ドクターピートの大きなる仕事
「びっくりしたんですよぅお嬢様。足、真っ赤かですけど本当に大丈夫ですかぁ?」
ライラはフェシリアの痛む左足首に冷やしたタオルをあてていた。
ノーフォーク公が部屋を去って10分くらいたった頃だろうか、ライラとヘンリー、そして館のメイド達が大量の冷やした水やタオルをもって、走って部屋に駆け込んできた。
随分慌てたのだろう、今見ると容器の中からこぼれた水で床がビショビショだ。
「大丈夫よ。私が怒らせてしまったのだから仕方ないわ。命をとられなかっただけでも良しとしなきゃ」
「お嬢様〜。」
といってもかなり痛い。立ち上がれる様になるのはまだ先になりそうだ。
(ライラには心配ばかりかけてしまって申し訳ないわ。
ノーフォーク公は決して私を許していない。館においてどう制裁をあたえるか吟味しているのだろう。でも、そうさせているのは他ならぬ私なのね…)
ヘンリーが頭を下げ、申し訳なさそうに言った。
「フェシリア様、これは私の責任です。大変申し訳ありません。」
「ヘンリー、頭を上げてちょうだい。あなたは何も悪くないわ。主に館で起きた事を報告をするのは執事の当然の仕事だもの。私、感謝しているの。あなたの主人の顔に泥を塗った私にいつもとても良くしてくれて。ライラから聞いているのよ。いつも、朝食に私の好きなブドウやベリーを用意するように指示してくれている事も。ありがとう。」
「フェシリア様…」
いつも冷静沈着なヘンリーも目頭が熱くなっていた。
「フェシリア様、有難きお言葉です。私、今まで正直迷いがありました。いいのだろうかと。しかし私ヘンリー、執事として公爵家に勤めて25年今、覚悟を決めました!」
「えっ何の事?」
「いえ、こちらの話です。ねぇ、ライラ」
「ヘンリー様、そうこなくちゃ!イェーイ」
「えっ?」
何の事か全くわからないが突然ヘンリーが大きな決意を固め、ライラが大喜びしている。フェシリアは困惑した。
「あのー 何の話?」
「あっ 先程呼んだドクターが今着きました。」
ドクターの馬車が館に着いた音が聞こえると話はそこで終わってしまった。
◆◆◆◆◆
「これは悪化してますなぁ」
でっぷりと太ったドクターピートは額の汗を拭き拭きのんびり話した。
「まぁ、折れてはいません。しかし、絶対安静ですな。
いいですな。フェシリア殿。二月は絶対安静!この館で絶対安静!いいですな?」
(急に深刻な顔。私、そんなに悪いのかしら)
「分かりました。ドクターピート。私、二月ここで安静にしています。」
ドクターピートは人の良さそうな顔をにっこりさせると
「うんうん。それがいい。今日の夜は足が腫れて熱をもち、寝れないかもしれません。また2〜3日後に診に来ますから。いや〜ホッとした。良かった、良かった。」
と言い帰って行った。
(結構悪くなっていると思うのだけど、良かった良かったって…ドクターピートは人はいいけれど少しKYなのかしら?)
などと、フェシリアが考えていると窓の外から音が聞こえてくる。窓際から下を覗いてみると、丁度帰ろうとしているドクターピートとヘンリー、ノーフォーク公が何やら話こんでいる。
(症状の報告かしら…?)
汗を拭きながら笑顔のドクターピート、神妙にうなずいているヘンリー、ノーフォーク公は後姿なのでこちらから表情は伺えない。すると、ノーフォーク公が振り返って2階にあるフェシリアの部屋の窓を見あげた。
瞬間、先程の恐ろしいノーフォーク公の姿が頭をよぎり、フェシリアはすぐに窓際より身をひいた。
「お嬢様〜!床がびっしょびしょです〜!」
今頃気づいたライラが声をあげた。