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アルビオン王国宙軍士官物語~クリフエッジと呼ばれた男~(クリフエッジシリーズ合本版)  作者: 愛山 雄町
第九部「輸送船団を死守せよ」

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第二十一話

 宇宙暦(SE)四五二六年三月一日。


 首相のロジャー・エバンスはナイジェル・ダウランド統合作戦副本部長、ジークフリード・エルフィンストーン防衛司令長官、アデル・ハース第一艦隊司令官、ジャスティーナ・ユーイング第六艦隊司令官、ウォーレン・キャニング総参謀長らキャメロット星系における主要な軍関係者を呼んだ。

 

 そこには軍務卿のサイモン・スペンサー、外務卿のキンバリー・レストン、財務卿のレジナルド・リトルトンら重要閣僚も同席している。


「ゾンファ共和国の平和条約と停戦協定違反に対し、共和国政府に反省を促すため、ゾンファ星系に艦隊を派遣することを決定した。我が国からは計五個艦隊を派遣する。但し、同盟国である自由星系国家連合(FSU)からも同程度の艦隊を派遣してもらう前提だ。軍としての意見を聞かせてもらいたい」


 エバンスの言葉を受け、キャメロット星系における制服組のトップ、ダウランドが発言する。


「軍としてはまず戦略目的を明確にしていただきたいと考えています」


 “銀ぎつね(シルバーフォックス)”と呼ばれる知将が、鋭い視線をエバンスに向けていた。


「目的は今回の暴挙に対する責任の明確化と処罰、再発防止策の確実な実行だ」


「それを達成するために軍事行動が必要だと……ですが、その目的を達成するだけなら、外交だけでもよいのではありませんか? 艦隊を派遣する目的は恫喝ということでしょうか?」


 ダウランドは感情を排した声で確認する。


「そう考えてもらって結構だ。ゾンファの指導者たちが交渉だけで動くとは思えん。交渉するにしても、圧倒的な力を誇示する必要があると考えている」


 そこでハースが「よろしいでしょうか」と発言を求め、エバンスが頷くと質問を始める。


「ジュンツェン星系にいるゾンファ艦隊についてはどうお考えでしょうか? 恫喝ということであれば、ゾンファ星系に艦隊を送り込まなくてはなりません。無視するわけにはいかないと思いますが?」


 その問いにスペンサーが答える。


「無視するつもりはない。ゾンファに派遣する艦隊の補給線を維持するために監視と牽制は必要だと考えている」


「ということは、ゾンファ艦隊をジュンツェン星系に封じ込めておくということですか? もし、彼らがゾンファに戻るという選択をした場合、恫喝に向かう艦隊は十個艦隊以上となりますが、その点はどうお考えでしょうか?」


 ハースはジュンツェンに派遣されたゾンファ艦隊が引き揚げる可能性は低いと考えているが、嫌がらせのために三個艦隊程度を戻す可能性は充分にあり得ると考えていた。


 この場合、ゾンファ星系に五個艦隊程度がいる想定となるため、派遣する艦隊もそれに見合った数が必要になる。


「ジュンツェンにいるゾンファ艦隊が引き揚げるというのであれば、その段階でゾンファ星系への艦隊の派遣は取りやめ、外交使節団のみを送り込むことになる。艦隊が引き揚げるということはゾンファ政府に対する恫喝が成功したことと同義だからだ」


 スペンサーの答えにハースが疑問を口にする。


「そうでしょうか? ゾンファの指導部が行動を起こしたのは不満を持つ民衆を宥めるためです。王国やFSUに対し、強い姿勢を示したという実績を作るためと言っていいでしょう。その場合、艦隊が引き揚げてきたという事実を、彼らは本国での決戦も辞さないというプロパガンダに利用するはずです。このような状況で外交団を送り込んでも強気の姿勢を崩すことなく、時間だけが浪費されると思いますが、いかがでしょうか?」


 ハースの示した可能性について、エバンスたちは考えていなかった。

 エバンスは小さく頷くと、ハースに意見を求めた。


「確かにその可能性はある。提督ならどうすべきだと考えているのだろうか?」


「まず目的が不明確です。ゾンファの指導部を排除するのか、それとも指導部は残したまま、軍事力、すなわち艦隊を縮小させる交渉をするのか、艦隊は維持したままで侵攻拠点となるジュンツェン星系を無力化する、つまり艦隊派遣前の状況に戻すだけなのか、落としどころとなる点が不明確です。この点が不明確なままではお答えできません」


「確かにそうだな……我々としてはゾンファの指導部を一新したいが、それは現実的ではない。だが、ゾンファ艦隊の派遣前に戻すことは彼らが企図した瀬戸際外交の成功を意味するからそれも望まない。今回の暴挙に対する懲罰として艦隊の縮小と責任者の処罰は必須だと考えている」


「分かりました。では、その前提で小官の個人的な案を説明させていただきます。まず、我が国及びFSUから出撃可能な最大限の数の艦隊をジュンツェン星系に送り込みます。その数は最低でも十五個艦隊、できれば二十個艦隊でJ5要塞から人員を退去させた上、長距離ミサイル攻撃で要塞を破壊します……」


 その言葉にリトルトンがバンとテーブルを叩いて立ち上がる。


「要塞を攻撃するだと!……提督は戦争を引き起こそうと考えているのか!」


 リトルトンの怒りを受けてもハースは表情を変えることなかった。


「停戦協定ではJ5要塞を破棄することが決まっています。それを我が国とFSUが代行して実行するだけですから、戦闘行為には当たりません。それにそれだけの大艦隊であれば、ゾンファ艦隊も暴発して攻撃を仕掛けてくることはないでしょう」


「だが……」


 リトルトンは更に言い募ろうとしたが、それをエバンスが留める。


「今はハース提督の意見を聞くべきだ。提督、続きを頼む」


「はい。J5要塞を破壊すれば、侵攻拠点を失いますから、純軍事的にゾンファは防衛以外の戦闘、すなわち侵略戦争は非常に難しくなります。今回の暴挙を機にゾンファ指導部の野望を打ち砕くことができますから、時間を掛けて交渉することが可能になるでしょう」


 ゾンファ星系からヤシマ星系までの距離は約四十五パーセク(約百四十七光年)、キャメロット星系までは約五十パーセク(約百六十三光年)もある。その間に有人星系はなく、どこかに中継点が必要だ。


 ジュンツェン星系はヤシマにもキャメロットにも向かうことができる星系だが、逆に言えば、ここを抑えられればゾンファ側のランジョン星系ジャンプポイントに濃密な機雷原と大型要塞を設置することで、ゾンファ共和国が外に向かう航路はほぼなくなることになる。


 一応、ゾンファ星系からアルビオン星系に向かう航路はあるが、長距離の超光速航行(FTL)が必要であり、大艦隊を運用するには無理がある。実際、二十五年前のSE四五〇一年に奇襲作戦が行われたが、補給の問題でゾンファ艦隊は大敗北を喫していた。


「J5要塞の破棄作業が意図的に遅延させられていた。それを今回のことで一気に推し進め、ゾンファの指導者たちの野望を絶つ。そうすれば、ダラダラと交渉が続いても我々は不利にならないと……」


「もう一つ付け加えるなら、軍事費の抑制にも繋がります」


「二十個艦隊も動かせば、膨大な軍事費が必要になる! その程度のことは分かっているだろう!」


 リトルトンが吼えるが、ハースは無視して説明する。


「艦隊数は多いですが、ジュンツェン星系までなら補給の負担は小さいですし、派遣期間も短くできます。ゾンファ星系まで数個艦隊を派遣することを考えれば、トータルでは安く済むことは自明でしょう」


「J5要塞から人員が退去しない場合はどうするのだろうか? 無視して攻撃すれば、戦端を開くことになるが」


 外務卿のレストンが質問する。


「十分な時間を与えた上、期限を切るしかないでしょう。そもそも艦隊を派遣し、破棄作業を妨害してきたのはゾンファなのですから、こちらが非難される謂れはありません」


「最低十五個艦隊というのは、ゾンファの五個艦隊も一緒に攻撃することが可能だと見せるためか」


「その通りです。艦隊ごと要塞に立て籠もっても意味はありませんし、要塞を守るために攻撃してきても圧倒できます。ゾンファ側の指揮官も自殺行為でしかないと考えれば、要塞に立て籠もるという選択を採らないのではないかと考えます」


「なるほど。大艦隊で相手の心を折るということか……だが、こちらから攻撃を加えるというのは平和条約を無視することになる。それに自暴自棄になられたら厄介だ。ヤシマも戦端を開く可能性があるとなれば反対するだろう。その説得に時間が掛かれば、ゾンファに利することになる。大艦隊の派遣は難しいと言わざるを得ない」


 エバンスの言葉にハースは反論しなかった。

 彼の意見は軍事と言うより政治であり、それに対して一艦隊司令官が発言することができないためだ。


(世論を気にしているようね。ノースブルック氏のおっしゃる通りになったわ。だとすれば、次善の策を提案するしかない……)


 そう考え、再び発言を求めた。


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