第二十四話
宇宙暦四五二六年三月六日。
キャメロット防衛第四艦隊が約一ヶ月間のアテナ星系での演習を終え、キャメロット星系に戻ってきた。補給と整備のため、第三惑星ランスロットにある大型要塞衛星アロンダイトに次々と入港していく。
クリフォードは自らが率いる第三戦艦戦隊について考えていた。
(さすがにベテランが多いだけあって、通常の戦術なら問題なく対応できるようになった。しかし、頭が固い者が多いことが懸念だな。少し変わったことをすると、すぐに拒否反応が出る。特にオーティス艦長は注意が必要だ……)
ドレッドノート223の艦長、ロビーナ・オーティス大佐は第三戦隊の最先任艦長だ。戦艦での勤務が長く、戦列を組んでの戦いでは粘り強い指揮を見せるが、高速での遊撃戦では判断が遅く、戦隊の足を引っ張っている。
『戦艦は巡航艦じゃないんです! 追撃戦ならまだしも、最大巡航速度での遊撃戦なんてあり得ません!』
オーティスはそう言ってクリフォードに噛み付いていた。
独行作戦がほとんどない戦艦が最大巡航速度である〇・二光速で戦闘を行う可能性は低い。そのため、彼女に同調する四十代のベテラン艦長は多かった。
(言いたいことは分かるが、素早い判断が必要な状況は戦艦でもあり得るんだ。そのことを理解させないといけない……)
そんなことを考えていると、旗艦艦長であるサミュエル・ラングフォード大佐が声を掛けてきた。
「休暇はどうされるんですか? よければ、一緒に食事でもどうです?」
大規模演習の後ということで二週間の休暇が与えられていた。
「そうだな。ファビアンも誘ってみようか。賑やかな方がいいだろう」
そんな話をしていたが、副官のヴァレンタイン・ホルボーン少佐が声を掛けてきた。
「艦隊本部から一四〇〇に司令長官室に出頭するよう命令が届きました。参謀長と艦長も同行するようにとのことです」
「一四〇〇だと入港したらすぐに来いということか。クリフとアンソニーが呼ばれるのは分かるが、俺まで一緒というのは何だろうな?」
サミュエルが首を傾げている。
「理由は聞いておりませんが、コンウェイ提督も呼び出されているようです。何か特別な任務かもしれませんね」
レヴィン・コンウェイ大将は第四艦隊司令官だ。そのため、ホルボーンは特別な任務の可能性を指摘したのだ。
「行ってみれば分かるさ」
クリフォードもその可能性があると考えたが、まだ艦隊としてまとまっていない第四艦隊に特別な任務が与えられる可能性は低く、個人的に意見が聞きたいのではないかと考えていた。
コンウェイと合流し、五分前に司令長官室に到着すると、そこには司令長官のジークフリード・エルフィンストーン大将と総参謀長ウォーレン・キャニング中将が待っていた。
そして、すぐに第一艦隊司令官アデル・ハース大将、第六艦隊司令官ジャスティーナ・ユーイング大将が入室し、会議用のテーブルに着く。
(クリフはともかく、こんな大物ばかりのところに俺が呼ばれるなんておかしいだろう。どんな話が飛び出してくるんだ?)
サミュエルはその顔ぶれを見て、自分が場違いだと考えていたが、それを表情に出すことなく、クリフォードの後ろに立っている。そして、横にいる戦隊参謀長アンソニー・ブルーイット大佐に目配せする。
ブルーイットも表情にこそ出していないが、困惑していた。
コンウェイとクリフォードはすぐに座るが、サミュエルたちも大将たちを待たせるわけにはいかないと困惑しながらクリフォードの横の席に座る。
「入港後のバタバタとしたタイミングで呼び出して済まなかった。既にゾンファへの艦隊派遣の話は聞いていると思うが、そのことでコンウェイ大将とコリングウッド少将に確認したいことがある」
エルフィンストーンは“疾風”という異名に相応しく、ほとんど前置きなしにすぐ本題に入る。
「確認したいこととは輸送船団の護衛艦隊のことだ。ヤシマから送り込まれる輸送船団はゾンファ星系派遣艦隊の命運を握ると言っていい。その護衛艦隊をクリフの戦隊を中核として編成したいと思っている」
「第三戦艦戦隊を中核とした護衛艦隊ですか……命令であれば否はありませんが……」
コンウェイは突然の話に困惑していた。
そこでハースが補足する。
「王国とヤシマからそれぞれ五個艦隊が派遣され、そのうち四個艦隊がゾンファに向かいます。本作戦は六ヶ月程度を見込んでいます。そのため、ヤシマから二千隻規模の輸送船団が派遣されると想定されますが、ヤシマの護衛部隊だけでは不安があります。本来なら我々が護衛を付けるべきですが、政府から補給の所掌はヤシマであり、護衛艦隊の派遣は認められないと言われてしまいました。但し、現場の判断を尊重してくれるとのことですので、ヤシマの護衛艦隊に不安があるのであれば、我が国からも護衛艦を送り込むことは可能と考えています」
「その護衛艦隊に第三戦艦戦隊を中核とした部隊にしたいと。しかし、我が第四艦隊は本作戦に参加しません」
コンウェイの指摘にハースは頷く。
「その通りですが、ジュンツェン封鎖艦隊への補給のために輸送艦隊を送り込みます。その際、訓練を兼ねて第四艦隊が同行します。それが偶然ヤシマの輸送船団と同じタイミングになります」
「なるほど。ジュンツェン封鎖艦隊から戦力を抽出することを避けるなら、キャメロットに戻るだけの我が艦隊から護衛を抽出すれば戦力の低下を防げる。現地司令官はそう判断するということですな」
「ええ。但し、追加の護衛ですから二百隻程度に抑えなければなりません。そうなると少将クラスの司令官が指揮することになります。敵の支配星系で単独行動できる少将となるとコリングウッド少将しか考えられません。ですので、彼を借りたいというのが今回の会議の趣旨です」
「了解です。確かに彼なら適任でしょう」
コンウェイが即座に了承する。
サミュエルはハースとコンウェイの話を聞きながら自分がいる意味を理解した。
(クリフが護衛艦隊の指揮を執るということは、俺が戦隊の指揮を執らなくちゃいけないということだ。主力である戦隊の指揮官にも聞かせたいということか……意味は分かったが、胃が痛くなる話だ……)
同じようにブルーイットも同じような思いを抱いている。
(私に護衛艦隊全体の作戦を考えろということか。それも他国の輸送船団に言うことを聞かせながら……想像するだけで気が滅入るな……)
二人はそんなことを考えていたが、そのことはおくびにも出さない。
「ヤシマが輸送船団を派遣するという話はゾンファにも流すつもりです。ゾンファも相手が我々なら過剰な戦力を投入してくるでしょうが、ヤシマが相手なら隠しやすい二百隻の小艦隊で充分と考えるでしょう」
ハースがそう言うと、ユーイングがいつもの緩い感じで話し始める。しかし、その内容は厳しいものだった。
「分かっていると思いますけど、こちらから先に手を出すことはできませんわ。ハース提督のおっしゃる通り、数は互角に近い形になるでしょうけど、地の利は相手にありますから、圧倒的に不利な状況です。臨機応変に対応と言いますけど、私自身適切に対応できる自信がありませんわ。それほどの任務ということですよ」
サミュエルはユーイングの指摘を聞き、心の中で大きく頷く。
(提督のおっしゃる通りだ。もしゾンファが手を出してくるとしたら自分たちが有利な状況に持ち込んでいる時だ。それにこちらから手を出させて止む無く反撃したという体裁を取りたいと考えているだろうから、挑発してくることは充分に考えられる。ヤシマの船団は民間船だから、それだけでパニックに陥る可能性が高い。こんな厳しい任務はクリフ以外には無理だ……)
そこでエルフィンストーンが再び話し始めた。
「何も起きない可能性もないわけではないが、アデルやジャスティーナはゾンファが手を出してくる可能性が高いと見ている。君は戦隊を率いてまだ二ヶ月だ。レヴィンは認めてくれたが、君が不安を感じているなら断ってくれても構わない」
「不安がないとは言いませんが、誰かがやらなければならないことです。微力ながらお受けいたします」
その言葉にエルフィンストーンたちは安堵する。
この任務は非常に危険でありながらも偶然を装って行うものであるため、事前に準備を行うことが難しい。その割には責任重大であり断られる可能性もあると思っていたのだ。
「護衛艦隊の編成はレヴィンとクリフに任せるが、極秘の任務であることは忘れないでくれ。これは君たちも同様だ」
エルフィンストーンはそう言ってサミュエルとブルーイットに視線を向ける。
「「了解しました、提督」」
二人は同時にそう答える。
その後、具体的な作戦について協議が行われた。
感想、レビュー、ブックマーク及び評価(広告下の【☆☆☆☆☆】)をいただけましたら幸いです。




