四十八 それぞれの意志③
「ーーレイセル様は、ローゼンの者が魔皇国の者と婚姻を結ぶのは、反対なのでしょうか?」
(少し、突いてみるか)
「ん? 僕? うーーん、いや。どうでもいいかな」
ど、どうでもいい……!?
「まぁ、母上や周りの者はそうはいかないだろうけどね。僕自身は……そんなことどうでもいいかな」
(では、実態は……やはり王妃様の傀儡?)
彼自身の意志というよりは、周りの意志。
……強制されている様にも見えないのは不思議だが。
「んーー、でも。ローゼンの者ってよりは、リュミが魔皇国に行っちゃうのはたしかに寂しいかな~」
「まぁ」
「だって」
油断した。
「ーー僕の遊び相手、減っちゃうじゃん」
その眼は、明らかに私へ向けられる、敵意、悪意、欲望。そのうちのどれか。
もしくは、すべて。
(体が……、うごかない……!)
私は近頃、慣れ過ぎていた。
自分へ向けられるやさしさに。
今、この場には、レイセルと私。
二人きり。
あの時と、同じ。
声をあげてしまえばーー!
「あはは! そんな、こわがらないでよ。なにもしないよ?」
「っ」
(言葉すら出てこないとは……我ながら情けない)
勝手に克服したものだと思っていたが、そういう訳ではなかった。
その場面が巡ってこなかっただけだ。
目の前に置かれたお茶で喉をうるおし、気を取り直すことさえままならない。
(レイセル王子……、たしかに無邪気だったけど。こんなだった……?)
どこか高圧的な雰囲気。
まるで人が変わったかのようだ。
「ねぇ、逆に聞くけど、リュミはさ。本当に僕たちの敵にならない保証は、あるの?」
「……というと?」
なんとか絞り出したそれは、心もとない。
「だってさ、考えてもみてよ。いくら彼らに闇の力があるとはいえ、魔物とはちがって光の恵みもある。魔力を得るだけなら、魔石だってあるし、なんなら相手はナレドの者でもいいじゃない」
「それは」
それはずっと考えていた。
元はライエンとの取引とはいえ、魔力を吸うのは自分である必要はないはず。
いくら本能が魔力に惹かれるとはいえ、それを諌める心もある。
「わざわざリュミである必要は? ……そんなの一つしかない。これから先、相応の魔力を補う必要がある……強大な闇の魔法をつかう予定があるってことでしょ?」
「ーー!」
レイセルは、ライエンとユールの密約を知らないで言っている?
もしくは、分かったうえで……わざと私の心を、攻撃している?
(わからない)
何が、いったい何が、……ほんとうなの?
彼らを見てきた私の心は、それが違うことだと認識している。
実際に、そうだと思う。
レイセルは、私を揺さぶり遊んでいるだけだ。
……でも、ずっと引っかかっていた。
エメラルダ嬢。彼女や私のように、魔力と相応しい立場の者であれば誰でもいいのではないか?
婚約が避けられないにしても、魔力を得るのが自分である必要は?
そしてそれが、当初の懸念どおり。
ユールの意志ではないにしても、彼の父。現魔皇帝。
その命で魔力を蓄え、エレデアの国力を削ぐ工作行為なら?
どれを、どれを信じればいい?
(ユール、ねぇ。おしえて)
でないと、なにかが。
やっとできた、なにかが音をたてて崩れそうだ。
私は、彼に……なんと言ってほしいの?
「ーー失礼します!」
ご覧いただきありがとうございます。
続きが気になっていただけましたら、ぜひブクマ・★評価等の応援よろしくお願いいたします!




