二十四 内なる恐怖
「お嬢様」
「なあに? フレア」
無事(?)婚約の事後挨拶を終えたユールは、夜も遅いため我が屋敷に泊まることとなった。
「アストン様がお見えです、いかが致しましょう」
「アストンが?」
ユールとの婚約を周知した日、『未来の奥方ですから!』と呼び捨てするように言われたユールの護衛騎士。
いつも影のように控えてはいるが、ユールとのやり取りを見る限り、本当に主君のことを良く見ていると思う。
(部屋に招くのもあれよね……)
「すぐに行くからお待ちいただいて」
「かしこまりました」
簡単に上着をはおって、鏡にて問題がないか確認。
「ーーアストン? どうか、しました?」
「リュミネーヴァ様」
フレアと共に立っていたのは、長身の男性。
(こんな時間に、どうしたのかしら)
「夜分に申し訳ありません。……ですが」
「まさか、ユールになにか?」
彼が急ぐ用事など、それしか考えられない。
「はい。その……他意はありませんので、どうかご一緒に来ては頂けませんか?」
「え?」
「ユールティアス様に、その。魔力を分けていただけませんでしょうか」
(! そういえば)
今日はまだ、求められていない。
……いや、こっちは別にいいんだけどね!?
魔力の供給ってのは、具体的にどのくらい行うものなのか。
頻度、聞いてなかったな。
「もちろんですわ。……お部屋にうかがっても?」
「はっ」
「お嬢様、私もお供します。部屋の外に控えておりますので」
「ええ、頼んだわ」
一応、ここは私こと婚約者のご実家だ。
夜に実家で未婚の男女が、軽々しく行き来するのはさすがに、ね。
しかも今日挨拶に来たばかりだし。
(分からないことがあれば、聞こう)
向き合うという覚悟は、これまで男性を避けていた自分が嘘のように。
私の『相手を知りたい』という心を、取り戻させた。
◇
「ユール様?」
「…………リュミ、かい?」
アストンを介して入室許可をもらい、恐る恐る中へと入った。
ベッド付近から、なにやらくぐもった声が聞こえる。
もしや、体調がわるい……?
「あの、お加減がわるいのですか?」
「ちょっと……ね。ふふ、さすが魔のレ・ローゼン。魔皇国でも、あんなに魔力の濃い晩餐会なんて、ないよ」
そうか! 今日は私、兄、父。
魔法師団の大戦力と未来の大戦力が揃っていた。
魔族は、魔力の強い者に惹かれるという。
それは、恋愛的な意味合いもあるだろうが、魔力に乾く。という特殊な意味合いも持つ。
ユールはお腹を満たすいっぽうで、ずっと渇きに耐えていたのだ。
「! 私、ぜんぜん気付きませんで」
「いや、ここに、来たいといったのは私だから……。気にしないで」
彼が横たわるベッドの縁に腰掛ける。
腕で覆う、その顔を盗み見れば、どこか顔色がわるい。
「……私はね、自分の力が恐ろしいんだ」
「……」
それはきっと、魔族の者としか理解し合えない恐怖。
「いつか……、あのシンシア嬢のように。無意識で……、人の魔力を奪う。そんな、化け物になるのではないか……とね」
「そんなーー!」
そんなことはない。
簡単に、その慰めの言葉を口にできるほど、私は魔族の恐れるものを知らない。
「今でこそ、国力や魔石の取引で……。魔族と魔族以外の者は対等な関係だと……。そう思えるけど、でも。……いまだに我らのことを恐れる者たちは、いる。その気持ちも、分かる」
「ユール様……」
「……でも」
「?」
「でも、貴女なら私を恐れない……そうだろう?」
私のなにが、彼をそう思わせたのか。
それは全くわからないのだが。
そう、ひとつ言えるのは。
「--ええ。私、強いですから。例えユール様が自我を失われたとしても、お傍にいれば……必ずや。お救いいたしますわ」
「はは、たのもしいね」
怖い。それよりも。
この力で誰かを助けたい。
その想いの方が、ずっと強いのだ。
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