十六 魅了
魔性。
ましょう。
色んな殿方との経験? 誰が? だれと?
有り得ないことを言ってのけたシンシアは、どこか得意げだ。
なんで?
「ええと」
どこから突っ込めばいい?
私、むしろ男性は苦手ですけど、か。
いきなり出てきてご挨拶はないのですか、か。
相手を貶めるより、自分とライエンの仲をアピールするべきでは、か。
どれだ、どれが正解なんだ!?
(ん?)
待てよ。
私は散々原作にこだわった挙句、自分で原作のフラグを折ってしまった。
それ故、むしろ原作とはほど遠い展開になりつつある現状で。
まるで、悪役令嬢に向けていう原作どおりのセリフなのは、なんでだ?
(ま、まさか……)
原作ではリュミネーヴァが悪役令嬢と知り。
原作での婚約破棄の理由も知る。
ヒロインも、転生者ーー!?
そうはいっても、この状況非常によろしくない。
「シンシアさん? 私が魔性の女とは、いったい……?」
仮に。
シンシアが転生者で、どうしても私を悪役にしたいとして。
まぁ、最悪、私の目的は達成できる。
身に覚えのないことを言われてちょっと腹立たしい気持ちもあるが、まぁ、それは我慢するとしても。
だからといって、むしろ真逆の性格なのは、この場にいる全員が証人だ。
シンシア自身が、狂言者と思われてもおかしくないのに。
どうして、そんなことを。
「ふん、とぼけても無駄よ。だって……ねぇ……、そうでしょう?」
そうシンシアがいえば、彼女の周りには光が集う。
(ーー! 光の魔法……?)
なぜ、今。
……いや、まてよ。
「ここは、ーー私の世界だから!」
この世で精神に直接作用するのは、光と闇の魔法だけ……!
「シ、シンシアさん!」
「あははははは!」
誰も貴女の世界の邪魔はしません! と伝えたかったが、時すでに遅し。
彼女の発動した光の魔法は、まるで室内に現われた太陽のように会場にいる者達をくまなく照らした。
(……?)
それはもちろん、私自身も対象ではあるのだが。
……どうやら、自分には効果がない……?
「やっぱり、貴女も転生者なのね。……魅了が効かない」
周りをみれば、会場の皆さんは虚ろな、生きているが意識がないような。
そんな状態に陥っていた。
「なにを、なさったの?」
「? 修正してあげるのよ、貴女の壊した物語を」
「……私は、貴女の邪魔をする気はないわ。ライエン様との婚約破棄も、受け入れる」
「それじゃぁ、ダメなのよ。分かる? 私の魔法は、いくらなんでも時は戻せない。原作とちがって、魔皇国との戦争は起きない。つまり、貴女がいると手に入らないものがあるの」
「……?」
私がいると、手に入らないもの……?
「分からないなら教えてあげる。ユールよ。彼は、裏ルートでの攻略キャラなの」
「そう、なの。でも、私は誰とも結婚は望まないわ。お好きになされば良いのでは?」
正直、巻き込まないで欲しい。
ヒロインの物語から自分を排するにしても、リュミネーヴァとして生きてきた今世の私は魔性の女とはほど遠いし、自分を否定されるのは納得がいかない。
「ばかねぇ。物語は、悪役がいるからヒロインが引き立つんじゃない」
「なにを……」
「知ってる? 原作のリュミネーヴァは、ヒロインへと惹かれるライエンの姿を見て、嫉妬心を煽って心を取り戻そうとするの」
「え?」
「メーアス、ウルム、肉親の愛だけどエルドナーレ、その他の男たち……、まぁルートと好感度によって相手は違うんだけど、あらゆる男をその美貌と体をつかって、オとすのよ」
な、なんですと!?
確かにずっと不思議だった。
仮にライエンルートを選ばなかった時に。
友とヒロインが結ばれるのであれば、リュミネーヴァが国母になる未来だってあったはず。
それがないのは、ヒロインへのいじわる以外に取り返しのつかない何かがあるはず。
そうは思ったけど、よりによってーー!
「入学の日、転生者として覚醒した私は喜びに溢れたわ。なんといっても、大好きなゲーム! その世界に、転生したのだから」
声高らかに告げる姿は、本当に興奮している。
「だけど! 同時に失望もした。ーーなぜなら、原作と違った世界になっていたから。……貴女の評判もね」
「……」
その鋭いまなざしは、隠さず私に憎しみをぶつける。
「だけど、私にはまだ光の魔法がある。まだ、攻略をやり直せるのよ」
「……たしかにここは、ヒカミタの世界だけれど。この世界を私達は、ちゃんと生きている。ここは、……リアルなのよ?」
原作のとおりに物事は進むかもしれない。
だが、そのとおりにならなかったからといって、光の魔法を、自分の都合のために使っていいものか。
「さすがは模範的な貴族のご令嬢、ね。さぞかし恵まれた環境だったんでしょ」
「そんなの関係ないわ。貴女のやっていることは、人の想いを物としてみているのと同義よ」
かくいう私とて、褒められたものではない。
先ほど、リュミネーヴァがライエンの嫉妬心を煽るため、他の者に手を出したと聞いた時。
私は、ごく身近で同じようなことをしている人物に心当たりがあった。
適切な愛情を得られず育った彼は、私の気を引くためにやっていたのかもしれない。
でも、私は向き合わなかった。
ゲームでの彼はこうだった、と決めつけ、心から向き合うことをしなかった。
だから、偉そうに言う権利は自分にない。けど。
「その力を魔物に使えと、偉そうなことは私には言えない。でも、……本当にユールティアスを愛しているなら、そのままの貴女でいいじゃない。魔法なんか使わなくたって、人と人との関係はやり直せるわ」
なんなら、自分がユールティアスとの婚約を断ることだってできる。
ライエンの意図は知らないが、シンシア自身、婚約話は寝耳に水で、他に想い人がいるという話にすればいい。
「まだ分からないの? この世界は私のために。……攻略対象は、全員私を好きじゃないと、無意味よ」
なるほど、オチが必要なのではなく。
全員が、欲しいのか。
「逆ハーエンドって……やつ?」
「そんなの無いわ。だから、作るんじゃない」
怖いほどの笑みを浮かべ、手を上にかざせば光はより強まる。
『リュミネーヴァ・レ・レイ・ローゼン公爵令嬢は、男狂いにより婚約破棄される』
それは呪いのように、魅了された者達に告げられる。
ああ、もう。
これじゃぁどっちが悪役なんだか!
「ちょっ」
「これでユールも……、--私のものよ!!」
「私が、なんだい?」
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