四十七 それぞれの意志②
「ーー失礼いたします、リュミネーヴァ・レ・レイ・ローゼン様でいらっしゃいますか?」
(今度はだれよ!)
久しぶりのこういった場。
連戦に次ぐ連戦で、魔物と戦うよりも精神的に疲れてくる。
見ると、誰かの侍女だろうか。
上品な女性。
おそらく高位な者の専属だろう。
「我が主……、レイセル様がぜひ。お話をしたいとのことです」
(ーーレイセル!? 第二王子、……ご本人様登場!?)
ライエンがいないのは、王家からはレイセルが出席していたからか。
高位の招待客になんらかの意図があるのは、気のせいか?
「まぁ、嬉しいですわ。……ユールティアス様もお呼びして参りますわね」
「その必要はございません。レイセル様はリュミネーヴァ様とのお話を希望されています」
(はあ!?)
こっちには話すこと、なにもありませんけど!
「ええと。……ではせめて、どちらに赴くかだけでもユールティアス様にお伝えしておきますわね」
「こちらでお伝え致しますので、ご安心ください」
安心できないんですけど!?
(はぁ……、仕方ない)
さすがに、いくら第二王子とてアイゼン公爵家の縄張りで好き勝手はしないだろう。
「……では、ご案内していただけます?」
「はい、こちらへどうぞ」
(また怒られるかな~)
いったい私にどんな話があるか知らないが。
せめて、魔族やライエンにとって不利にならないよう立ち回らなければ。
◇
やはり騎士の家系。
至るところに鎧や剣が飾ってあり、イメージする貴族のそれとは少し雰囲気が違う。
外で催されているパーティーの喧噪をぬけ、屋敷の奥まで入ってきた。
(やだなーー)
正直、気は重い。
魔皇国に行くのはやめなさい、とか言われるのかな。
(……ていうか、そもそも)
この国、いや。この世界における魔力の強さというのは、時に立場をも決める。
シンシアが特別扱いなのもその為。
いくら第二王子派が現王妃やナレド公国の後ろ盾を得、勢いを増したところで。
彼の父である国王が、ライエンを次期王に指名するのは、ほぼ確定だ。
原作のように、争いを起こした国王を糾弾する口実があれば、強気にもなれるだろうが。
現状、魔皇国とも友好関係を築いている中で、元々の、ナレドから魔石の供給を取り付けるという彼らの作戦では太刀打ちできないだろう。
ライエンに抗ったところで今後の立場を危うくする。
(でも、未だ第二王子側に付く者が大勢いる)
なんだ?
何が、そうさせるんだ。
また私、何か見逃してる?
「--こちらです」
「!」
考えながら着いて行くと、とある一室に着いた。
見るからに来客用といった、他の扉よりも大きな造りだ。
(ここに、レイセル王子が……)
しかし、妙だ。
「……?」
この扉の奥に、なにかを感じる。
魔力……?
「では、わたくしは下がるように言われておりますので……」
「ええ、ありがとう」
つまり、二人っきりって?
「……失礼いたしますわ」
一応、ノックをして扉に手を掛けた。
(--!?)
あまり大きな音をださないよう慎重に開けた。
途端、背中にはしる悪寒。
感じたことのない魔力の流れ。
それは、圧倒的な、力。
エメラルダ嬢はその身に纏う、私と同じく自身がすべてを把握した魔力だった。
だが、この魔力はどうだ。
(魔力に……意志が!?)
例えるならそう。
まるで宿主なんて知らないと、そう言うような。
存在を誇示する、大きなもの。
(なんで!? レイセル王子って、……魔力そんなに無いんじゃないの?)
もしくは……。
別の力を身に着けた……?
「やあ、リュミ。ひさしいね」
「……お久しゅうございます、レイセル様」
扉を開け、ソファに腰掛ける姿を横から見る形になる。
その姿は、紛れもなく彼。
ライエンとの婚約者時代に数回だけ会った。
漆黒の髪をきれいにそろえた、十二歳にふさわしい体型。
(当時はライエンの真似したいんだと思ってたけど……)
彼は昔と変わらず愛称で呼ぶ。
だが、ひとつだけ変わり果てたものがある。
(なんだ、これ)
感じたことのない魔力に、当然ながら困惑する。
魔物にすら滅多に感じないこの感情。
恐怖。
「兄上とは残念だったけど……、元気にしてるかい?」
「ええ、このとおり。元気にしております」
手が指し示すとおり、対面に座る。
一つ答えを間違うと、命がないような。
そんな威圧感とともに、彼は言葉を紡ぐ。
「今日は兄上が居ないからね、挨拶しておこうかなって」
「左様でございましたか、お気遣いありがとうございます」
「ふふ、堅いなぁ! 相変わらずだね。……そして変わらず、うつくしい」
「……ありがとう、ございます」
相手の意図を考えようにも、全くわからない。
今一番知りたいのは、それの出所。
下手すれば、ライエンの立場が危ぶまれるもの。
「どうかしたかい?」
「い、いえ!」
余裕もなくなると、口数も自然と減る。
気を抜いてはいけない。
「ああ! もしかして、これのこと?」
「ーー!」
やはり、この魔力は彼自身のものか。
いったい、どうやって……。
「こんなの大したことじゃないさ。……それより、リュミはさ、どう?」
「……どう、とは?」
「ん? ほら、ユールティアス殿と。仲良くしてる?」
「え、ええ。良くして頂いております」
「なーーんだ、残念」
残念って、なに!?
おねショタか!? おねショタなのか!?
(ダメだ、なにを考えているのか全く分からない)
それなりに腹の探り合いは経験してきたつもりだった。
だが、目の前の彼には分からないことが多すぎる。
「……でもダメだよ、リュミ。心を許しちゃ」
「え?」
なんか、今日そればっかり言われてる気がする。
「彼ら、魔族は。闇の末裔なんだから」
「それはっ」
分かっている。
彼らの中にある闇の本質は、自身だけを愛する心。
今のところそういった性質は彼らに見られないが、自分と根本が異なるものへの理解というのは。
……中々に及ばないものだ。
(なにを考え、なにを思っているのか)
かつてのライエンの時と同じ。
次期魔皇帝と、魔将の一族でなければ。
少しは、なにか違ったのだろうか。




