三十六 この身を覆うもの
「リューーミーー?」
(ひいいいいい)
家では兄と話すタイミングがなく、先にユールに追跡者の件を話すことになった。
少し元気を取り戻したウルムと別れ、リクヴィールの研究室に伺う。
挨拶もそこそこに話せば、まぁ……お怒りになるのも当然だ。
なにせ、ひとりで行動させない。と兄に言ったそばから起きたことだ。
「…………はぁ」
(呆れられたなぁ)
身の危険のこともあるが、彼とて私の実力はしっている。
それ以上に、敵対勢力に自陣の弱みを握られてはまずい。
下手に叩きのめさずに撒いて正解だった。
「……無事で、よかった」
「ーーえ」
ふわり。
顔に触れる上質な衣服は、魔法学校の制服とは異なり。
鼻をかすめる香りは、ほのかに甘い。
(さすがお偉いさん……じゃなくて!)
今、これは、どういう状況?
イエス婚約破棄を合言葉に、この数年間。
男性という男性を避けてきた。
その私では、絶対に感じれない。
この身全体を覆う、ぬくもり。
(いま、私……抱きしめられて……る?)
そう気付いて体が反応すれば、彼の抱きしめる力にさらに力が入る。
待ってくれ。
心の準備ができていない。
なにせ、長く婚約していたライエンとさえ、このようなことはしていない。
状況を把握したからには、どこか胸のあたりが騒がしい。
なんだ、これは。
(ーーは、はずかしい!)
ユールは、いったいどんな想いでこうしてるの?
俺の魔力無事でよかった! みたいな気持ち?
そういえば今日はまだ魔力吸われてないし、欲しいのかな。
……いやいや、私なんで期待してんの!?
それとも純粋に、……心配、してくれたのかな。
ふしぎといやではないのは、どうして?
「あの~」
「「!?」」
慌てて互いに身を引きはがせば、リクヴィールがなにやら嬉しそうに見ている。
は、恥ずかしい……。
ユールを盗み見れば、顔を背けている。
「仲良きことはいいんですけどね~」
「ーーうるさいぞ」
「ええと! なにか、進展! そう! 進展は、ございましたか!?」
もう何も言わせない、という勢いで話題を変える。
この件には触れてくれるな!
「リュミネーヴァさま面白いな~。進展、ありましたよ」
「では! 教えてくださいな!」
「~っ」
必死に話題を変えさせようとすれば、なぜかユールが笑いをこらえている。
なんだ、バカにしてるのか!?
「そうですね~。ユールさまと検討した結果、水魔法を付与するのでしたらちょうど良い素材があるんですよね」
「へぇ? それは、なに?」
「……実は、魔物が落とす魔石なんですけど」
「あら、得意分野だわ。どの魔物かしら?」
我ながらご令嬢とは思えない会話だ。
「……ガーグイル、ご存知でしょうか?」
「! 水の竜、ね」
さすがにローゼンの者ならば知っている。
水に棲む竜でありながら、その大きな口元からは炎も吐く。
つまり、二つの属性を操るドラゴン。
「彼の者でしたら、過去に討伐例もございます。……ですが、それほど目撃数が多くありません」
前回の討伐は父グスタフの功績。
川に近い村が襲われた時の討伐依頼だ。
「そう、それなんですけれど」
「ちょうど、討伐依頼がきているらしいんだ」
「!」
さすがサブクエスト。なんて良いタイミングなんだ。
しかし、それほど強大な魔物の討伐なら緊急でも良さそうだが……。
「実際に被害があったのは川のそばにあった、農作地。人的被害は今のところ確認されていない」
「なるほど!」
それであれば納得だ。
「脅威を排し、魔石を得る。……私にぴったりの依頼ですこと」
久しぶりのこの感覚。
血がたぎる! とでも言えばいいか。
燃える!
「「……」」
「……なんです?」
「いや、リュミネーヴァさま……たくましいなぁって」
「無茶だけはしないよう」
「わ、分かっておりますわ!」
まるで、何かしでかす子供を見る目だ。
失礼な!
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