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四十三 相応しき者②

「益々お美しく成長していらっしゃる」

「エルドナーレ殿の活躍も素晴らしく……いやぁ、ローゼン公爵家も安泰ですなぁ」

「恐れ入ります」


 屋外での立食形式のパーティー。

 遠目に演習場のようなものが見えるのは、剣の一族らしい。


 アイゼン公爵家へ到着すると、それはそれは注目を浴びた。

 なにせ、婚約破棄されて数秒で婚約が決まった女と、そのお相手である次期魔皇帝。

 好奇の目だけならまだしも……。

 やはりどこか、向けられる目のなかに悪意を感じる。

  

 しかし、どこまでいっても私は三大公爵家の一員。

 昔馴染み……とまではいかないが、以前から交流のある者が声をかけてくる。

 主催者がそうであったとしても、招待客までが第二王子派であるとは限らない。


(まぁ慰労パーティーみたいだし、騎士の方が主役……よね?)


 今日は公式の催しというよりは、アイゼン公爵家の私的なパーティー。

 父も兄も欠席で、私がローゼンとしての名代だ。


 であれば、魔族側の自分たちが目立つのは避けたい。

 ……避けたいのだが、ユールは早速つかまってしまっている。

 あまり政治的背景が分からない、お嬢様方に。


(いやぁ……、これは反感。買うよなぁ)


 招待客の中には、貴族以外にも商人のような騎士が世話になる関係者も多い。

 おそらく主役ーー騎士の将来の相手との出会いの場も兼ねていると思う。

 そこで話題をかっさらうのが魔族は、ちょっとよろしくない。



「ーーリュミネーヴァ・レ・レイ・ローゼン様でいらっしゃいますか?」

「はい?」


 フルネーム久しぶりに呼ばれたな。


 振り返ると、一瞬おどろいて固まってしまった。


(うわ、美少女)


 同じくらいの年齢?

 シンシアと同じ金の長い髪が見事な、まごう事なき美少女。

 可愛いが似合うのはシンシアだが、彼女はユールのような高貴な美しさをもつ。

 花の刺繍が見事な淡いピンク色のドレスがよく似合う。


 まばゆいばかりのオーラを放ち、周りの男性の目が釘付けだ。

 オーラというか……、これは。魔力?

 きっと清浄な、澄んだ魔力。それが心地よい。

 ここまで研ぎ澄まされたものは久しぶりだな。

 ……こんな人居たら、私知ってるはずだけど。

 だれだ?


「突然申し訳ございません、わたくしはエメラルダ・ル・シル・ナレド。……ナレド公爵家の者ですわ」

「!」


 それは知らない訳だ。

 名前はどこかで耳にしたかもしれないが、会うのは初めて。


 ナレド公国。

 魔皇国の属国であるその場所は、ナレド公爵領としての扱いだ。

 ……つまり、最も第二王子派に近いであろう人物のひとり。

 どうして、私に?


「ーー初めまして、エメラルダ様。エレデア王国はいかがでしょうか?」

「ええ、わたくしとても気に入りました。……なにせ、()()()()()がありますもの」

「……?」


 欲しいもの……?


「リュミネーヴァ様は、ユール様の婚約者でいらっしゃいますわよね?」

「そうですわね」


 知り合い……?

 まぁ、ナレド公国の公主。そのご令嬢だ。

 当たり前か。 


「それは……、その。申し上げにくいのですが……」

「? 構いませんよ、正直におっしゃっていただいても。気分を害すことはございませんわ」

「その、……お気の毒に」


 なんだ、何が言いたい……?


「気の毒、とは?」

「……魔族については?」

「ああ、はい。聞いておりますわ」

「ですので、その……。魔族の婚姻、というものは。わたくし達でいうところの、愛。……それを伴わないのです」


 だ か ら な に ?


(いや、知ってるけど……)


 ユールが自分を選んだのは、初めて会った時から分かっている。

 そのクラスでも圧倒的な、初対面でも誰だかわかるほどの私の魔力。

 うっかり授業中に吸いたくなる魔力。

 魔族とは、本能的にそういうものを求めるらしいと聞いた。


 そんなの……誰に言われなくても、私が一番分かってる。


「……それが、なにか?」

「リュミネーヴァ様は、悲しくないのですか?」

「それは」


 どう、だろう。

 気持ちに蓋をして、考えないようにしてきたが。

 私はそれを、本当はどう思っているのだろう。


「……魔族の方には魔族の方の(ことわり)があります。それを我々がどうこう言うのは、お門違いかと」

「まぁ、気丈でいらっしゃるのね」


 そもそも前世の終わり方からして、男性との恋愛に期待はしていない。

 ライエンとも、一定の距離を保って婚約者時代を過ごしていた。


 他のご令嬢ならまだしも、私に()()を言うのは徒労に終わる。


(やっぱり……、第二王子派としては私が魔皇国に行くのは困るのか?)


 こんな可憐なご令嬢をつかってまで、ご苦労なことだ。


「そこに何があろうとも、(わたくし)が彼の方の婚約者である事実。……それは変わりませんわ」

「ーーっ! ……すばらしいお覚悟をお持ちなのですね。わたくし、感激しました」

「恐れ入りますわ」

「わたくしも、見習わないと」

「どうでしょう。エメラルダ様のおっしゃるような婚姻が、本来は望ましいのかも……しれませんわね」

「ええ、だからわたくしも。そのお覚悟を見習って、望むような未来を手に入れますわ」

「それは、すばらしい心構えです。……エメラルダ様の行く先が幸多きものでありますよう祈っておりますわ」

「ええ、()()


 言いたいことだけ言うと、去って行ってしまった。


(大方、王妃様だかナレド公爵あたりに小言をいってこいって言われたのかな)

 

 はぁ。

 そんなこと、一々言われなくても分かってる。


 分かって、いるのに……。


(最近、自分がよく分からないな)


 男性は苦手。

 愛の伴わない政略結婚。

 公爵令嬢としての、務め。


 それなのに。


(どうして、胸がいたいんだろう)


 第三者から言われるのが、わずらわしい?

 それとも……。


「やめやめ」


 平穏無事にすごせれば、それでいいじゃない。

 将来魔皇国で、この力を発揮することだけを目標にする。

 そのためには、今エレデア王国における、魔族への悪意。

 それを振り払わなければ、また原作のようなことが起こるはず。



「ーーリュミ!」




ご覧いただきありがとうございます。


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