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四十二 相応しき者①

(げ)


「無理ゲーでは?」


 本日はお日柄もよく。

 窓を開け、風を感じ。

 フレアの用意してくれたお茶に舌鼓をうちながら。

 ……届けられた手紙。それを読んだのがいけなかったのだ。


「ウルムの家かぁ……」


 一通の手紙。それは、招待状だった。

 ウルムの生家である、アイゼン公爵家。

 代々騎士団長を輩出している名門で、この国の三大公爵家の一角。

 そこで日頃がんばっている騎士に向けてだろう。

 慰労パーティーが行われるらしい。

 ……まぁ、うちに招待状くるのは当然なんだけど。


(気まずい)


 魔族のことを良く思っていないこと確定な御家柄。

 そこに、のこのこと魔族の次期宗主の婚約者が行っていいものか。


 今まではライエンの婚約者、という立場があった。

 きっと、それに守られてきた部分も多いはず。

 だが今は、ローゼン公爵家は魔族に友好的であると彼らは思っているはず。


(いや、ライエンの意志なんだから尊重すればいいでしょ!?)


 次期国王、その意志に不服であるとすれば。

 彼らが第二王子派寄りなのは、間違いないとは思う。


(これって、やっぱりユールと行くべきなのかしら)


 兄にお願いをすれば二つ返事で了承すると思う。

 だが、それではダメだ。


 それは、穿った考え方で対外的にみれば、アイゼン公爵家の招待を魔族側が断ったともとれる。

 

(まぁ……、さすがにね? 祝いの席であからさまに差別することはない……よね?)


「行くしかないかぁ」


 開催は来週の休み。

 なんかあった場合を考えて魔道具……と思ったけど、あれ主にライエン周りの関係者用なのよね。

 あぁ、憂鬱。

 何もないことを祈るばかりだ。





「お嬢様、素敵です!」

「ありがとう」


 あっという間にその日はやってきた。

 最近は身分の関係ない学校へと通っていたから忘れていた感覚。

 そう、なにを隠そう私は貴族。

 お金持ち向けのパーティーってやつだ。


(まぁ元が乙女ゲームだしね)


 やはりそういったものには憧れがある。

 きれいなドレスを身に纏い、煌びやかな宝石を身に着け、優雅な音の調べを愛でながら噂話に高じる。

 ……憧れはあるけど、元庶民には気が重いのだが。


(ドレスは……いい感じだけど)


 悪役令嬢リュミネーヴァ。

 その漆黒の髪は白とは異なるキャンパスとなる。

 なにものにも染まらないかわりに、どんな色とも共存する美しさ。


 そんな私の今日のお召し物は、風の属性を思わせるエメラルドグリーンのドレス。

 強調しない程度に体のラインが分かる、少し大人のドレスだ。


 我が家がローゼン公爵家でなく、かつ招待先がアイゼン公爵家でなければ色は気にしない。

 ただ、王家と三大公爵家。

 この中での話になると、変わってくる。


(赤はライエン、青はメーアス、茶や黄はウルム……)


 次代の王とその側近は決まっているので、それを連想させる色を着ると第二王子派の皆さんの反感を買いかねない。


 かといって、黒は第二王子レイセルの色。


(本来黒や白を持つ者は、魔力が高い傾向にあるんだけどねぇ)


 現王妃はシンシアと同じ金の髪。

 その御子であるレイセルは黒。


 これで魔力が低いのは、正直不思議だ。


(まぁ、こればかりは個人の差……個性だからなぁ)


 この世界に遺伝子という概念があるかは知らないが、魔力もきっと遺伝子レベルで備わっているんだろうな。


「お嬢様、ユールティアス様がお見えです」

「! ええ、今いくわ」


 すこしばかり緊張する。

 なにせ、婚約破棄からの婚約という前代未聞の事態に見舞われ。

 そこからパーティーのような催しには参加する機会がなかった。

 ユールの婚約者として、はじめての場だ。


(緊張する……)


 忘れがちなのだが、彼は顔がいい。

 男性に苦手意識があるせいでたまに忘れるが、その破壊力はすさまじい。


 この間なんか、学校で挨拶を返された女生徒がその尊さに気を失ったくらいだ。

 兵器、あれはもう兵器だよ。


 その彼が着飾るのを見るのは久しぶりだ。

 前回は魅了騒ぎのせいでまっっったく覚えていない。

 だが今日は、ずっと隣にいる訳で。

 大丈夫かな、倒れないかな。


 そんなことを考えながら、外へと歩みを進める。

 待機する馬車の前に、人影が見えた。


「! やあ、リュミ」

「…………カ」

「か?」


(……カッコよすぎでは?)


 王族が着るような、まさに彼のための衣装。

 全体が白を基調としており、それは彼自身の銀の髪を連想させる。

 うん、エレデア王国全体を配慮した色。さすがだ。


 どこか軍服に近いものも感じるそれは、物語の王子様が着るやつ。

 さし色に青が使われているが、この程度であれば許容範囲だろう。


 体にしっくりと馴染むそれをみると、男性らしい体つきなんだなと再確認する。

 ……って何を考えてるんだ私は!?


「……リュミ?」

「へぇ!? あ、あーー。カ……かなり似合って、いらっしゃいますわね!」

「ふふ、ありがとう。リュミも、……まるで女神の化身のようだよ」


(やめろおおお!)


 やはり乙女ゲーム。危険だ。

 見目麗しい人に、そういう言葉をいわせては命にかかわる。


(頼む、もってくれ私の心臓)



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