父ユリウスという人
トリスタン男爵家から帰る馬車の中は静かだった。
グレアムが長い沈黙を破った。
「フェシリア、大丈夫かい?」
フェシリアは考えがまとまらなかった。
ずっと姉だと思っていたエリザベスが父の子供では無い……。
いや、でも姉は姉なのよね。異父姉妹って言うの……?
エリザベスは父と母が結婚してから2年後に産まれている。ずっと不貞を働いていたの?
グレアムがフェシリアの手にそっと自分の片手を添えた。
「動揺しているよね。僕もだ」
「えぇ、何が何だか…。これから、父や母、エリザベスはどうなるのかしら…」
「それは、僕らにはわからない。けど、トリスタン男爵はエリザベスが実子でない事を知っていた。それでも、ずっと黙って可愛がって育ててきた。きっと放り出す様な事はしないと思うよ」
「…………」
フェシリアは複雑な気分だった。
エリザベスはいつも高飛車で意地悪だった。
嫌な思いをしたのも一度や二度じゃない。
けれど、まだ小さい時は遊んだりした事もあったし、別に不幸を願っていた訳では無い。
少したったら父に手紙を書こう。今はそれくらいしか思いつかない。
馬車はノーフォーク公邸への帰り道を走り続けた。
◆◆◆◆◆
グレアムとフェシリアの結婚式の準備は着々と進んでいった。
ヨーク別邸から来たウィリアム夫妻は日程を決めたり、招待客をリストアップしたり、ヘンリーやライラ他使用人達は、食事や泊まる部屋、馬車など色々な手配に大忙しだった。
嬉しかったのは、本来ヴィンセント勇者祭で帰る予定だったティアが結婚式まで日程を延ばしてくれたこと。ウェディングドレスを選ぶ時もアリツィア夫人とティアが一緒にみてくれた。
ルークは仕事の関係で帰ってしまったが、時々週末に顔を出してくれた。
毎日忙しかったが苦にはならないくらい楽しかった。
あの後、ウィリアム達と招待客の打ち合わせをしにトリスタン男爵が一度だけ顔をみせた。
打ち合わせが終わると「いやー有難うございました」と言ってちょこちょことフェシリアの横に来た。
「フェシリア、心配するな。母さんは今ドクターに見てもらって静養しとる。少しずつだが回復してる。お前の結婚式には出ると言ってた。安心しろ」
と小声で言った。
フェシリアは安心したが、もう一つ不安があった。
「エリザベスは?」
トリスタン男爵は頭をボリボリ掻くと
「エリザベスは…あまり、元気は無い。だが、大丈夫だ。あの娘は…なんてったってあのエリザベスだぞ。いつまでも落ち込んでなんかいるもんか!そのうち、あの時は静かで楽だったなぁってなるさ!」
そういって笑った。フェシリアもつられて笑った。
フェシリアは父とこんな風に笑い合う日が来るとは思わなかった。
父が本当は強い人で、家族想いだとも知らなかった。
(グレアムと婚約しなければ……何も知らないままだったかもしれない)
フェシリアはグレアムとの出会いに心から感謝をした。




