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三十五 苦悩する騎士②

(見付かったーー!)


 なにも見なかったことにし、その場をそそくさと去ろうとしたのだが。

 残念ながら見付かった。

 気配に聡い、さすが騎士。

 その実力は別のところで生かしてほしいものだ。


「あ、あーーらウルム様! ごきげんよう」

「お久しぶりです、お元気……ですか?」

「ええ、(わたくし)はこのとおり」


 婚約破棄されといてピンピンしているのもどうかとは思うが。


「ウルム様は、いかがお過ごしです?」

「え? え、えーーと。俺は、その……」


(うーーん、やっぱり何か悩んでそう)


 果たしてこれは、聞いても良いのだろうか。

 何事もなかったかのように、スルーすべきでは?

 でも。


(ライエンへの忠誠心と、家の立場とで板挟みなんだろうなぁ)


 その姿は、この国を守りたいだけの、真の騎士の姿だ。

 どうしても無下には……できない。

 今のところ、魅了が効いてる訳でもなさそうだし。


「なにか、お悩みごとでも?」


 それとなく、聞いてみる。


「あーー……、実は。少し。……聞いていただけますか?」

「もちろんですわ」

「ーー! ありがとう、ございます! ではあちらで」


 いつかのメーアス同様、東屋の下で向かい合う。


(あんまり他の男性と二人きりというのもあれだから、軽く。ちょっとだけ、ね)


「その、リュミネーヴァ様は……今回の婚約は、どう思われているのです?」

(わたくし)?」

「はい。魔皇国と、しかも次期魔皇帝であるユールティアス様と、婚約する必要はあったのでしょうか?」

「そうですわねぇ……」


 ウルムは、どの程度のことまで言っているのだろう。


 はたしてその背後にある、ライエンに敵対する勢力に対しての保険であるとか。

 それとも魔族の特性であるとか。

 そのあたりを含めて言っているのだろうか?


 もしくは単純に、他国にエレデア王国の戦力が流出するのを言っているのだろうか。


(ウルムの性格的には、裏はない……と思う)


 彼とはさほど交流はないが、ライエンやメーアスとのやり取り、クラスでの立ち居振る舞い、また他人からの評価からみてもとても素直な性格だ。


 友であり、次期国王でもあるライエンを支える。

 きっと、彼が目指しているのはそれだけだ。


 ただ、周りがそうはいかない。というだけ。


 ここはウルムからの反応をみる意味でも、当たりさわりのないことを言っておこう。


「もともと、(わたくし)とライエン様の婚約も、(わたくし)がローゼン公爵家であるがゆえ、ですわ。光の魔法を扱う、稀有な存在であるシンシアさんが次期王妃となるのは、それはこの国にとって良いことです」

「……」

「そして、例えそのように納得ができても。(わたくし)が婚約を破棄された公爵令嬢という肩書は消えません」


 実際は『婚約破棄ばんざい!』と小躍りしたかった、とは言えないが。


「その状況を、ユールティアス様は誰も傷付かない方法で救ってくださいました。……感謝こそすれ、疑問は抱きませんわ」

「それが、魔族の思惑だったとしても?」

「思惑……、ですか?」


 思惑? あれか、吸魔のことを言っているのか。


「彼らは魔物に対するためとはいえ、元々の力がつよい上に、魔道具産業にも力を入れている。……他国を侵略しないとも限らない」

「っそんなことは」


 無い。……とは言い切れない。

 今のところユールとリクヴィールを見る限り、そのようなことはないし。

 むしろ、ライエンが国王となった暁には良い関係を築こうとしている節もある。


 だが、それはエレデアに対してだけだとしたら……?


(なるほど、ウルムはウルムで一応。魔族に対する自分なりの意見があるのか)


 アイゼン公爵家の教えとして、他国の助力を排除する気持ち。

 ライエンの命に背くその教えには、たしかに反感をもっているだろう。

 だが、そもそもウルム自身、魔族に対しての疑念があり今の状況に納得がいっていないのだろう。


「……(わたくし)はまだ、魔皇国そのものを見た訳ではありませんので、偉そうなことは言えないのですが」


 まだ魔族には数人しか会っていない。

 だが、その者らは国の代表と言っても差し支えない人物だ。


「少なくとも、彼らは他国の侵略のために力を保持している訳ではないと……。この国で一番魔族の方と接している(わたくし)から見れば、そのように感じますわ」

「……そう、だよね」

「なにより、ライエン様とユールティアス様は、きっと目指す先は同じだと思いますわ」


 自分と自分が守るべきもの。

 そのために、必要な力。


 他を侵すのではなく、侵されないための力。


 おそらくあの二人は、似た者同士だ。


「最近……、色々あって。なにを信じて、なにをどうすればいいか分からなかったんだけど。……まずは、自分の目で見たものを信じないと、だよね。……うん。ありがとう、リュミネーヴァ嬢」

「お役にたてたのなら光栄ですわ」


 何があったかまでは話してもらえなそうだ。

 少なくとも、魔皇国に関することだろうが。


「その、もし、今後。うちの者がリュミネーヴァ嬢に失礼にあたることを言ったら……、俺に言ってください」

「え?」


 なんだ?

 やっぱりアイゼン公爵家には『魔族に嫁ぐような奴』みたいに思われてるのか?


「……魔族に対しての理解が、まだまだ及ばないもので」

「……ええ。もし、そのような事があれば、ですけれど。そうさせていただきますわね」


 王家に次ぐ影響力をもつ三大公爵家。

 

 今のところこの国は、メーアスの生家であるメルゼン公爵家が中立のおかげで均衡を保っているのかもしれない。



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