ノーフォーク公爵の怒り
扉を開けた公爵は相変わらずとても美しく、微笑を浮かべてはいるものの、ベッドの上にいるフェシリアにもわかるくらい目の奥はとても冷たく氷のようだった。
「中に入っても…?」
フェシリアはごくんと唾を飲みこんだ。本来であれば結婚前の男女が使用人もいない部屋に二人きりは宜しくない。
婚約中ではあるがその婚約とて、もうあってないようなものだ。だが、ノーフォーク公を見るととても断われる様子ではない。
(とうとう裁きの時がきたのね…)
フェシリアはドキドキする胸をおさえ、覚悟を決めた。
「勿論です。どうぞお入りください。」
ノーフォーク公はカツカツと真っすぐフェシリアの方に歩いてきた。上下白で銀の縁取りをされている洋装はノーフォーク公の金髪に映えてとても美しい。
(こんなに上下白が似合う人っているかしら。)
ノーフォーク公はフェシリアの前までくると足取りを止め、しばらくの間フェシリアをジッと見下していた。
(近い近いっ すっっごい近くまで来たわ。見とれていたら何だかすごい近くまで来てた。後、すごい見てる)
「あ、あの…この度は誠に申し訳ありませんでした。こんなご迷惑までおかけして。」
沈黙に耐えられずにフェシリアは声をかけた。するとノーフォーク公は微笑をやめて問いかけてきた
「体の具合がもう大分いいとか聞きましたが?」
フェシリアはハッとした。
(そうか、ヘンリーに聞いたのね。治ってきたなら早く出ていってほしいのだわ。)
「はい。有難い事に左足以外は大分良くなりました。これなら二月と言わず後一月もかからなそうです。」
「なるほど」
次の瞬間、目にも止まらぬ速さでノーフォーク公はフェシリアの左足首を上掛けの上から片手で掴んだ。
「いっ痛いっっ」
ノーフォーク公は緩めることなく力を込めていく。フェシリアはあまりの痛みに涙がこぼれ落ち、身をねじった。
「痛いっ痛いっ…うっ」
フェシリアの意識が薄らぎ出した頃、やっとノーフォーク公はフェシリアの足首から手を離した。フェシリアの左足首は熱いくらい痛み、体中から汗が流れ、涙が溢れていた。
「ふっ 完治はまだまだの様ですね。一月は無理でしょう。」
フェシリアは肩で息をしていた。息が荒れ返事は出来ない。
グレアム公はフェシリアの方に身を屈めて言った。
「あなたにはあんな事をした責任もある。二月後、夏には勇者ビィンセントを称える祭が街で開かれる。それが終わるまではこの館にいてもらう。わかりましたね?」
「はい…」
フェシリアはやっとの思いで返事をした。
満足したようにノーフォーク公はうなずいた。その目の奥は先程の氷とは違う色に輝いているように見えた。
「では」
そういうと、ノーフォーク公は扉の方へと歩きだした。
しかし、途中で思い出したという様に振り返ると
「明日、私の弟ルークと妹のティアが来ます。ビィンセント勇者祭まではこちらに滞在予定ですので、お願いします。ティアはあなたと同い年、話も合うでしょう。」
そういって部屋を出ていった。
フェシリアは痛む左足首を掴む事しか出来なかった。




