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アルビオン王国宙軍士官物語~クリフエッジと呼ばれた男~(クリフエッジシリーズ合本版)  作者: 愛山 雄町
第九部「輸送船団を死守せよ」

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第十九話

 宇宙暦(SE)四五二六年二月二十五日。


 年明けにアルビオン星系を出発した新首相ロジャー・エバンスと閣僚たちがキャメロット星系に到着した。

 移動自体は予定通りだったが、エバンスは渋い表情を浮かべている。


 キャメロット星系にジャンプアウトした直後に、ジュンツェン星系にゾンファ共和国艦隊が現れ、J5要塞監視団が排除されたという情報を聞いたためだ。


(このタイミングで行動を起こしてくるとは……艦隊上層部と充分に協議してから世論を動かそうと思っていたのだが……)


 この情報が届いたのは三日前の二十二日。

 情報統制は行われていたが、情報通報艦から緊急の通報があったということでメディアが嗅ぎ付け、公表せざるを得なかった。


 エバンスは情報を受け取ると、外務卿であるキンバリー・レストンと軍務卿であるサイモン・スペンサーを呼ぶが、財務卿であるレジナルド・リトルトンも強引に入り込んできた。


「私の所掌である財務にも関係することだと思うぞ、ロジャー」


 リトルトンは民主党の重鎮で、分かりやすい二元論で語ることが多い人物として一定の人気がある。しかし、昨年五月に工作員の捜索任務に就くクリフォードに噛み付き、公の場で暴言を吐いたため、選挙で勝ちきれなかったと陰口を叩かれている人物でもあった(第八部参照)。


 エバンスは彼のひととなりと能力をほとんど評価していなかった。しかし、世論を誘導する力があること、閣外に置けばその力を使って自分の足を引っ張ることが目に見えているため入閣させた。もっとも早い段階で理由を付けて排除しようと考えている。


「外交と軍事に関する話し合いです。方向性が定まるまで発言は控えていただきたい」


 リトルトンはその言葉に不満げな表情を一瞬見せるが、すぐに笑みを浮かべた。


「君の手助けをするだけだ。レストンはともかく、スペンサー卿は政治に疎い。ベテランの助言があった方がよいはずだ」


 リトルトンはエバンスより九歳年上の六十七歳、政治家としての経験は雲泥の差だと勝手に思っている。また、レストンはエバンスより更に若い五十二歳で、政治経験のない元軍人のスペンサーの三人ではまともな方針が立てられないと彼は考えていた。


 エバンスはリトルトンの言葉に反応することなく話し始めた。


「既に聞いていると思うが、ゾンファがジュンツェン星系に五個艦隊を送り込み、J5要塞を復活させようとしている。更に特使として新政権の外務長官イェ・シュメリ氏を送り込んでくる。ゾンファの目的が何か、意見を聞かせてもらいたい。まずはキンバリー……」


 レストンを指名しようとしたところでリトルトンが強引に話し始める。


「ヤシマの横暴に対し、暴発したのだ。これを奇貨としてゾンファの旧国家統一党の……」


「あなたの意見は聞いていない。邪魔をするようなら退席してもらう」


 その言葉にリトルトンは頭に血が上りそうになるが、ここでエバンスの機嫌を損ねれば、保守党の地盤であるキャメロット星系で孤立無援となり、クリフォードに対して恫喝したことをメディアから厳しく追及されかねないと思い直す。


「済まなかった。発言は控える」


 リトルトンは大袈裟に肩を竦めて謝罪した。


「では、改めてキンバリー、君の意見を聞かせてほしい」


「目的は二つ。一つは民衆のガス抜きでしょう。ヤシマのやり方は我々が見ても酷すぎる。これを放置すれば、新政権も弱腰と思われ、すぐに倒れるからです。もう一つは瀬戸際外交を狙っていることでしょう。ヤシマが単独で艦隊を派遣することは考えられませんが、我が国もこの程度では開戦を決断しないと考え、譲歩を引き出そうという思惑でしょうね」


「確かに暴挙だと非難はしても、監視団やゾンファにいる外交官が拘束されたわけでもなく、戦端を開く理由としては弱い。スペンサー卿、仮にゾンファ星系に恫喝のための艦隊を派遣するとして、あなたならどの程度が必要だとお考えになりますか?」


 エバンスは自らが三顧の礼で招聘した元大将に対し腰が低い。


「恫喝のためということは、基本的に戦闘は想定しないということですかな?」


「その通りです。ここで大艦隊を派遣してゾンファ艦隊を殲滅したとしても、我が国が得られるものはあまりに少ない。ゾンファの新政権の暴挙を咎めつつも、ゾンファの民衆を刺激しすぎないにはどの程度かと」


「難しいですな。小職にはゾンファ国民の反応まで読み切れません」


 リトルトンは苛立ちながらも会話に入らずに黙っている。


(だから私が必要なのだ。その程度のことも分からぬのか!)


 内心で怒りを覚えるが、エバンスはそれを無視して質問を変える。


「確かに軍務卿にお尋ねすることではありませんでした。ゾンファ星系に艦隊を派遣するとして、純軍事的に安全が保てる最低限の戦力は何個艦隊でしょうか?」


「それならば、ゾンファ星系に五個艦隊、ジュンツェン星系に六個艦隊は必要でしょう。これは自由星系国家連合(FSU)艦隊は含まず、王国艦隊のみという条件です」


 そこでリトルトンが我慢できずに発言してしまう。


「十一個艦隊も……キャメロットにいる艦隊は十個艦隊に過ぎんのだ。それに財政負担が……」


「今はスペンサー卿に純軍事的にどれだけ必要かを確認しているのです! これ以上口を挟むのであれば、出ていっていただきたい!」


 温厚なエバンスが声を荒げている。

 彼はリトルトンが今回のゾンファの暴挙で昨年の失敗を糊塗しようと考えていることに気づいていた。


(大人しく従うというから重要閣僚である財務卿を任せたのだ。それが就任から半年も経たぬうちに自らの失敗を糊塗するために国を動かそうとしている。閣外に置けば面倒だからと安易に入閣させたことは失敗だったようだ……)


 リトルトンもエバンスの考えに気づき、小さく頭を下げて黙った。

 それを見たスペンサーが話し始める。


「ジュンツェン星系には五個艦隊がいます。それを抑えるのは最低限同数が必要です。それに加え、ゾンファ星系までの補給路を確保しようとすれば、一個艦隊は必要でしょう。そう考えれば、後方に六個艦隊が必要となります」


「ゾンファに送り込む艦隊が五個艦隊必要という点はどうだろうか?」


「ジュンツェン星系に五個艦隊ということは素直に考えれば、ゾンファ星系には一個艦隊しかいないことになります。ですが、ゾンファが戦力を隠していないとは思えません。それに加え、ゾンファ艦隊の回復力は非常に大きい。明確な根拠を示すことはできませんが、三個艦隊が待ち受けていても小職は驚きません」


「三個艦隊ですか……遠方であることを考慮し、五個艦隊ということですね」


「その通りです」


 そこでレストンが質問する。


「先ほどのお話では王国艦隊であればと条件を付けておられました。確かにFSU艦隊の実力は我が国に比べて低いですが、ヤシマならある程度戦力と看做せるのではないのではありませんか?」


 スペンサーはその問いに首を横に振る。


「確かにヤシマ艦隊の実力は小職が知っている時代より高いと思います。ですが、記録を見る限り、ヤシマの将兵は逆境に弱い。ジュンツェン星系ならまだしも、かつての敵、ゾンファ共和国の懐深くに進攻して長期間の任務に耐えられるのか疑問があります。最悪の場合、足を引っ張る存在になると考えています」


「なるほど。防衛戦なら国を守るために必死になるから士気は高いが、今はゾンファ軍を侮っているから何かあればすぐに士気が落ちる。それにヤシマ艦隊は国外で戦った経験がないから不測の事態に対応できる見込みは薄いと……」


 ヤシマ艦隊が国外に出て参加した会戦はダジボーグ会戦だけだ。その会戦も後方で守りを固めていただけで、戦闘には参加していない。


 そこで会話が途切れた。


「発言してもよいかな」


 リトルトンがそのタイミングで声を掛ける。

 エバンスは正直なところ話を聞きたくなかったが、感情を排して頷いた。


「プロであるスペンサー卿の意見には聞くべきところがあると私も思う。ゾンファの指導者に反省を促しながらも安全であり、艦隊が損なわれることはないだろう」


 そこで言葉を切り、三人を見回した後、エバンスに視線を向ける。


「だが、財政という観点から言わせてもらえば、王国の存立に直ちに影響する課題でないにもかかわらず、それだけの大艦隊を派遣すれば、国家財政に大きな穴を開けることは間違いない。保守党に攻撃材料を与えることになりかねん」


「しかし、ゾンファ艦隊が牙を剥けば、数十万人単位の戦死者を出すことになります。その場合、敵を過小評価したと非難されますし、それだけの戦死者が出れば、財政的にもより厳しくなるのではありませんか?」


 レストンが指摘すると、リトルトンは余裕の笑みを浮かべて反論する。


「ゾンファが瀬戸際外交で成果を上げようとしていることは明らかだ。彼らも王国艦隊を攻撃すれば、国自体の存続が危ぶまれることは理解している。スペンサー卿の言う通り、艦隊を隠していたとしても計八個艦隊しかないのだ。一方我々にはキャメロットだけでも十個艦隊がある。それにFSUからも六から八個艦隊は派遣できるはずだ。倍以上の戦力を相手に攻撃を仕掛けてくることは考え難いのではないだろうか」


 そこでスペンサーが反論する。


「常識的な軍であれば、財務卿のおっしゃる通りでしょう。ですが、昔からゾンファ軍には常識が通用しません。また、現状では上級士官の質が低下しており、暴走する可能性は否定できんのです。暴走すれば国が亡ぶと本気で思わせねば、何が起きてもおかしくはないと考えます」


「ならば、暴走できぬように優秀な将を指揮官として派遣すればよいのでは? 賢者(ドルイダス)と呼ばれるハース提督や第二次タカマガハラ会戦を勝利に導いたユーイング提督が指揮を執れば、ゾンファ艦隊が多少暴走したとしても損害を受けることなく対処できると思いますが?」


 その言葉にスペンサーは少し考えた後、頷いた。


「確かにそのような考え方もありますな。ハースやユーイングであれば、臨機応変に対応してくれるでしょう……」


「では……」


 スペンサーが肯定したことでリトルトンは前のめりになるが、それを遮ってスペンサーは話を続けた。


「ですが、私の認識は十年以上前の経験に基づいたものに過ぎません。艦隊の意見を聞くべきでしょう」


「おっしゃる通りだ。ロジャー、リスクがあることは理解するが、過大評価している可能性が高いと私は考える。財務を預かる者として軍務卿の提案する艦隊数の半数程度に抑えるべきだと主張する」


「意見として承りましょう。ですが、この件に関して他言は無用に願います。まずは艦隊の意見を聞いてから判断しますので」


 エバンスは一応リトルトンの顔を立てて否定しなかったが、釘はしっかりと刺した。


 翌日、エバンス政権がゾンファへの艦隊派遣を決め、国家財政を考慮して五個艦隊程度にするという記事がメディアに踊った。

 更に民衆の間にゾンファの横暴を許すなと言う意見が蔓延する。


 これらの話はリトルトンがリークしたものだった。


(やはり狙っていたか……戦争の可能性は低いとはいえ、自身の失態を糊塗するために利用していい話ではない。どこかのタイミングで排除すべきだな……)


 エバンスは苦虫を噛み潰したような表情でその記事を見ていた。


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― 新着の感想 ―
しかし重鎮と呼ばれる人間は何でこのような人間ばかりなんだろうと思ってしまう私。
何時も楽しみに更新を待っています。けど無理はなさらないようにお願いします。しかし民主党の政権大丈夫かなぁ~心配だ
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