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アルビオン王国宙軍士官物語~クリフエッジと呼ばれた男~(クリフエッジシリーズ合本版)  作者: 愛山 雄町
第九部「輸送船団を死守せよ」

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第五話

 宇宙暦(SE)四五二五年八月七日。


 スヴァローグ帝国のストリボーグ星系は悲しみに包まれていた。

 藩王ニコライ十五世が首都星セマルグルに無言の帰還を果たしたためだ。


 ニコライ暗殺の報は十日前に届いており、ニコライの長男イワンは怒りに満ちた演説を行っている。


『我が父ニコライは帝国の安寧を考え、自らの危険を顧みずに帝都に赴いた! 父は戦友でもある皇帝アレクサンドルを信じた! しかし、皇帝は最大の政敵である父を謀殺したのだ!……皇帝はテロリストによる暴挙を防げなかったと弁解しているが、そのようなことがあり得るだろうか! 一月の自身の暗殺未遂事件は父を油断させる罠だったのだ! 私はこの暴挙に対し、断固たる措置を取る! アレクサンドルとダジボーグ藩王家を排除するのだ! ストリボーグの者どもよ! 今こそ立ち上がれ!……』


 その檄にストリボーグ人は熱狂した。

 軍に志願する者が続出したたけでなく、軍への寄付や戦時国債の購入などで協力し始める。


 イワンは国民を熱狂させたが、自身は冷静だった。

 即座に自由星系国家(フリースターズ)連合(ユニオン)(FSU)とアルビオン王国に正式な使者を派遣する。

 使者に託したメッセージは以下のようなものであった。


『コリングウッド准将の例を挙げるまでもなく、アレクサンドルは暗殺という卑劣な手段を平気で使う。このような者が大国である銀河帝国の皇帝であることは周辺国家にとっても脅威である。私はアレクサンドルとダジボーグ藩王家を排除するために立ち上がる。貴国が協力してくれるのであれば、ダジボーグ星系を割譲する用意がある』


 彼は大胆にも帝国の領土ダジボーグを売り渡すと言い切ったのだ。

 但し、彼もただ譲り渡すつもりはなかった。

 彼は側近である秘書官アイザック・エステスにこう話していた。


『今ダジボーグを得ることは容易い。だが、疲弊したダジボーグを得ても戦力とはならぬどころか、戦力の分散を招くだけの重荷にしかならん。ならば、ヤシマなり、王国なりに一時預け、戦力を集中させつつ、スヴァローグで雌雄を決するべきだ』


『おっしゃることは分かりますが、一時的とは言え、領土を渡すとあとで問題にならないでしょうか?』


『問題にはならんさ。彼らにダジボーグを復興させ、それを返してもらうのだからな。帝国の金は一切出さずに復興できれば、誰も文句は言わんよ。それにダジボーグにとって我がストリボーグは解放者だ。戦後の統治の面でも王国やヤシマに悪者になってもらう方がよい』


 イワンはエネルギー供給インフラが破壊されたままのダジボーグ星系に全く価値を認めていなかった。また、十五億人に及ぶダジボーグ人がいるため、下手に占領して破壊工作を行われるより、敵から解放した解放者として登場した方がよいと考えていたのだ。



 ニコライの遺体が藩王府に運び込まれると、イワンは涙を流しながら、全土に向けて演説を行った。


『我が父はこの銀河帝国に平和をもたらすべく尽力した。先々代の皇帝ヴィクトールが引き起こした内戦を収めることに精力的で自ら艦隊を指揮している。また、現皇帝アレクサンドルは王国やFSUとの交渉において、無謀な出兵と敗北で多くの将兵の命を無為に失ったにもかかわらず、自らは怯えて出てこなかった。そんな皇帝に代わり、父は圧倒的な戦力を持つ敵に対して堂々と交渉を行っている……』


 事実は異なる。内戦では何もできない間にアレクサンドルがヴィクトールを退けているし、王国とFSUの連合艦隊に対してはハースらの策略で帝国内に不和の種を蒔くために交渉のテーブルに着かせたに過ぎない。


『我が父はアレクサンドルと違い、暗殺や謀略を嫌い、正々堂々と戦う英傑であった。私は父の遺志を継ぎ、謀略に頼ることなく、この銀河帝国に安寧をもたらすつもりだ。そのためにはかつての敵、アルビオン王国やFSUの手を取ることも辞さぬ。なぜなら、我が父の仇、アレクサンドルこそが平和を脅かす元凶であるためだ!』


 イワンは敵をアレクサンドルと限定した。これはスヴァローグ艦隊を懐柔するためとダジボーグ人の反発を少しでも軽減することを狙っている。


『私は父ニコライ十五世の跡を継ぎ、ストリボーグ藩王に即位する! 余イワン九世と共に帝国に平和をもたらすため、立ち上がってほしい!』


 彼の言葉にストリボーグ人は熱狂し、万歳を繰り返した。


 この映像はすぐに帝国中にばら撒かれた。

 スヴァローグではアレクサンドルが映像を見て嘆息する。


(若いが侮れんな。ニコライの死を使ってストリボーグ人の忠誠をものにし、余の不手際を糾弾することでダジボーグとスヴァローグの間に楔を打ち込む。恐らくだが、アルビオンやFSUにも手を回しているはずだ。いや、ゾンファにすら声を掛けているかもしれん……)


 彼以外にもイワンの能力に驚いている者がいた。

 一人は帝国保安局長のヨシフ・プーシキン、もう一人は元皇帝補佐官ディミトリー・アラロフだった。


 プーシキンはイワンを警戒していたが、思った以上にカリスマ性があることに脅威を感じている。


(ニコライ以上のカリスマを持っている。見た目はともかく、ピョートルでは太刀打ちできんだろう。アレクサンドルやアラロフを排除するのはイワンを潰してからにした方がよいかもしれん……計画を修正せねばなるまい……)


 アレクサンドルはダジボーグ軍情報部にアラロフの捕縛を命じたが、彼が捕縛されることなく、帝都に潜んでいる。


 彼はアレクサンドルの下で情報部を取り仕切っていた関係から、未だに情報部内に一定の影響力を持っていた。


 また、ダジボーグ会戦敗北後に皇帝が行った謀略により、多くの工作員が無為に命を落としていることから、多くの情報部員たちはアレクサンドルへの忠誠を失いつつあった。アラロフはこれを巧みに利用していたのだ。


(新たな藩王閣下は侮れませんね。皇帝陛下がすべての元凶であって、ダジボーグ人も犠牲者だと聞こえなくもありません。まして不満を持っているスヴァローグ人は今よりマシになると考えるでしょう。これは保安局長殿と一度胸襟を開いて話し合った方がよさそうですね)


 ニコライの死とイワンの演説によって、これまで考えてもいなかった奇怪な合従連衡が起きつつあった。



 十月九日、ニコライ暗殺の情報がキャメロット星系に届いた。

 しかし、総選挙の結果を受け、閣僚や下院議員らは遠く離れたアルビオン星系におり、キャメロット星系政府は情報の転送と、更なる情報収集以外の手を打つことができなかった。


 この情報は公表されなかったが、ヤシマからの商船が到着すると、キャメロット星系全体に即座に拡散する。


 多くの者が帝国で大きな混乱が起きたことを歓迎した。

 特にメディアでは帝国内で内戦が起きる可能性が高まったとして、再び主戦論が台頭してきた。


 専門家でないコメンテーターが、ダジボーグ星系を占領すべきと無責任に主張することが多くなる。


『帝国の内乱を引き起こすべく、介入すべきでしょう。ダジボーグ星系に旨みはありませんが、あの星系をFSUと共同で領有すれば、帝国からの侵攻ルートはシャーリア星系とダジボーグ星系に限定できます。シャーリアは既に万全の防衛体制が構築されていますので、ダジボーグ星系にFSU艦隊六、王国艦隊四の十個艦隊程度を常駐させ、ジャンプポイント(JP)にヤシマの優秀なステルス機雷を大量に配備しておけば、我が国の恒久的な平和に大きく寄与するでしょう。そのためにはこの機にダジボーグ星系に軍を送り込むべきと考えます……』


 軍事アナリストら専門家は机上の空論として否定した。仮にダジボーグ星系を失ったとしても、帝国の人口は約五十億人、二十から二十五個艦隊を動員できる。


 王国とFSUが援軍を送り込めるのは、侵攻の情報を受けてから二ヶ月以上先になる。そのため、大艦隊が送り込まれれば、十個艦隊程度では守り切れない。大型要塞をJP付近に設置できれば別だが、要塞の建設には長い年月が掛かる。その間帝国が指を咥えて見ていることはあり得ないから現実的とは言えない。


 更にダジボーグ星系には十五億人に及ぶダジボーグ人がいる。彼らを帝国から完全に切り離すことは難しく、膨大な数の潜在的な敵を抱えることになり、懐に爆弾を抱えた状態で領土奪還を目指す帝国艦隊と戦うことになるのだ。


 これらのことから、軍事アナリストらはダジボーグ星系への侵攻作戦はもちろん、内戦への介入にも消極的であった。


 しかし、民衆は“恒久的な平和”という魅力的なフレーズに踊らされていった。


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