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十一 水面下にて①

「エルお兄様、ユールティアス様ってどのようなお方?」

「ーーっ!?」


 夕食時。

 屋敷に帰っていた兄エルドナーレにやさしく、あたかも何も知らない無垢な少女のように問い掛ける。


 いつもであれば考えられない、手に持っていたフォークを床に落とし動揺を表した。


(ふーーん?)


 やはり、接触はあったようだ。

 入学前に国王に謁見していたそうだし、その時だろう。


「……お兄様?」

「あ、あぁ。すまない。そ、そうか。そういえば、リュミは同じクラスだったね」

「ええ。(わたくし)、初めましてだと思ったんですけれど、ユールティアス様はご存知の様子でしたの。……お兄様、なにか知ってらして?」

「え!? い、いやぁ、なんでだろうね……あはは」


 妹ラブとはいえ、普段はクールなデキる魔法師団長エルドナーレ。

 今や形無しといったところだ。

 そんなに妹に隠し事するの苦手なの?


「それに……、()()()()()()して頂いたことのない。その……。手の先に、口づけを……」


 未遂、なのだが。

 すまないユールティアス。これも必要経費。


 妹ラブのエルドナーレにとって、自分だけが行っていたことを他の男にされたとなると、黙っていないだろう。

 これで食いついてくれればいいが……。


「ーーっの男」

「あら、やはりお知り合いで?」

「え!?」

「うふふ」


 ふむ。手玉で転がすとはこのこと。

 ちょっと悪役令嬢っぽいが、これはカウントされないでしょう。


「はぁ……。まぁ、遅かれ早かれ、か。彼は、なんと?」

「いえ? ただ、愛称で呼びたいと。そうおっしゃっていただけですわ」

「……まだ合意してないのに、気の早いことだ」

(わたくし)の知らないところで、何かありましたか?」


 合意、とは。

 いったい何を指すのか。


「父上が領地からお戻りになったらお話になるとは思うが……その……」


 父であるグスタフ・レ・シド・ローゼンは、数年前エルドナーレの魔法学校卒業に伴い、魔法師団長を勇退。

 現在は魔法師団の門外顧問として、公爵として、はたまた領主として、領地と王都を行ったり来たりの生活だ。

 しばらくは会っていない。


「あーー、その。魔皇国は、お前をお望みなんだよ」

「……はい?」

「全部説明するには時間が必要だが。……簡単にいうと、ユールティアス殿が、リュミとの婚姻を望んでいるんだよ」

「……?」


 はい?

 婚姻、ですか?


「ええと」


 理解が追いつかない。

 そもそも、私。一応まだライエンの婚約者ですけど!?

 外交問題待ったなし。


「いや、まぁ。そこに至るまでに経緯があるんだけどね……。例えば我が国と魔皇国との情勢だとか」

「あら」


 そうそう、それが聞きたかった!

 断じて、自分の知らないところで出ていた嫁ぎ先変更の話じゃない!


「詳しく、お聞かせ願えないでしょうか?」

「……そうだね、本来は王国軍と王国議会関係者のみに知らされてることなんだけど」

「もう(わたくし)、無関係ではないですわ」

「だね」


 覚悟が決まったエルドナーレは、室内に居た家令や侍女たちを目線で合図し下がらせた。

 もしかして思った以上に機密事項です?


「あんまり細かくは伝えれないけど、良いかい?」

「もちろんですわ」


 一応関係者とはいえ、まだ学生。

 政治を担う者でもなければ、まだ軍属でもない。


 得られる情報は、そこまで期待はしていない。


「まぁ、じきに表には出るだろうけど」


 一息つく姿は、真剣な様子だ。


「リュミは、なぜ元々第一王子であるライエン殿下との婚約がされたと思う?」

「え?」


 そこまで遡ることなのか。


「……そうですわね。エレデア王国は魔石はそれほど採れませんけれど、魔法を扱う技術においては世界屈指。それ故、魔のレ・ローゼンと王家が結び付くのは他国への牽制にもなるかと」


 これは恐らく、原作でもそうだろう。


「さすがだね。その通りだ。だが、それを面白く思わない者たちも居る……誰か分かるかい?」

「第二王子派、でしょうか?」

「ご明察」


 そう。

 ライエンには、母親が違う弟が居る。

 現王妃は、第二王子の母だ。


 自分の持つ情報では大きな動きはなさそうだったが、一定数の勢力が居るのは知っていた。


 現王妃は自分の子である第二王子を次期国王にしたい。

 だが、彼女は強大な魔力を有する貴族の出ではないため、第二王子にはライエンほどの魔力はない。


 そのため、国王はライエンを次期国王に据えるつもりではいるのだが、如何せん周囲に王妃の息がかかった臣下が多くいる。


 気付いたのは最近ではあるのだが、ライエンはどこか自分が王位に相応しくないと見せ付けるかのように女遊びをしている節があるのだ。


 だがこの国は魔力の強さが重視される。

 魔石や魔道具の生産が他国ほどではないのなら、なおさら。

 ……むずかしい問題だ。


「それが……?」

「うん。第二王子派は、焦ったんだろうね。この国と、魔皇国とも隣接する、ナレド公国。そこと秘密裏に取引していたんだ」

「ナレド公国、ですか」


 その国は私が生まれるもっと前に魔皇国との争いに敗れ、魔皇国の属国となった国。

 一応、公主が自治権を持つことを許されている。


「そう。彼らは、魔物との戦いのためにも、国力を維持するためにも、魔皇国との国境にある山脈。魔石の採掘地になっている要所を取り返したい……、まぁ。独立したいんだね。で、第二王子派は、第一王子やローゼン公爵家を失脚させたい」

「はぁ」


 話が複雑になってきて、本質が見えなくなってきた。

 やはり国際情勢の話はむずかしい。


「取引というのは実に愚かなことだったんだけど」


 そう、前置きすれば、どこか悲しそうな眼をしている。


「まず、我が国が魔皇国と争いを起こす。いくら我が国に精鋭が多いといっても、魔石や地脈にて際限のない魔力の供給ができる彼の国との争いは不利。おまけに魔道具による軍事利用もあちらの方が進んでいるからね」

「なるほど……」


 魔石が採れるということは、魔力の枯渇がない戦力を有することと同義なのか。

 それは、魔物がいるこの世界では確かに重要だ。


 現世でいえば、エネルギー資源の奪い合いを想像すればいいのだろうか?


「そうして我が国に気を取られている内に、ナレド公国が謀反を起こし、魔皇国を制圧。ナレド公国も広い土地を管理はしきれないから、独立のついでに色々利権をとるって算段」


「……では、第二王子派は?」


「彼らにはナレド公国からお金と、魔石輸入の融通が効くだろうね。議会には高位貴族にも第二王子派がそれなりに居るから……。その実績と、現国王に対する不信任案を併せて提出して、退位してもらうんだろう。そして、国が有利になる計略を指示したとする第二王子に王位を継がせる、と。魔石が安定して供給できれば、魔力の強さについて言及は避けれるからね」


 知らないことばかりだ。

 原作の知識がない代わりに、情報は色々と探っておこうと。

 早めに心掛けてはいたのだが、やはり外部の人間では得られる情報は限られる。


 つまり、原作の開戦理由はそれなのだ。

 だが、それはエレデア王国が()()()前提の話だ。

 原作のエンディングは、ちがう。



「ですが……、それは()()()()がない前提でのお話。ですわよね?」




ご覧いただきありがとうございます。


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