不安に感じている。


「今回の演習でも第五重巡航艦戦隊は見事な動きでした。演習前に少将にお会いしましたが、以前と同じく冷静で、今回の任務にはうってつけだと思います」


「きみがそこまで言うのであれば問題ないだろう。次席指揮官になるのだから気心が知れている方がよいだろうしな。ところで艦隊の編成はどう考えているのだ?」


「二百隻であれば、第三戦艦戦隊、第五重巡航艦戦隊を中核として、駆逐艦戦隊を三、残り二十隻はすべてスループ艦で考えております」


 戦艦戦隊は二十隻、重巡航艦戦隊と駆逐艦戦隊はそれぞれ約四十隻で構成される。スループ艦は艦隊司令部直属であり、管理上の戦隊はあるが、通常は単艦で任務に当たる。


「スループを二十隻か……ずいぶん多いな」


 民間船を含む輸送船団の場合、加速力が低い輸送船が含まれるため、頻繁な進路変更が不要な経済的な航路を選択するしかない。そのため、航路が限定されることになり、小惑星帯など危険な宙域の索敵は行うものの、通常は駆逐艦戦隊を先行させるだけで充分だ。


 そのため、コンウェイは護衛艦隊の十パーセントも戦闘力が低いスループ艦にすることに違和感を覚えたのだ。


「半数程度を次の星系に先行させます。そして、ジャンプポイント(JP)の安全を確認させた上で一部が引き返し、船団に報告させます。残りは星系の探査をさせつつ、更に次の星系に向かわせ、同様にJPの安全を確認させるつもりです」


「JPに機雷が敷設されているか待ち伏せがいることを想定しているのか?」


「その通りです。ゾンファもJPで待ち伏せて船団を殲滅するような乱暴な攻撃はしないと思いますが、万が一を考えれば慎重を期すべきと考えます。それに加速力の小さな民間船が主体ですから、スループなら超光速航行(FTL)で往復させてもそれほど大きな後れにはなりません」


 JPは恒星から三光時程度離れた場所にある。

 そのため、JPの間は五から六光時程度離れており、民間船の星系内巡航速度〇・〇五光速()では星系内の移動に百時間以上掛かる。


 一方、加速力が高く星系内を最大巡航速度〇・二Cで移動できるスループ艦なら、最初に十日ほど先行させておけば、船団がFTLに入る前に次の星系の情報を得ることができる。もっとも数日前の情報になるため、待ち伏せを完全に防ぐことはできない。


「なるほど」


「スループの一部は次の星系にジャンプアウトしたところで船団から分離し、ゾンファ星系に向かわせます。そうすれば、最新の情報を届けることができるためです」


「スループならJPで待ち伏せを受けない限り、ステルス機能を生かせば次の星系に移動できる。万が一星系内で待ち伏せされた場合にその情報を伝えることができるということか」


 スループ艦はステルス機能を強化していることと五万トン程度と非常に小型であるため、星間物質との反応が大きな最大巡航速度で航行していても一光分以上離れれば、発見される可能性は低い。また、速度が〇・一C以下の低速なら戦艦の射程内である二十光秒以内でも発見されない可能性が高い。


 クリフォードはコンウェイの言葉に大きく頷く。


「派遣艦隊もジュンツェンとゾンファの間で定期的に連絡艦を行き来させるのでしょうが、船団から都度スループを送りだせば、万が一襲撃を受けて全滅したとしても、どこまで航行したのか伝えることができます。その情報があれば、ハース提督も判断しやすいのではないかと考えました」


「確かにその情報は有益だろう。数日おきに輸送船団の情報が入ってくるのだから、情報が途絶えれば船団が全滅したということだし、予定が変更になっただけならその情報が届けられるからやきもきすることもない。そのために護衛艦隊の一割ものスループを同行させるというのは理解できるが、肝心の防衛能力が落ちることになる。その点はどう考えているのだ?」


 スループ艦の武装は主砲である一ギガワット級荷電粒子加速砲しかなく、駆逐艦の防御スクリーンすら貫通させることは難しい。そのため、艦隊戦では戦場から離れた場所に待機させることが多く、戦力として考えられてはいない。


「ゾンファがどの程度の艦を投入するのか全く想定できません。仮に相手が五百隻なら百八十隻でも二百隻でも変わりません。それならば先行して安全が確認できることと連絡艦として送り出せることを重視した方がよいと思います」


「確かにそうだな。一千隻以上ということは考え難いが、五百隻程度なら抽出した上でどこかに隠すことは容易い。二百隻と言う縛りがあるなら、連絡と探査に注力した方がいいということだな」


 コンウェイはそう言って納得した。


「少将にお聞きしたいのですが、駆逐艦戦隊を主力とするのはなぜでしょうか? 巡航戦艦はともかく、戦闘力が高い重巡航艦や軽巡航艦を増やしてもよいと思うですが?」


 ブルーイットが質問する。


「その点は私も気になったな」


 コンウェイも興味深そうにクリフォードを見ている。


「一つは政治的な配慮です。大型艦ばかりではゾンファ艦隊を警戒しているように見えるだけでなく、拠点の占領が可能ですからゾンファの指揮官も不快に思うでしょう。一方、駆逐艦が主体であれば、海賊や通商破壊艦を警戒しているように見え、ゾンファの指揮官も違和感を持ちません。それに王国政府への配慮という点でも、数は揃えましたが、よりコストが高い大型艦ではなく、駆逐艦を主体としたとした方が後で問題になりません」


 大型艦には陸兵である宙兵隊が乗り組んでいる。そのため、遠距離からの攻撃と強襲揚陸で補給基地などの拠点を狙っているように見えなくもないが、駆逐艦には宙兵隊がおらず、拠点の強襲作戦には使用できないことは自明だ。


「軽巡航艦を選ばなかった理由はミサイル発射管の数が少ないためです。艦隊随伴型のA級駆逐艦ならミサイル発射管は四、一方のタウン級軽巡航艦は二しかありません。スペクターミサイルの攻撃力は魅力的ですが、護衛対象を逃がす時間を稼ぐために、敵により混乱を与えるには数が重要だと考えます」


 軽巡航艦は大型のステルスミサイルであるスペクターミサイルを搭載しており、高い攻撃力を誇る。一方でスペクターミサイルは大型艇(ランチ)なみの質量と容積を持つため、発射管は二本しかない。


 駆逐艦には標準型ステルスミサイルのファントムミサイルが搭載されるため、発射管の数を増やすことができる。また、搭載数も軽巡航艦の六本に対し、十二本と多く、作戦の幅を広げることが可能だ。


「もう一つありそうですね」


 サミュエルがそう言うと、コンウェイが「それは何かな」と聞く。


「重巡航艦戦隊や軽巡航艦戦隊の司令官は少将です。先任順位のことを考えれば、少将が指揮を執れば揉めることになりかねません」


「なるほど。その点は盲点だった。エルフィンストーン提督やハース提督と対等に話しているから最も若い少将であるという点を忘れていた」


 クリフォードは三十二歳と彼以外で最も若い少将と比べても十歳近く若い。そのため、実力は認めるものの、指揮下に入ることに抵抗感がある年長者は多かった。


「クリフ、君の考えは理解した。派遣艦隊は四月中旬に出発するが、我が艦隊は六月上旬に出発する。それまでに集められる情報を集め、この任務に備えてほしい」


 コンウェイの言葉に全員が頷いた。


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